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これはジャーナリズムの生き残りをかけた戦いだ ――普通の産業として通用するメディアへ脱皮せよ

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 インターネット時代が到来し、新聞やテレビが衰退していることは、誰の目にも明らかである。しかしながら、既存のメディアに取って代わる新しいメディアが現れたのかといえば、それにも疑問を感じる昨今である。

 既存のメディアが、ジャーナリズム精神もネット社会に対する認識も欠けるなか、インターネット時代のメディアのあり方をどのように捉えていけばいいのか、この先新聞やテレビはどのようなポジションになるのか、またジャーナリズムの生き残りはあるのか、2000年1月からからインターネット放送局を立ち上げて、インターネット時代のジャーナリズムの実践に挑んでいるビデオジャーナリストの神保哲生さんにお話を伺った。

月刊マスコミ市民 (2011年2月 505号より転載)
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ジャーナリズムの担い手がいない空白の状態



 インターネットを語る場合、その概念を混乱しないように気をつけねばなりません。メディアは伝送路とコンテンツから成り立っていて、活字メディアには宅配網や書店網といった伝送路があり、テレビやラジオは電波が伝送路になります。インターネットという時、そのような伝送路、つまりインフラを意味しているのか、インターネットネットというインフラを使ってネット上でコンテンツ(番組や記事)を提供するコンテンツプロバイダー(CP)を指しているのかをめぐり、混同した議論が見られます。メディアとは、「媒介者」という意味でしかありませんので、「インターネットという新しいメディア」という言い方では、言っている人と聞いている人のイメージが一致しない場合がありますので、正確に述べていきたいと思います。

 インフラとしてのインターネットが登場するまで、既存のメディアはデリバリーパス(伝送路)が非常に少ない中、それを持っているだけでメディアとしての地位を確たるものにすることができました。希少性の高い伝送路を持っている(あるいは割り当てられている)ことが、メディアにとっては最大の特権だったわけです。しかし、誰でも利用できるインターネットという伝送路が登場したことで、伝送路を持っていることの特権的な価値が大幅に低下してしまいました。伝送路を持っているだけではメディアが成り立たなくなってしまったわけです。

 現時点ではまだインターネットにも回線の容量の限界などがあり、今すぐ放送に取って代われる状態ではありませんが、これは時間の問題で解決していくと思うので、事実上誰でも使える伝送路が無限に存在する時代が到来したと考えていいでしょう。この伝送路は無論、既存の放送事業者や新聞メディアも使えるし、新しくメディア事業に参入しようとする事業者や一般の人も使うことができます。そういう意味で、新しいインフラ(プラットフォーム)としてのインターネットが生まれ、それによって伝送路の希少性の上に成り立ち、その特権の上にビジネスモデルを構築していた既存のメディアは抜本的なビジネスモデルの改変を迫られているというのが、インフラとしてのインターネット登場の意味合いということになります。

 一方、いままで伝送路を手にすることができなかったために、不特定多数の人々に情報を発信する能力を持つことができなかった人々が、インターネットというオープンな伝送路を手にしたことで、CP(コンテンツ提供者)という意味での新しいメディアが生まれる素地ができてきました。元来コンテンツは、新聞・テレビ・雑誌の独壇場でした。それは彼らだけが伝送路を持っていたからです。例えば、テレビの番組制作会社は昔からありましたが、独自の伝送路を持たない制作会社はテレビ局の下請けとして番組を作ってテレビ局に提供するしかなかったため、基本的にはテレビ局の言いなりになるしかありませんでした。日本の放送法では制作会社や外部の事業者が、一定時間電波を買い取って放送することはできません。また新聞においても、外部の事業者なり団体なりが、何ページかの紙面を買い取って自分たちの発信をすることはできません。あるとすれば、広告枠を買うしかありませんでした。つまり、ほんの一握りの放送局や新聞社を除き、伝送路を持っていない人たちは自分達の編集判断でコンテンツ(記事や番組)を発信する手段を持っていませんでした。コンテンツをコントロールする権限をもつ人は、マスメディアの中の、ほんの一握りの編集局幹部だけで、その意味ではその影響の大きさを考えると、その人たちの権限はあまりにも絶大でした。このように事実上ごく少数の人が支配しているメディアは、必ずしも健全な状態にあったとは言えなかったと思います。これまでのメディアは伝送路の希少性ゆえに、伝送路を持っている一握りの事業者がコンテンツまで支配をしてしまうことになり、実は決して民主的な存在とは言えない代物だったと言っていいでしょう。

