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ベンチャーに急接近する自動車業界 ホンダが目をつけた日本人ハーバードコンビ

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川端由美 (ジャーナリスト)

米国における自動車の聖地といえば誰もがデトロイトを思い浮かべる。しかし、コネクテッドカー(つながるクルマ)や自動運転の開発が急務となり、IT産業との協業も必要になってきていることから、世界中の自動車メーカーがシリコンバレーに拠点を構えるようになっている。早くからシリコンバレーに進出していたホンダはこれまで何をしてきたのか。HSVL(ホンダ・シリコンバレー・ラボ)を取材した。現在発売中の『Wedge6月号』では、「自動車産業が壊れる日」と題して、米国の自動運転開発の現状や次世代カーシェアなどについて、現地ルポを行い特集しています。こちらの書店や駅売店にてお買い求めいただけます。

 自動車業界の最新トレンドに、「シリコンバレーに研究開発拠点を構える」というものがある。トヨタ自動車は人工知能開発を担うTRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)をスタンフォード大学から徒歩圏のところに拠点を新設し、メルセデス・ベンツは300人規模の研究開発拠点をサニーベールにオープンさせた。VW・アウディはサンカルロスに、BMWはマウンテンビューにそれぞれ研究開発部門を置いている。

 「クルマがつながる時代」に突入し、自動車メーカーとしても、シリコンバレーから発信される情報にいち早くアクセスする必要が出てきた。また、自動運転の開発が進むに従って、シリコンバレーに拠点を構えるIT企業との協業が重視されてきているのも事実だ。

クルマよりネットにつながっていたい

 世界では、若い世代を中心に「スマホで使える便利な機能を、運転している間も安全に使いたい」という声が高まっている。実際、フォードは「この数年で全人口の80%がスマホを持つ時代になる」との予測を発表している。

 また、米国の調査では「自由に過ごせる時間のうち、47%の時間でスマホを見て過ごしている」、「ほぼ半数の人が、クルマよりネットにつながっていたい」という意見だ。米国では特に通勤渋滞がひどいため、運転中にメッセージのやりとりをしたり、SNSのチェックやポスティングができたりすればいいと思うのも当然だ。

 話をシリコンバレーに戻そう。ホンダは2000年と、比較的早い段階でシリコンバレーに進出している。HSVL(ホンダ・シリコンバレー・ラボ)が拠点を構えるのは、グーグルも本拠地を構えるマウンテンビューだ。

 ホンダの社内でも、HSVLについて詳しく知る人は少ない。住所を頼りに現地に向かうと、赤と白のホンダらしいカラーリングのエントランスが見えてきた。

IT企業の受付のようにタブレットにタッチして、約束の時間と人物を選択する。出迎えてくれたのは、シニア・プログラム・ディレクターの杉本直樹氏だ。日本の企業で働いた後、米国でMBAを取得し、ベンチャーキャピタリストとしての経験も持っている。


HSVL(ホンダ・シリコンバレー・ラボ)の杉本直樹シニア・プログラム・ディレクター(撮影:生津勝隆)

6兆円のアメリカ全体のベンチャー投資のうち
半分がシリコンバレーに投じられる

 「シリコンバレーにホンダが拠点を構える意味は、アメリカの、いえ、世界のベンチャー投資のど真ん中だからです。約6兆円のアメリカ全体のベンチャー投資のうち、半分がシリコンバレーに投じられていて、日々、起業家たちがスタートアップを立ち上げています。ニューヨークやボストンなどと比べても、圧倒的な規模を誇ります。2014年の日本のベンチャー投資は約1400億円で、その約半分が日本国内への投資ですが、シリコンバレーと比べると約40倍もの差になります。こうして生まれたスタートアップのほんの一部が大手に買収されたり、上場して大企業へ成長して成功するのです。」と、杉本さんは言う。

 シリコンバレー周辺にはスタンフォード、UCバークレーといったIT分野に強い大学があり、東海岸の有名校であるMITやハーバードからも起業家やアントレプレナーたちが渡ってきて、この地で投資を集めてベンチャー企業を起こしている。

 日本にいながら、数十億ドルの投資などというニュースを耳にしても、遠くの世界で起こっている出来事のように感じるが、ここシリコンバレーではそれが日常なのだ。HSVLでは、これぞと思うスタートアップと様々な形で協業しているのだが、自動車メーカーならではの方針がユニークだ。

