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G7外相の原爆記念施設訪問を高く評価し オバマ大統領の訪問に期待する - 平林博

一般社団法人日本戦略研究フォーラム会長  平林 博


4月10~11日に広島で開催されたG7外相会議は、伊勢志摩サミットへの幸先良いスタートを切った。恒例の共同声明はテロ対策や北朝鮮問題に焦点を当てたが、政治指導者たちに広島訪問を促した「広島宣言」、中国を念頭に置いた「海洋安全保障に関する声明」、核不拡散及び軍縮に関する声明」が発出され、特に前2者は時宜を得たものであった。

 「広島宣言」は、「広島・長崎は原爆で極めて甚大な破壊と非人間的な苦難という結末を経験した」として、G7外相たちが「深く心を揺さぶられ」、「他の人々も訪問を希望する」としている。G7外相たちは原爆記念館の訪問の後、平和公園で献花したが、ケリー米国国務長官の発案で事前の予定にはなかった原爆ドームを視察した。原爆記念館を訪問して、「心を揺さぶられ」ないのは人間とは言えないであろう。

 原爆記念館訪問中の外相たちの写真を撮らせないことにした由であるが、これは原爆投下を正当化している米国民にショックを与えないようにとの配慮かもしれない。筆者が属する日印協会には、1957年10月に来日したネルー首相が原爆記念館を訪れた写真が残っているが、それは悲惨な写真の前でショックを受けて悲痛な顔をしているものである。今回、G7外相たちがどういう顔で陳列物を見たか、筆者には容易に想像できる。

 米国の現職国務長官の訪問は初めてのことである。これまでは、「原爆投下は戦争を早期に終結させるために必要だった。その結果、多くの人々を救った」というのが、依然として米国民の約半数が信じ込んでいる(或いはその振りをしている)自己正当化ドグマである。筆者は、広島への投下も正当化されないと考えるが、長崎への2発目の投下はそれ以上に正当化できないと考える。広島原発はウラン型であったが、プルトニウム型の原発を試すために敢えて長崎に投下したとの説もあり、単に戦争の早期終結だけが動機ではないだろう。

 それだけに、ケリー長官が原爆記念施設訪問に踏み切ったのは、高く評価される。尤も、他の外相たちが訪問するのにケリー長官だけが訪問しないという選択肢はなかったであろう。その意味では、G7会議にぶつけてこれを計画した日本外交、特に広島を地元とする岸田外相の成功である。

 オバマ大統領はどうするのか。我が国においては、伊勢志摩サミットの前後に広島を訪問することへの期待が高まっている。ケリー長官が先駆けに踏み切ったのは、オバマ大統領の意向があったからに違いない。しかし、国務長官と大統領では、重みが違う。日米関係は強固な同盟関係に育ってきたが、大統領が訪問してようやく原爆投下についての日本側のしこりが解けるのである。米国としても、唯一原爆を投下した国、しかも無辜の人々に対して投下したという不名誉な原罪(?)から解放されるのである。

 オバマ大統領は、就任後間もない2009年4月、チェコのプラハにおいて、核廃絶を目指すとした演説を行い、それが評価されて同年10月、ノーベル平和賞を受賞した。演説をしただけで実績が何もない段階で「ノーベル平和賞」というのは奇異なことであり、かねてよりこの賞の政治性に疑問を抱いていた世界から批判の声が上がった。オバマ大統領への期待が込められての受賞と理解された。

 しかし、その後のオバマ大統領の核廃絶に向けての実績は、ほぼゼロである。中国は核兵器の質量双方の拡充を続け、北朝鮮は新たに事実上の核兵器国の地位を得てしまった。ロシアはクリミア併合と東部ウクライナのロシア化に対する制裁を受けて、核軍縮についても、オバマ大統領の意向を聞くつもりはなく、非協力的である。2015年4月から5月にかけてニューヨークで開催された核不拡散条約(NPT)運用検討会議は、最終文書を採択できず、失敗に終わった。オバマ大統領が成功に向けてイニシアティブをとった形跡はない。

 オバマ大統領の任期は、来年1月に切れる。大統領は、在任中の遺産(Legacy)作りを念頭にキューバとの国交を回復した。広島訪問は、もう一つのレガシーになり得る。プラハに始まり広島で終わる核廃絶のためのレガシーだ。

 もう一つ、期待したい。日韓との同盟を軽視ないし無視し、「日韓は核保有をしてでも自分で自分を守れ」などと現実離れの主張を続けているトランプ候補の大統領当選を現職大統領の権威と権限をかけて阻止することだ。米国にとっても世界にとっても大きなプラスのレガシーとなるであろう。

 内外の一部報道によると、米国の中には、オバマ大統領の広島訪問は日本の総理が真珠湾攻撃によって撃沈された戦艦アリゾナ号の記念館に訪問することが前提、などとする意見も出ているようだ。安倍総理も機会を見てハワイを訪問することは、日米両国民の友好関係のためにも同盟の強化のためにも意味があることである。

 伊勢志摩サミットの機会にオバマ大統領が広島を訪問すれば、それはオバマ大統領のみならず日米同盟にとっても大きなレガシーとなるであろう。

平林 博(ひらばやし ひろし)
1940年、東京都生れ。1963年、東京大学法学部卒、外務省入省。フランス留学、ハーバード大学国際問題研究所フェロー、在イタリア・フランス・中国・ベルギー・米国各大使館在勤の後、外務省経済協力局長、内閣官房兼総理府外政審議室長(現在の内閣官房副長官補)、駐インド(兼ブータン)特命全権大使、駐フランス(兼アンドラ、兼ジブチ)特命全権大使を歴任。2007年、外務省退官。
現在、(一社)日本戦略研究フォーラム会長、(公財)日印協会理事長、三井物産㈱取締役、第一三共㈱取締役、東横イン㈱取締役を務める。

主な著書に『あの国以外、世界は親日!主要国を歴任した元外交官による「新・日本論」』(ワニブックス)、『フランスに学ぶ国家ブランド』(朝日新書)、『首脳外交力、首相!あなたがメッセージです!』(NHK出版協会)、『日本とインド、いま結ばれる民主主義国家』(共著:文藝春秋社)、『愛される国日本』(共著:ワニブックス)等。

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