記事

「『性』に関する社会的な議論を増やしていきたい」- 「セックスと障害者」著者・坂爪真吾氏インタビュー

1/2

今年3月に起きた乙武洋匡氏の不倫騒動をめぐっては、同氏の参院選出馬や倫理的な問題に加えて、「障がい者の性」という観点からも議論が巻き起こった。

「障がい者」と「性」は共にデリケートなテーマであるため、これまでメディア上でも多く語られてこなかったが、その実態はどのようなものなのだろうか。男性の重度身体障がい者を対象に射精介助サービスを行う一般社団法人ホワイトハンズの代表を務め、「セックスと障害者」を上梓したばかりの坂爪真吾氏に話を聞いた。(取材・執筆:永田 正行【BLOGOS編集部】)

『性』だけが必要以上にアングラ化された現状に違和感

大学時代にゼミで性風俗産業についての研究をしていた坂爪氏は、渋谷の円山町や新宿の歌舞伎町で、実際に風俗で働く女性や利用者、経営者にインタビューをしていたという。こうした活動の中で痛感したのは、性風俗に代表される「性」に関する産業の多くが、社会の表舞台に出ることができないものである、ということだった。

「『性』というのは、人間の基本的な欲求で、食事や睡眠とほぼ同列のものです。にも関わらず、『性』だけが必要以上にアングラ化されて、一般の人が安心して、日常生活の中で利用できる制度やサービスがほぼない状態になっている。

過剰に商業化された『性』の世界で行われていることを、社会的に意義のある形にすることができれば、多くの人が助かったり、救われるのではないか、とずっと考えていました」。

介護や福祉の授業も履修していた坂爪氏は、この領域に、まだ顕在化していないニーズがあるのではないかと考えた。そして、2008年に重度の男性身体障がい者(手足を動かすことができず、自力での自慰行為が不可能)を対象に、訪問介護の枠組みで射精介助を行うホワイトハンズの活動をスタートさせる。

障がい者も健常者も性に関する悩みの質はそれほど変わらない

「障がい者」と「性」は、どちらもメディアにとって非常にセンシティブなテーマだ。障がい者には「純粋無垢な天使」「可哀想な人」といったステレオタイプなイメージもつきまとう。そのため、彼らが「性的な欲求を持っている」という当たり前の事実すら語られづらい現状がある。だが、「障がい者が抱えている性への欲求や悩みは健常者とそれほど違いはない」と坂爪氏は語る。

「健常者と大きくギャップがあるわけではなく、みんな同じように、悩んだり、モヤモヤしているのです。

例えば、40代の重度の身体障がいの方の事例ですが、その方は結婚していて、お子さんもいるのですが、セックスレスで悩んでいる。そこで奥さんの留守中に内緒で、スタッフを呼んで介助してもらうというケースがあるのです。夫婦間のセックスレスというのは、ある意味、どんな夫婦にも起こる話です。そういう意味では、健常者と『全然変わらないな』と思いました」。

ただ、こうしたホワイトハンズの活動も、すべての方面からスムーズに受け入れられたわけではない。

「施設で暮らしている方から、利用したいという依頼が来るのですが、スタッフが行ってみると、職員に断られてしまうというケースがありました。『うちの利用者には、そういうニーズはないから』と、勝手に職員の方が利用者を代弁して、門前払いしてしまう。これは完全にダメだろうと思うんです。当事者の意志が一番重要であって、周りが勝手に本人の性を代弁することはできません。同じように『母親と同居をしているから、うちには呼べない』ということは、今までたくさんありましたね」。

それでも現在と活動を開始した当初を比較すると、社会問題とのひとつとして認知され語られやすくなってきた実感があるという。

「ホワイトハンズの活動が継続していることもふまえて、メディアの中でも、それほど“タブー”でもなくなってきているように感じています。

先日の乙武さんの不倫についても、『障がい者だから…』というよりも、人間として批判されていました。障がいのある人が、普通に不倫して、普通にバッシングされる。ある意味で健全な社会なのかなと思いました」。

「感情的なモヤモヤ」を超えるために必要なもの

障がい者の性の問題に対するフォローが必要なことは理解できたとしても、「性」というテーマを「ケア」という文脈で語ることについて、違和感を覚える人も多いだろう。こうした“モヤモヤした気持ち”をどのように超えていけばよいのだろうか。

「『性をケアと言っていいのか』という問題は、確かにあると思いますね。自慰行為ができないつらさというのは、当事者になってみて、やっと分かるという部分もあるでしょう。なので、そうした“モヤモヤ”は、実践の中で超えていくしかない。

例えば、介護保険も当初は、『介護は家族がやるもの。他人に任せるのは恥ずかしい』という意識が根強くありました。しかし、介護保険制度が出来てから、15年以上経って、そうした意見も弱まってきていると思います。ですから、制度が整備されて、それを多くの人が利用するようになれば、感情的な“モヤモヤ”感も薄れてくるのではないでしょうか」。

実際に、行政もこうした社会課題の存在は認識しているという。

「厚労省の方たちと話しているとわかるのですが、彼らは障がい者にも当然性欲があって、そこに対するケアが必要だということは認識しています。しかし、こうした課題に、どのようにアプローチすればいいのかという政策レベルに落とすことは出来ていない。だからこそ、我々が解決策を実践して、制度的に提案していきたいのです。

これまでのホワイトハンズの活動を通して、問題を認知してもらうだけではなく、『問題に対してしっかりとソリューションを出していけば、大丈夫』ということをある程度示すことができたと思っています」。

あわせて読みたい

「障害者自立支援法」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    豊田議員擁護した松本人志の限界

    小林よしのり

  2. 2

    読売新聞 社説で政権擁護を反省?

    PRESIDENT Online

  3. 3

    裏に利権 東京五輪に不可解判断

    WEDGE Infinity

  4. 4

    勝谷氏 知事選でイメチェンは損

    大西宏

  5. 5

    日本品種のイチゴが韓国に流出

    中田宏

  6. 6

    獣医学部めぐり総理が自爆発言

    郷原信郎

  7. 7

    つり目ポーズ 外国人に悪意ない?

    NewSphere

  8. 8

    NHKクロ現 政治部VS社会部で火花

    NEWSポストセブン

  9. 9

    特区"1校限り"に圧力団体の存在

    渡海紀三朗

  10. 10

    都内 昔ながらの固めプリン4選

    メシコレ

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。