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フィンテックがベンチャーに追い風な理由 - 渡邊竜士 (トムソン・ロイター・マーケッツ株式会社 執行役員)

盛り上がる世界のベンチャー市場

 意欲と志は充分にあるが資金とビジネス経験が無い起業家(ベンチャー企業)に投資をし、創業初期段階での成長をサポートする ’ベンチャー投資’ が世界で注目を浴びている。世界全体におけるベンチャー投資額は年々増加傾向にあり、昨年は1102億ドル(約13.2兆円)で、ITバブルピーク(2000年)の1366億ドル(約15兆円)へ迫っている。

 ベンチャー起業(誤植ではなく、あえて’起業’)に環境が整っている都市として、世界ベンチャー投資の約6割(666億ドル、または約8兆円;2015年)を占める米国のシリコンバレー、ニューヨーク、ロサンゼルス、ボストン、シカゴ、シアトルの他、テルアビブ、ロンドン、ベルリン、シンガポール、パリ、サンパウロ、そしてバンガロール等も注目を浴びている。


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 一方、昨年の日本におけるVC投資額は5.78億ドル(約693億円・トムソン・ロイター集計)で、2002~2013年頃よりは2~4倍になっているものの、ITバブルピーク時の20.5億ドル(約2257億円)の約3割水準でしかない。その規模は世界第3位のGDPやODA(政府開発援助)支出が150~200億ドル/年の国としては異質だ。中国におけるVC投資額385億ドルと比較しても差は明白だ。

 一億総中流社会を目指して傾斜生産方式や所得倍増計画を掲げ、高度成長期やバブル経済を味わった日本文化にとって、創意工夫とリスクへの挑戦(=起業)が浸透するには時間が必要だ。ずいぶんと前から官公庁や業界団体があの手この手で起業・ベンチャー企業の育成に力を入れているが、世界水準とのギャップは大きい。

エコシステムの創造・整備・拡大に向けて

 このコラムで紹介してきたフィンテック(金融とIT技術の融合)企業も多くがベンチャーだ。日本で急速に高まったフィンテックへの関心は、前述の(ベンチャー業界の世界水準との成熟度)ギャップを埋める良い機会ともいえる。

 鶏が先か卵が先か? そんな悠長なことではなく、ベンチャー企業を取り巻く全方位的な「エコシステム」(生態系連鎖・循環、事業連携協業等)の創造・整備・拡大が必要なのだ。フィンテックの場合、規制監督業種である金融業との関わり合い、大手伝統的金融機関との連携、等の理由から特に「エコシステム」形成の必要性が急務だ。

 幸い日本でもフィンテックへの関心が急騰し、VC投資会社、金融機関、IT・情報企業だけではなく、コンサルティング企業、広告代理店、教育機関、そして(街づくりの視点で)不動産会社までをも含めた取組みや、そのネットワーキングが見受けられる。

 今年の2月には、三菱地所、電通、電通国際情報サービスによる協業事業として「FINOLAB」が大手町に開設された。運営は金融革新同友会FINOVATORSがフィンテック・ベンチャーの相談・指導を行いながら、政府や官公庁への陳情も含めて育成サポートにあたるとのこと。

 東京、大阪、名古屋等の証券取引所ビルのオーナー企業として創立された歴史を持つ平和不動産は、国家戦略特区の都市再生プロジェクトとして兜町や茅場町の再活性化に取り組んでいるが、資産運用会社やIR関連だけでなく、フィンテック企業向け取組みも話題となっている。3月末にはカフェやワークスペースを東京証券会館のビルで提供し始めた。

ベンチャー事業運営そのものが “便利” に

 IT系のベンチャー起業にとって聖地であるシリコンバレーは米国・カリフォルニア州のサンフランシスコ湾地域より南側に位置し、サンノゼ市を中心としたサンタ・クラーラ谷(Valley)一帯を指す。ここには最も成熟した形のベンチャー起業業界が存在する。

 この地域の知る人ぞ知る幾つかのカフェには、起業家、投資家、そしてパートナーシップを求める企業が集まり、活発な意見交換をしている。数千万円規模から数億円規模迄の起業支援であれば、こういった場所での即決も珍しくない。

 個人及び事業会社による金融との関わり合い全般において、リテラシー(知識と経験)水準が米国と日本では大きく異なるのだ。これが多くの特異性の理由となっている。

 ただ忘れてはいけない。フィンテックも含め、IT技術やWebの進化により、(ベンチャー)事業運営そのものが “便利” になっている。Webでマーケティングや広告・集客を行い、仮想店舗で販売。顧客管理や会計もクラウドで。イマドキの事業運営には、場所・時間・従業員数・歴史等の障壁が下がっている。

 フィンテックによりベンチャー企業への金融サービスも改善し、資金調達、財務・会計管理、そして決済もより便利になる。日米の金融リテラシーギャップを想定より短期で埋めるようなベンチャー(フィンテック)サービスもある。金融リテラシーが向上すれば、ベンチャー投資を取り巻く環境も改善する。ベンチャー企業にとってこんな追い風があるだろうか?

トムソン・ロイターも活動中

 世界有数の情報・データ会社であるトムソン・ロイターも、世界中でフィンテック・ベンチャーのエコシステム形成に関わっている。THOMSON REUTERS LABSを運営している他、ここ1~2年だけでも6つのフィンテック・ベンチャー・アクセレレータープログラム(投資・サポート等)に世界11拠点で関わっている。教育機関等との連携プログラムも多い。

 トムソン・ロイターは、金融及びリスク(リスク・ガバナンス・コンプライアンス)情報の分野だけでも世界155カ国以上で、5000以上の金融機関を含む4万以上の事業会社に情報・データを提供しているが、そのプラットフォームはオープンな構成で、多くのパートナー企業との連携によって成り立っている。

 日本では、2016年3月から金融機関・ベンチャー企業・その他フィンテック業界関係者向けに「FinTechの発展を促進するエコシステムの構築に関する研究会」も主催している。顧客、産業、そして社会と共に成長を考えている。

おことわり:本コラムの内容はすべて執筆者の個人的な見解であり、トムソン・ロイターの公式見解を示すものではありません。

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