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めんどくさいのがいい?! 若者がレコードを支持する意外な理由 - Wedge編集部

明日4月16日、全世界21カ国のレコード店で開催されるイベント、「レコード・ストア・デイ」をご存じだろうか。


昨年開催された「レコード・ストア・デイ」でアナログレコードを手に取る若者

 毎年4月の第3土曜日に開催されるイベントでは、未発売ライブ音源を収録したアナログレコードやアーティストグッズといった限定商品を販売。アーティストによるイベントも行われ、本年も米国ではヘヴィメタルバンドとして名を馳せるMETALLICAが“アンバサダー”としてインストアライブを行うほか、日本でも“アンバサダー”に就任したサニーデイ・サービスの曽我部恵一さんがShibuya Milkywayでのイベントに出演する。

なぜいまレコードなのか?

 HMV Record shop渋谷店で昨年開催された「レコード・ストア・デイ」の際には、150枚用意した整理券が足りなくなり、開店前から店前に多くの客が列をなすほどの人気ぶりだったという。

 「レコード・ストア・デイ」だけではない。昨今、日本ではアナログレコードを巡る諸産業がにわかに活気付いている。


日本唯一のアナログレコードメーカー、東洋化成の工場で生産されるアナログレコード

 日本唯一のアナログレコードメーカー、東洋化成(横浜市)は技術者の数をここ数年で2倍に。それでも「需要に対して供給が追い付かない」(同社の荻原氏)と嬉しい悲鳴を上げる。

 「サービスを始めてから2000件ほど依頼が来ている」と話すのは、アーティストが自己資金なくしてアナログレコードを制作・販売できるプラットフォーム、QRATESを手掛けるトウキョウ・デジタルミュージック・シンジケイツ(渋谷区)の代表取締役のBae氏。

 昨年末にユニバーサル ミュージック合同会社と共同でアナログレコードプレイヤー、「SIBRECO」を発売したamadana(渋谷区)の代表取締役社長、熊本氏は「今回発売したプレイヤーはシニア世代から若者まで、幅広い層に買われている」と自信を見せる。

 ただ、ここで疑問が残る。「ハイレゾ」や「サブスクリプション型音楽配信」など、音楽のデジタル化が波及する現代において、なぜそれと対極に位置する アナログレコードが人気を博しているのだろうか。

アナログレコードを再び表舞台へと立たせたもの

 近年世界ではCDの売り上げ落ち込みが著しい。その陰で、順調に売り上げを伸ばしてきたのがアナログレコードである。

 ドイツの統計調査会社「Statista」によると、世界市場におけるアナログレコード売り上げ額は2006年に3400万ドルで底を打ち、その後徐々に回復。11年には1億ドルの大台を突破し、14年には3億4700万ドルに達し、底打ちとなった06年から8年間で10倍以上も売り上げ額を伸ばしている。

 このアナログレコード復活劇の呼び水となったのが米国で08年に始まった「レコード・ストア・デイ」であるとされる。

 米国では日本よりもCDの売り上げ低減が著しい。全米レコード協会によると、00年に133億5700万ドルにも達していたCDの売り上げは、06年には93億8000万ドルにまで低減。その後も少しずつ額を減らし、08年には54億7500万ドル、15年にはなんと15億2100万ドルにまで激減している。

 このような苦境に曝され、米国ではタワーレコードやヴァージン・メガストアズといった大手CD店が次々と撤退。「大手が姿を消し、市中の販売店までなくなってしまえば、文化がなくなるに等しい」(「レコード・ストア・デイ・ジャパン」を運営するミュージックソムリエ協会の吉川氏)との危機感を抱いた個人のレコード店とアーティスト、レーベルが協力を模索。音楽ファンに今一度レコード店へと足を運んでもらうべく、「レコード・ストア・デイ」を開催するに至った。

 実際、レコード・ストア・デイが初開催された08年以降、米国におけるアナログレコードの売り上げは右肩上がりで増加してきている。全米レコード協会によると、06年に2600万ドルで底を打ったアナログレコードは、「レコード・ストア・デイ」が初開催された08年には6000万ドルまで売り上げを伸ばし、15年には4億2200万ドルにまで回復している。

 それにしても、CDが売り上げを減らし続けてきたのにも関わらず、たった1つのイベントをきっかけに、なぜアナログレコードはここまで売り上げを伸ばすことができたのか。

デジタルとアナログの意外な関係

 その鍵を握るのは“デジタルネイティブ”世代である。

 音楽産業マーケティング会社「MusicWatch」の調査によると、米国におけるアナログレコード購入者は、13~17歳が21%、18~25歳が26%と25歳以下が半数近くを占めている。25%を占める26~35歳の層まで含めると、35歳以下がアナログレコード購入者の実に7割以上を占め、需要を支えるのが “デジタルネイティブ”世代であることがうかがえる。

 このように若年層がレコードを購入する理由について、高解像度デジタル音源、いわゆる“ハイレゾ”の配信を手掛けるオンキヨー&パイオニアイノベーションズの黒澤氏は「若い“デジタルネイティブ”層にとっては、“黒い円盤”自体が物珍しい。生まれてこの方デジタルで音楽を聞いてきたような人がアナログレコードを目にすれば、ジャケ写も大きく見栄えがいいし、クールに感じるのでは」とみる。

 また、音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏は、ヴィジュアル面でのかっこ良さのみならず、デジタルでは味わうことのできない“モノ”としてのアナログレコードが持つ魅力について、こう説明する。

 「iPhoneなどで音楽を聴くようになると、音楽を聴くことに手間をかける必要はあるのか? と思うが、アナログレコードを聴くということはそれとは違う意味合いで捉えられている。A面からB面へとひっくり返すような手間のかかる行為も、ライブやフェスに行くような、非日常的な体験として受け入れられている。めんどくさいのがいい」

 アナログレコード側も近年はデジタルネイティブを意識してきている。

 CDではなく、あえてアナログレコードが選ばれている理由について、ジェイ・コウガミ氏は“ダウンロードコード”の存在を挙げる。“ダウンロードコード”とは、入力すれば無料でデジタル音源をダウンロードすることができるコードのことであり、近年発売されたアナログレコードに挿入されているもの。ジェイ・コウガミ氏は「(ダウンロードコードは)家でアナログレコードを聴きつつも、外ではデジタル音源をスマホに入れて聴く、ということを可能にした。(レコードの普及の背景として)絶対ある」と分析する。

レコード人気はいつまで?

 このようなアナログレコードの盛り上がりはいつまで続くのか。

 東洋化成の萩原氏は「世界的ブームを終わらせないための努力はしなければならない」と慎重な姿勢を見せつつも、「海外では新しく設備を拡張させる動きもあり、今年もこの流れは続くと思う」とみる。

 昨年から日本の音楽業界を取り巻く環境は変化の局面に立たされている。

 「LINE MUSIC」「AWA」「Apple Music」といったサブスクリプション型音楽配信が国内で次々にサービスを開始。その陰ではamadanaやオンキョー&パイオニア、さらにはパナソニックによる国産レコードプレイヤーの発売など、アナログレコード業界が攻勢をかける。

 サブスクリプション型音楽配信の普及とアナログレコード需要を見据えた動きが同時進行で広がりをみせるという地殻変動が起きつつある今。日本国内におけるアナログレコード人気の真価が問われるのは、これからかもしれない。

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