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【読書感想】「表現の自由」の守り方

「表現の自由」の守り方 (星海社新書) 「表現の自由」の守り方 (星海社新書)

内容紹介

私たちは、これからもマンガ・アニメ・ゲームを楽しみつづける!

児童ポルノ禁止法、TPPに付随した著作権非親告罪化、国連による外圧、「有害図書」指定、青少年健全育成基本法……日本が世界に誇るマンガ・アニメ・ゲームの表現は、たえず厳しい規制の危機にさらされてきた。しかし、争点を冷静に見極め、したたかに交渉を重ねていけば、必ず「表現の自由」は守ることができる――。本書は、参議院議員としてマンガ・アニメ・ゲームの表現規制を水際で食い止めてきた著者が、永田町の表と裏の舞台で行ってきた活動を明らかにするものである。単に「規制反対!」を大声で叫ぶのではなく、私たちの表現を守るために、一人ひとりにできることを共に探っていく座右の書。マンガ家・赤松健との特別対談を収録。

 そうか、こういう人がいたから、「表現規制」に対して、政治の世界で、一定の歯止めをかけることができたのか……

 僕はこの本を読むまで、山田太郎参議院議員のことを知りませんでした。

 それだけでも、僕の「表現規制の現状」に対する無知を再認識したのです。

 この本のオビには、赤松健さんの「君は知っているか? コミケを救った英雄を。」というコメントが書かれているのですが、これはけっして、大げさな宣伝文句ではないのです。


 この本の冒頭で、日本の隣国で起こった「事実」が示されています。

 じつは、海を隔てた隣国・韓国では、「アチョン法」と呼ばれる日本の「児童ポルノ禁止法」にあたる法律が2011年に改正され、アニメやマンガ、ゲームといった架空の児童を描いた創作物も、児童ポルノとして取り締まりの対象に当たるとされた結果、2012年には2000人あまりが逮捕されるという事態が現実に起こったのです。結果として、韓国のマンガ産業は壊滅に近い打撃を受けました。

 児童ポルノの取り締まり対象にマンガやアニメ、ゲームなど架空の創作物を含める。同様の内容は日本でも検討されていました。一歩間違えば、日本が同様の状況に陥っていたとしてもまったくおかしくはなかったのです。

 幸いなことに、日本では「架空の児童を描いた創作物」が取り締まりの対象となることは(現時点では)ありません。

 ネットでは「表現規制反対!」という運動が盛り上がっていましたが、政府側の説明では、「児童ポルノ禁止法の改正によって、『ドラえもん』のしずかちゃんの入浴シーンが規制されるようなことはない」とされていました。

 しかしながら、著者は、児童ポルノ禁止法の施行にともない、1999年の「紀伊國屋事件」で、日本の書店の最大手である紀伊國屋から『あずみ』や『バカボンド』『ベルセルク』といったマンガも「グレーゾン」として「自主的に」撤去されてしまったことを指摘しています。

 ちなみに、2015年に『映画ドラえもん 新・のび太の大魔境~ペコと5人の探検隊~』がテレビ放映された際には、しずかちゃんの入浴シーンがまるごとカットされたそうです。

 いやまあ、あの入浴シーンに「ストーリー上の必然性」があるのか、と言われれば、無くても構わないような気はしますが……


 僕は「表現の自由」を守りたいと思うし、実際の被害者がいない「架空のキャラクター」まで規制するのはやり過ぎだと思います。

 その一方で、「架空」とはいえ、明らかにモデルらしき人がいる場合もあるし、うちに女の子がいたら、近くで(架空のキャラクターとはいえ)少女を陵辱するようなコンテンツをニヤニヤしながら眺めているヤツがいたら、気持ち悪いだろうな、とも考え込んでしまうんですよ。

 日本の犯罪件数を経時的に眺めていくと、戦後の混乱期から、犯罪件数全体、そして、凶悪犯罪も、どんどん減ってきているのです。

 ただ、「ポルノ」が「ガス抜き」になって、性的な犯罪を抑制するのか、それとも、性的犯罪を助長するのかという結論は、それだけでは証明できません。

 ドラえもんの「もしもボックス」でもあれば「ポルノがある社会」と「ない社会」を比較対象できるのかもしれませんが、そんなことはできません。

 それは踏まえた上で、「証明できない」し、「少なくとも犯罪件数は増えていない」のであれば、「表現の自由」を制限する必要は、現時点ではない、と思うのです。

 自分の愛好するマンガとして『ゴルゴ13』『課長島耕作』『沈黙の艦隊』を挙げ、他方で「先ほどの資料に出てくるような、気持ち悪くて読む気にもならないような劣悪な表現」については、保護する必要もないし、「萎縮してもらいたい」とさえ口にする自民党議員。これはきわめて矛盾した行為です。

