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「メリーズが買えない!」中国人のネット爆買いを追う 口コミ作りのステマも横行する越境EC - 高口康太 (ライター・翻訳家)

 自国製、自国民の検品に対する不信感から、国境を超えたECでも〝爆買い〟している中国人。個人を中心に急拡大してきたことで、メーカーだけでなく物流企業も動き始めた。

10兆円を超える巨大市場

 2015年の新語・流行語大賞に選ばれた「爆買い」。日本への買い物旅行を意味する言葉だが、中国でもう一つの「爆買い」がブームとなっている。それが越境EC(電子商取引)だ。ネットショッピングを通じた海外製品の個人輸入を意味するが、10兆円を超える巨大市場になっている。ブームの影響は個人による輸入代行から企業まで広がってきた。

 「ドラッグストアを車で回ってオムツを買い占めていました。花王のメリーズです」

 そう話すのは20代前半の中国人留学生。15年初頭までドラッグストアなどの小売店を回って、中国人に人気のオムツや化粧品を購入、ブローカーに転売する仕事に従事していたという。

 ドラッグストアの紙オムツのコーナーでメリーズの棚だけ空っぽになっている光景を見たことはないだろうか。その理由は彼らのような越境ECの買い付け代行業者にある。

 「オムツの場合だと1パッケージあたり200~300円をプラスして買い取りしてくれました。友人の車でドラッグストアを回っていましたが、1日に30軒、150パッケージを買ったこともあります。1日あたり3万円以上の収入です。友人と2人で分けても割りのいいアルバイトでした」と話す。

 貿易商社を営む孟建軍さん(仮名)は買い付け業者が小売店を回って買い集めた商品を買い取り、中国へと送っていた。孟さんは「最盛期には集まったメリーズ1万2000パッケージを3つのコンテナに詰め込んで中国に送っていたこともある」と語る。

 メリーズを製造する花王の広報部は、「一時期に比べれば買い占めは減り、増産で空っぽになることもなくなっている」とする。花王の15年12月期連結決算はメリーズの売り上げが好調なことも一因となり、純利益988億円と最高益を更新した。今期も1000億円の大規模な設備投資を計画し、紙オムツの国内生産を増強する方針だ。

 小売店では中国人に人気がある大型のサイズで品薄が続く。ドラッグストア大手「くすりの福太郞」の営業担当者は「中国人の買い付けでメリーズの一部品種に欠品が出ないよう、販売を規制して調整している」と語る。

 日本人の中にも越境EC事業を営む人々がいる。中国でベビー用品のネットショップを経営していた内田信さんは、ブームを受け中国EC企業向けの卸売企業を設立。初年度の14年だけで5億6000万円を売り上げた。

 個人で取り組んでいるのが増山智明さんだ。15年1月からECサイト「淘宝網(タオバオ)」で本格的に個人ショップ運営に取り組んだが、初年度の1年間で2000万円の売り上げをあげた。「チャットで1日に20~30件くらいの問い合わせに対応している。10元まけろという相談から、日本を訪問するのにあわせたSIMカードの販売まで、細かいニーズに応じて顧客を増やしてきた」と語る。

口コミを作る難しさ?パワーブロガーを詣でる

 人気なのはメリーズに加え、資生堂の日焼け止め「アネッサ」、MTGの美顔器「リファカラット」、花王のホットアイマスク「めぐりズム」などだ。現在売れている商品のほとんどは口コミやネット情報によって人気を得たもので、偶然の要素が強い。

 ブランディング戦略の主流となるのが「パワーブロガー」を使ったSNS広告だ。現在、中国では「網紅経済」(ネット有名人エコノミー)という言葉が流行している。テレビや新聞、雑誌などの伝統メディアよりも、SNSや動画サイトで数十~数百万のフォロワーを持つパワーブロガーのほうが消費者に強い影響力を持つとされる。ベンチャーファンドがブロガーに融資する事例も相次いでおり、16年1~3月だけで5830万元(約10億円)がパワーブロガーに融資されたと中国メディア・投資界は報じている。

 日本では中国進出支援のコンサルティング企業が乱立しており、「まずは50万元かけましょう」などの言葉で、いずれもこのSNSマーケティングを推奨している。

 しかしネット有名人を使ったマーケティングは多くの企業が行っており、そう簡単に効果はでない。フォロワー数や閲覧回数の偽装も横行している。

 日本でもステマ(ステルスマーケティング)が問題になっているように、仲介企業やネット著名人の真贋を見分けるのは至難の業。日本在住の著名SNSユーザー「林萍在日本」さんも「私自身が良いと思った商品だけだが、日本企業に頼まれて微博(ウェイボ)で広告を〝つぶやいた〟ことがある。ただ粗悪品の宣伝をするパワーブロガーが多く、中国人消費者がSNS広告に反応しなくなる日は近い」と語る。

いまだぬぐえぬ?中国国内製品への不信感

 「子どもにはお金がかかっても仕方がないですよ」と話すのは昨年出産したばかりの王亜男さん。「最近も温度管理されていないワクチンが流通していたという事件がありましたが、中国にはニセモノや粗悪品が多すぎます。子どもにはちゃんとしたものを与えたいんです」。

