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「炎上もあるけれど、記者はSNSをやったほうがいい」 毎日新聞・小川一取締役インタビュー(前編)

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ネットニュースの最大手・Yahoo!ニュースは今年2月、記事の配信元であるメディア各社を東京都内のホテルに集め、今後の運営方針を説明するカンファレンスを開いた。その懇親会で、乾杯のスピーチをまかされたのは、毎日新聞のデジタル戦略を担う小川一取締役(57)だ。1996年にスタートしたYahoo!ニュースの草創期から、毎日新聞は中心的なメディアとして記事を提供してきた。そのことを象徴する小川取締役の挨拶だった。Yahoo!ニュース開設から20年がたち、ニュースの世界も様変わりしている。新聞社の経営は厳しさを増しているように見えるが、新しい潮流の中で、どのような戦略を描いているのか。小川取締役にじっくり話を聞いた。(取材・構成/亀松太郎、撮影/大谷広太)

・後編:「デジタルに強い記者から出ていってしまうのは辛い」

■日本の新聞社がつぶれないのはなぜ?

――小川さんの過去のインタビュー記事を読むと、入社した1981年のころ「毎日新聞はつぶれるのではないか」と言われていた、という話が出てきます。実は、私が大学生として就職活動をしていた1994年のころも「毎日新聞は経営的に大変で、そのうちつぶれそうだ」と言われていました。でも、それから20年以上たった今も、毎日新聞は生き残っている。変な質問ですが、なぜ、毎日新聞はつぶれないのでしょうか。

小川:分厚いコアなファン層があり、親子三代で毎日新聞を取っていただいている人も多い。そこが崩れないというのが、ずっとあったのだと思います。もう少しクールに言うと、新聞販売店の「戸別配達網」を通じて売るという日本の新聞のビジネスモデルは、大阪毎日新聞などが作ったとも言われているのですが、非常によくできている。このモデルが生み出した「ご利益」が今も続いているということだと思います。

――毎日新聞出身のジャーナリスト、佐々木俊尚さんがかつて『2011年新聞・テレビ消滅』という本を出しました。その2011年から5年たちましたが、まだ新聞は消滅していないですし、主な新聞社もつぶれていない。アメリカでは多くの新聞社がつぶれましたが、日本ではそういう状況は起きていないようですね。

小川:私は販売局にもいたことがあるのですが、日本の新聞がなんだかんだと言われながらも崩れないのは、毎月、読者の講読料が現金で入ってくるのが大きい。いわば、ずっと読者から「輸血」してもらっているんですよ。日本の新聞というのは、ありがたいことに販売店からお金がキャッシュで入ってくる。キャッシュフローが成立しているから、毎日新聞も生きていけるし、他の新聞社も一気につぶれるということがないのだと思います。

――小川さんは現在、総合メディア戦略、デジタル担当の役員ということですが、具体的にはどんなことを担当しているのでしょうか。

小川:まず、有料課金モデルの読者を増やすこと。数字は未公表ですが、有料課金はかなり順調で、手ごたえがあります。日経さんに比べるとまだ小さな数字ですが、確実に増えています。デジタル有料課金が紙の落ち込みを補って、それを乗り越えるぐらいの数字に育てることが一つです。それから、動画。海外向けの中国語版や英語版の動画を作ったり、「注目ニュース90秒」という動画でデスクに解説させたりして、動画ジャーナリズムの時代を切り開いていく。

さらに、海外。日本の1億人のマーケットだけでは先が見えている。毎日新聞の場合はいろいろな海外の提携紙もあるので、そことコラボレーションしながら海外へもマーケットを広げていく。4月からはウォール・ストリート・ジャーナルと提携し、「デジタル毎日」の読者には追加料金なしで、同紙を読んでもらえるようになりました。これも海外に目を向けてもらう契機になると考えていますし、実際に読者の増加に貢献しています。

――毎日新聞の電子版である「デジタル毎日」は、昨年6月に有料課金がスタートして、もうすぐ1年ということですが、どんな内容ですか。

小川:毎日新聞の場合、すでに紙面を購読している方は無料でデジタル版を読めるようにしていて、それ以外の方からお金をもらっています。これまで届いていなかった人たちに「毎日ジャーナリズム」を理解してもらい、読者になってもらおうというチャレンジングな取り組みだと考えています。

――現時点ではまだ、有料課金の会員数や売上は公表されていません。たとえば、開始1年といったタイミングで公表するという考えはあるのですか。

小川:そもそも公表の必要があるのかという問題はありますが、もしするとしたら、「デジタルの中のジャーナリズムはどうマネタイズしていくのか」という議論を共有できるような場で、数の大小というよりはジャーナリズムの将来の姿を展望しながら、一緒に話し合いたいと思っています。数字が独り歩きしてしまうと、あまり意味がない。「デジタルの中で新聞はどう生きていくか」という価値観や文脈を共有できる場で、言うときがあれば言おうかなと思っています。

■本当の「デジタル・ファーストの新聞」とは?