 犯罪にあたる行為が描かれた創作物を規制せよと言うのであれば、こうしたマンガだって問題視されなければおかしいはずです。『ゴルゴ13』は殺し屋が主人公の作品であり、『島耕作』は不倫を繰り返すサラリーマンの話で、『沈黙の艦隊』にいたっては原子力潜水艦と核兵器で武装したテロリストの話なのですから。

 結局のところ、自分の好きなものは規制する必要はない、自分が嫌いなものは規制せよ、と言っているにすぎないのです。


 山田議員がすごいのは、野党議員にありがちな(ように見える)「とにかく何でも反対!」というスタンスではなく、自民党議員に問題点を詳しくレクチャーし、対話によって、「落としどころ」を探っていくところなんですよね。

 この問題で、たったひとりの野党議員が、なんでこんなに大きな影響力を発揮することができたのか、というのは、山田議員がタフ・ネゴシエイターであり、「反対のための反対」ではなく、「日本のマンガ・アニメというコンテンツの価値とこの法案のリスクを指摘しながら、相手の面子も立つように配慮したから」なんですよね。

 交渉事をうまくやるためには「相手をコテンパンに打ちのめす」のが正解ではないのです。

 すべての議員が、マンガ、アニメに詳しいわけではないのに、いきなり、幼い女の子が辱められているマンガを見せられたら、「これはちょっと……」と思うのは、致し方ない面もある。

 そこで、「こんなこともわからないのか!」なんていきなり「こちら側の常識」で責めても、話がこじれるばかりで、まとまる交渉もまとまりません。


 僕は正直、この本の前半部を読みながら、「でも、この人って、人気取りのために、ネットに多くいる『表現の自由』を叫んでいる人たちに迎合しているだけなのでは……」なんて、ちょっと考えていたのです。

 でも、それは大間違いでした。

 私は児童養護の問題にもずっと取り組んでいて、性虐待に関して日本には対応部署がないという指摘も以前から耳にしていました。それが(2016年)1月19日の予算委員会で、官房長官がきちんと日にちまで決めてやると約束した。政府を動かすことができたわけで、政治家冥利に尽きると思っています。

 児童養護と表現規制の問題は裏表の関係にあります。

 マンガ・アニメ・ゲームを性虐待の原因にするというのはおかしい。本当に性虐待を問題視するなら、ちゃんと対策をすべきです。しかし児童の性虐待を理由に表現を規制しようとする側は、いっこうにそれをしようとしない。むしろ、アニメやマンガやゲームが性虐待の原因ではない、という調査結果を恐れて、正確な実態の把握に消極的なように見えます。実際に性虐待の被害にあっている子供のことなどどうでもよく、表現規制の口実にしたいだけなのではないかと思えてしまいます。

 だから、表現の自由を守ろうとする側こそ、根本の問題である性的搾取、性虐待の問題について、まっこうから受け止めて、きちんと対応するべきです。そうした問題がきちんと把握されれば、一体、何が性虐待の本当の原因なのか、アニメやマンガやゲームの影響なのか、ということもわかってくるでしょう。もちろん、性虐待の問題が解決されれば、マンガやアニメやゲームが批判されることもなくなると思います。

 これまで、国の「縦割り行政」の境界にあって、対応部署が無いまま放置されてきたということを、山田議員は公の場で指摘し、菅官房長官は「2016年4月」と期限を決めて対応部署をつくることを明言しました。

 山田議員は、「自分が好きなマンガやアニメを守ろうとする」だけではなく、それ以上に「児童の性的虐待という問題を解決する」ことを重視してきたのです。

 単なる「人気取り」じゃなくて、「子供たちの幸せ」について、しっかりと目を向けている。

 だからこそ、年長の与党議員たちも、山田さんの話に耳を傾けたのではないでしょうか。


 ネットで「表現の自由」を強く訴えている人は多いけれど、それでは「自分が好きなものを守ろう」というところで、思考停止してしまう。

 多くの人に理解してもらうには、表現規制というような間違った方法をとらなくても、「子供を守ることができる社会」をつくれることを証明してみせなければならないのです。

 それは、とても難しいことだと思うし、「嫌いだし、不快だからやめさせろ」を「子供を守るため」と言い換える人は、これからも出てくるだろうけど。


 国会議員には、こんな人もいるんだな、ひとりの議員の力で、ここまでのことができるんだな、と思いましたし、こういう人がいることを、もっとみんなが知ることで、少しでも、世の中は良い方向に行くのではないか、と僕も思います。

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