 インターネットという新しいプラットフォームの登場は、もしかしたら世界の三大発明の一つであるグーテンベルクの活版印刷をしのぐ重要性を持つものかもしれません。活版印刷は、同じものを複数印刷することを可能にしましたが、最後の伝達は「紙を配る」という既存のデリバリー方法に依存するしかありませんでした。それに対して伝送路が無限化したことは、長い間伝送路の呪縛に縛られていたメディアが解放された瞬間であり、歴史のなかでのメディア革命でした。それは、個人のブログやツイッター、活字・音声を問わず様々な市民メディア、また私たちのような放送局を開設することなど、そこに参入できる数は事実上無限になったのです。そして、今、CPとしての新しいメディアが、次々とインターネット上に生まれています。

 インターネットの登場で誰もが伝送路を持つこと、つまり発信が可能になり、既存のマスメディアの言いなりにならなくても、多くの人に情報を発信することが可能になりました。長年の課題だった、新しいメディアの登場や個人の発信が可能になり、市民社会は特権階級のみが発信する情報ではない、より多くの言論に触れる機会を得たのです。しかし残念ながら、新しいCPは私が主催しているビデオニュース・ドットコムも含め、特にジャーナリズムの分野では、まだまだ既存のテレビや新聞にとって代わる存在にはなり得ていないと私は考えています。これまで公共的なジャーナリズムのルールやノウハウが、長年既存メディアに独占されてきたために、それが既存のメディアから外にほとんど広がっていないことに一つの原因があると思います。新しくメディアをはじめようと意気込んでみても、基本的なジャーナリズムトレーニングを積んだ記者やジャーナリストがオープンマーケット(既存のマスメディアの外)にはほとんど存在しないため、その担い手医がいないのです。仮に視聴者や読者が喜ぶような面白い情報を発信することができたとしても、ジャーナリズムの基本的な価値であるところの信頼性や正確さ、中立性などに欠けることが多いようです。既存のマスメディアは幾重にも特権によって守られているので、ビジネスモデルは事実上崩壊しているにもかかわらず、まだ給料もよく、終身雇用も維持されています。そのため、既存のマスメディアからそのノウハウが新しいメディアやフリーランスのマーケットに流出してきません。かといって、新しくゼロから記者を育成することは、決して容易なことではありません。

 しかし、新しいメディアの立ち上がりが遅れる一方で、既存のメディアの崩壊は猛スピードで進んでいます。特にジャーナリズムの担い手としての既存メディアの凋落ぶりは、今や目も当てられない状態にあります。電波や宅配網という高い参入障壁と、記者クラブや再販制度などの大きな既得権益に守られているため、企業体としても目の前に出現したインターネットという新しいプラットフォームを活用することよりも、自分達の既存の既得権益を守ることの方が、少なくとも年配の経営陣にとっては優先事項になっているように見えます。そして、日本では死に行くオールドメディアがジャーナリズムの基本的ノウハウを独占しているため、なかなかオールドメディアの外に、それに取って代わることができる新しいメディアを構築できる環境が整わないのです。

 新たなメディアが登場し、古いメディアに退場を迫るのであれば、古いメディアが体現してきた基本的な機能は、新しいメディアがそれに取って代わるので何の問題もありません。しかし、必ずしも新しいメディアが育っているわけでもないのに、新聞・テレビが崩壊の危機にあることは、重大な問題を引き起こします。それは少なくとも新しいメディアが既存のメディアに取って代われるような状態が作られるまでの間、これまで既存のメディアが不十分なりに果たしてきた、権力チェックや公共的なアジェンダセッティング(想定や対立点の設定)といったジャーナリズムの基本的な機能が、社会から失われた状態ができてしまうことです。この空白、いわばバキューム(真空)状態は、権力のチェックという意味においても、公共的なアジェンダ(争点)の設定という意味においても、非常に危険な状態にあると、私自身は深刻な危機意識をもっています。

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