 越境ECで紙オムツ、ベビー服、哺乳瓶、さらには妊娠中に着用する電磁波遮断エプロンまで買いそろえたのが孫毅さんだ。ほぼすべて日本製でそろえたが、福島原発事故の影響を恐れて粉ミルクだけはドイツ製にしたという。確かに値段は中国製よりも高いが、中国に進出している日本の百貨店と比べればリーズナブルだと語った。

 中国製品、とりわけベビー用品に対する不信感を募らせたのが08年のメラミン混入粉ミルク事件だ。樹脂の原料となるメラミンを生乳に添加することで、タンパク質含有量が高く検出されるようごまかしていた事件だ。5万人もの乳幼児が腎結石などの健康被害を受けた。事件後、粉ミルクをはじめ海外製のベビー用品の需要は一気に高まった。

 日本製の人気に、日本の物流企業も目をつけ始めた。ヤマトホールディングスは5月から中国EC大手「京東集団」と提携した越境EC支援サービスを開始する。これまでも中国郵政集団傘下の企業と提携して、日本メーカーから中国消費者までを直通する物流サービス「ヤマトチャイナダイレクト」を提供していた。

 今後は自前では越境ECサイトに出店できない企業向けに、京東集団の運営する越境ECサイト「京東全球購(JDワールドワイド)」で商品だけ出品する場を提供して、「ヤマトチャイナダイレクト」の更なる収入増を狙っている。一方日本郵政はファミリーマートと提携、ファミリーマートの海外店舗を拠点とする越境EC支援を実施する。

 中国国家統計局によると、13年の越境EC輸入額は3658億元(約6兆2200億円)。これが14年には1・5倍近い5320億元(約9兆500億円)へと跳ね上がっている。今後も成長が続き、17年には1兆2960億元(22兆300億円)に達すると予測されている。

 急成長を実現させたのが中国EC最大手アリババの「天猫国際(Tモール・グローバル)」、2位の京東集団のJDワールドワイドなど大手EC企業による越境ECサイトの開設だ。彼らが目をつけたのは保税区を使った越境ECのスキーム。保税区に海外から商品を持ち込む時点では関税がかからないことを利用し、各EC企業は、ネットショップを通じて注文を受けると、保税区の倉庫から宅配便で発送する。

 消費者から見れば、越境ECとはお手軽かつ比較的安価に信頼性の高い海外商品が購入できる仕組みだ。海外企業にとっても低コストで中国向けビジネスを展開できるというメリットがある。輸入販売や物流にかかわる新興企業が続々誕生し、新たな雇用を生み出す効果もある。

 一方で越境ECは中国企業、小売り業の需要を奪う存在でもある。中国の李克強首相は3月の全国人民代表大会政府活動報告で越境ECは成長スポットとして言及しつつ、あくまで輸出促進という観点にとどまり、輸入については触れなかった。

中国政府が狙う「インターネット・プラス」

 中国政府は新たな成長分野として「インターネット・プラス」を提唱し、ITを活用した新たな産業の保護、育成に努めている。越境ECもその一つだ。しかし業界関係者は保護から規制へと政府の方針が急変する可能性もあるとの不安感をぬぐいされないできた。

 転売を目的として大量に商品を仕入れても関税を逃れていること。越境ECによる輸入が昨今問題となっている資本流出につながること、そして中国小売業の売り上げを奪っていること。この3つの理由があるだけに規制に転じても不思議ではないと考えられてきた。

 実際に中国国家外貨管理局は1月から、中国国内に口座を持つ人々が持つ「銀聯カード」で、海外において外貨を引き出す際の上限額を、最高10万元(170万円)までと規制。ついに引き締めが始まったとの警戒感が高まった。
そして4月8日、越境EC業界に大きな反響を呼んだ新規定が導入された。財政部、税関総署、国家税務総局連名の通達だ。まず行郵税が従来の10~50%から15~60%に改訂された。 保税区スキームを使った越境ECにおいて、今後は行郵税を適用せず、国内取引同様に増値税、消費税(奢侈税)を支払うことが求められる。ただし税率は国内取引の70%と低く抑えられたため、12~33%程度となる。

 影響が大きいと見られるのは付帯条件で、税額50元以下の商品への非課税措置が撤廃された。これまでは税額20%の品種の場合、売値250元までの商品は非課税となってきた。撤廃によって人気であるの日用品の価格が10%以上上がることになる。

 またポジティブリストが導入され、保税区スキームが適用できるのはリストに記載された品種のみと規定された。加えて化粧品に関しては事前に当局への登記が義務づけられたため、海外で販売されている商品をそのまま輸入できるという「手軽さ」が失われてしまった。煩雑な登記を避けて、日本からの直送が再び主流になる可能性もある。

抜け穴はいくつでもある

 「越境EC壊滅の危機」と報じる中国メディアもあるが、前出の貿易商社を営む孟建軍さんは「銀聯カードは中国国内のあらゆる銀行、家族の名義などを使えばいくつでも作れる」と意に介さない。別の業界関係者も「化粧品登記の問題でも抜け穴はある」と発言した。

 規制がかかっても抜け穴を必ず見つける中国人たち。突発的な政策変更によって一時的な混乱はあったとしても成長のチャンスはあると確信しているようだ。中国政府系機関の中国インターネット情報センターの報告書『中国インターネット発展状況統計報告』(16年1月)でも越境ECは今後年60%のペースで成長を続けると予測している。

 大きく人民元安にでも振れない限り、中国人による越境ECブームに終わりは見えない。

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