 「一般的なベンチャーキャピタルと、HSVLが行うオープンイノベーションとの違いは、HSVLはベンチャー投資でお金儲けするのではなく、スタートアップやIT企業の持つ革新的な技術や新しいビジネスモデルにいち早くリーチアウトして一緒に協創することで、ホンダの製品やサービスを革新的に良くすることを目的にしています」と、杉本さんは話す。

具体的には、HSVL内にエンジニアを集めてハッカソン(「ハック」と「マラソン」を組み合わせた造語で、プログラマーやデザイナーが技術とアイデアを競い合う開発イベントの一種)を実施するといったことはもちろん、ユニークなアイデアを持つスタートアップが新しいセンサーやソフトウェアなどをクルマに組み込んでテストしたいといったときには、ベースとなる車両を提供したり、ホンダのエンジニアが組み込みのノウハウを教えるなどしたりもしている。ホンダの経営陣も、お客様にとっての価値に重きを置いて、いち早く世に出すという方針を打ち出している。

シリコンバレー流のUX

 「新車の開発には4〜5年もの期間を費やすのが一般的ですが、スマホは半年〜1年で新型が発表されますし、アプリのようなソフトウェアは1週間でアップデートされるなんてことも珍しくありません。しかも、シリコンバレーでは、自動車産業と違って、敵と味方がハッキリせず、メーカーとサプライヤーが協力体制を敷くこともあれば、時にはライバルになることもあります。

 例えば、スマホでは競争しているアップルとサムスンですが、部品レベルではサムスンの部品をアップルが使っています。一方、自動車産業では、自動車メーカーが頂点にあり、系列企業やサプライヤーが協力するといった開発体制が敷かれています。『走る』、『曲がる』、『止まる』はこれでガッチリとやっていますが、これからのクルマが『つながる』にはつながる相手があることが前提ですから、『独創的なアイデアで、ぶっちぎる』というホンダが得意とする流儀が通用しません。だからこそ、HSVLでは、ホンダ流ではなくイノベータとオープンに協業して、シリコンバレー流のUX(ユーザー体験)を重視したスピード開発を行っています」(杉本さん)

 確かに、自動車メーカーとシリコンバレーのベンチャー企業では、開発に対する姿勢も異なっている。自動車メーカーでは、お客様の生命や安全を第一に考えて、試験を繰り返して、完全に安全であるという前提で製品を世に送り出す。それに対して、テスラモーターズの例を挙げると、中型セダンの「モデルS」は、自動運転のプログラムが未完成の段階で発売がスタートしたため、自動運転に対応するデバイスを予め搭載した状態でお客様に手渡しておいて、ソフトウェアの開発が済んだ段階で、自動運転のソフトウェアをOTA(無線ネットワークを利用したアップデート)で配信するといった対応をする。こうした開発姿勢の違いを意識すること自体、シリコンバレーにいる意義の一つだろう。

「自動車メーカーは、『スマホは自動車のアクセサリーの1つ』と思っているのですが、シリコンバレーの考え方では、『スマホにいろいろなモノがつながるうちの1つがクルマ』であり、実際の接続仕様もそうなっています。シリコンバレー側から見ると、IoT(Internet of Things、あらゆるものをインターネットに繋ぐ構想)のデバイスとしてクルマがあるといった考えなのです」

 杉本さんが、面白い話をしてくれた。HSVLでは、Siri(音声認識型のパーソナルアシスタント機能を開発した企業)がまだ無名のスタートアップの頃からすでに車載したいと考えて、コンタクトを取っていた。ところがある日、「申し訳ないですがこれ以上、話せませんし、理由も言えません」と告げられ、まもなくアップルがSiriを買ったというニュースが流れた。

「Siri eyes free」

 ベンチャー投資が目的なら「しまった! 投資をしておくべきだった!」となりそうなものだが、HSVLでは違った。以前からSiriとやり取りしていた知見もあり、すぐにアップルにSiri搭載のiPhoneをホンダ車に持ち込むデモをし、協業の提案をしたのだ。これにより、音声とハンドルのボタンだけでメッセージの送受信や電話、音楽の再生などをコントロールできるハンズフリーコミュニケーション機能「Siri eyes free」を他社に先駆けて搭載できたのだ。

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