――小川さんはTwitterを盛んにやっていて、デジタルの感覚もあるのだと思います。ただ、他の新聞記者と接していて感じるのは、紙の新聞の一面を飾る記事を書くことを目標にしていて、「ネットに記事を出すのは二の次だ」と考えている人がまだまだ多いのではないか、ということです。これからは新聞記者も、ネットを意識しながら取材するという頭がないといけないと思うのですが、そういう記者はかなり少ないと思います。その点については、どうでしょうか。

小川:ものすごく少ないでしょうね(笑)。私なんかは「変わっている」と言われているタイプです。ただ、徐々に変わってきています。私が編集編成局長のときには、それぞれの編集局次長に「毎日新聞ニュースのとびら(@Mainichi_tobira)」というアカウントでTwitterをさせて、反応を見るようにしました。

それから「注目ニュース90秒」。これはYahoo!さんが買ってくれるようになったので売上にもなっていますが、各デスクは、自分が出た動画やほかのデスクが出た動画を見ると、再生回数がはっきりわかるわけです。ユーザーの反応を見ることで、意識が変わりつつあります。変わり始めると、一気に変わると思います。

――ユーザーの反応を意識するということですね。

小川:さらに、本当の意味での「デジタル・ファーストの新聞」が作れるかどうか。たとえば、(紙の新聞の発行時刻を無視した)午後3時ごろ、ネットで特ダネをガンと打ってしまう。紙では、その記事への反応も含めて書く。「紙の一面トップでやった!」というのはやめて、記事の内容がまとまった段階で出していく、と。

――つまり、紙の新聞の締切とは関係なく、ネットで先に記事を出してしまうということですね。

小川:そこを乗り越えられるかどうかが、テーマです。グローバル化すれば、世界の新聞は記事の内容が決まった段階で出してくる。紙は、その途中経過として出すわけです。その発想にいけるかどうか。それが次のステップだと思っています。

――まだ、その段階までは行っていないというわけですね。

小川:それをやろうとしたら、大反対になります(笑)。紙の設計思想の中にいますから。

――たとえば一つの案として、デジタルの有料会員は、紙の新聞が出る前にネットで特ダネ記事が読める、というのはダメですか。

小川:そこはまさに意識改革です。今の記者は、紙の新聞で特ダネを書いて、記者クラブの他社の記者が驚いたら「やったぜ!」となっている。ネットで悪口を言われても「それはネットの話だよ」と切り離しているので、どうしても現実感がわかない。

アメリカの記者は全然違います。ネットのほうを見ています。先日、ニューヨークのウォールストリートジャーナルに行ったのですが、大きなモニターがあって、記事の評価や反応がどれくらいなのかがわかるようになっていました。それが普通になっている。自分の書いた記事が1面トップになっても、反響がなければ恥と考える心境が生まれているわけです。

――ネットの反応といえば、ページビューだけでなく、ソーシャルメディアでどれだけ反応があったのかも重要です。小川さんはTwitter(@pinpinkiri)で積極的に発信していて、フォロワーが約1万7000人もいますが、FacebookやLINEなど、それ以外のソーシャルメディアの活用はどうでしょうか。

小川:Facebookもやっていますが、Twitterと連携しているので、内容はTwitterとほぼ同じです。InstagramとVineもやっています。LinkedInも登録していますが、そこまでやると、さすがにわけがわからなくなりますね(笑)。

――LINEはどうですか。

小川:大学などで教えている学生とのやり取りは、すべてLINEですね。学生たちは「メールはいちいち文章をきれいに書かないといけないので嫌だ」と言うわけですよ。「相談したいことがあったらメールで送って」と学生に言ったら、「メールを書くのに1時間半かかった」と言われました(笑)。

――LINEは最近、ニュースのプラットフォームとしても注目されています。毎日新聞もLINEで記事を出していて(@oa-mainichi)、数十万以上のフォロワーがいますね(5月上旬の時点で約75万人)。コンテンツのパブリッシャー(発信者)として、LINEとの関係をどう捉えていますか。

小川:一つは、10代、20代に届けたいということですね。朝日新聞(@oa-asahishimbun)のほうがちょっと多いですが、それと同じくらいのフォロワーがついています。「朝日新聞がLINEでこれを出してくるなら、うちはこれを出そう」などと考えながら、競争しているわけです。反応を見ながら毎日出していくのは、勉強になります。NHKの調査によると、20代で新聞を手に取っている人は数%しかいない。そんな中で、若い人とつながっていくのは非常に魅力的です。

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