記事

子宮頸がんワクチン「脳障害」に根拠なし 誤報の震源は医学部長 利用される日本の科学報道(中篇) - 村中璃子 (医師・ジャーナリスト)

1/2
「鹿児島大学が脳症状を訴える患者さんのHLA型を調べたところ、19人中16人でDPB1*05:01という型が非常に多く、84%だった。日本人の頻度は40.7%ですから、日本人の平均頻度に比べて倍以上ということが言えます。私が信州大学で14例で調べてみると、やっぱり71%の方がDPB1*05:01を持っていました。これが何を意味しているかというと、日本人の通常の頻度の倍以上ということ」

 3月16日の午後、池田修一・信州大学副学長兼医学部長(脳神経内科教授)を班長とする「子宮頸がんワクチン接種後の神経障害に関する治療法の確立と情報提供についての研究」(通称:池田班)と、牛田享宏・愛知医科大学医学部学際的痛みセンター教授を班長とする「慢性の痛み診療・教育の基盤となるシステム構築に関する研究」(通称:牛田班)の2つの子宮頸がんワクチン副反応研究班による成果発表会が行われた。

 冒頭の言葉は成果発表会で、池田修一教授自らが語った言葉である。

 前篇の記事において筆者は、池田班が行った「遺伝子保有率と遺伝子頻度の混合」という基本的ミスを指摘し、正しい検定結果も示して、池田班が「子宮頸がんワクチン接種後の脳障害」とする症状と遺伝子が何の因果関係も持たないことを説明した。

 記事に対し、「池田班の発表資料には保有率も頻度も書いてある。誤報したのはマスコミだ」とメディアを批判し、池田教授を擁護する人もいた。しかし、遺憾かつ衝撃的なことに、「特定の遺伝子を持つ人が子宮頸がんワクチンを接種すると脳障害をおこす可能性がある」という誤報の震源は、冒頭の言葉のとおり、メディアではなく池田教授本人だった。

 池田班が、HLA型(ヒト白血球型抗原:ヒトの免疫応答に深く関与する遺伝子の配列)について発表したのは今回が初めてではない。毎日新聞が「子宮頸がんワクチン 免疫遺伝子が障害関与」と題した記事を出したのは2015年7月4日のこと。鹿児島大学の患者12人中、DPB1*05:01遺伝子は11人に上るというその内容は、界隈に大きな反響を呼んだ。記事には「グループは5月の日本神経学会学術大会で『HLA型が副作用に関連している可能性がある』と報告した」とあり、池田班が少なくとも1年ほどはこのHLA型にこだわっていることがわかる。

 冒頭に引用した発言に続き、池田教授は次の図を示しながらこう述べている。


拡大画像表示
出所:厚生労働科学研究事業成果発表会資料


「HLAというのは民族によって頻度というものが随分違っていて、日本を含む東アジア、この民族はDPB1の*05:01というものの頻度が非常に高い、それに対して欧米人はこの頻度が非常に低い」

「子宮頸がんワクチン薬害説」への批判はたくさんあるが、中でも「日本人に特有の薬害などない」というのが強力な反証の一つであった。しかし、ワクチンによるものとされる症状は日本人に頻度が高いDPB1*05:01のせいであるという説明がつけば、この批判を乗り越えることができる。池田教授は「日本人だけに起きているのは当然」と主張する目的ありきでDPB1*05:01に注目し、DPB1*05:01に有利となる誤った統計解釈を意図的にマスコミに流してきた可能性がある。

 池田教授はさらにこう続けている。

「こういう遺伝的バックグランドが、ワクチンを打った後の副反応の出やすさに関係しているかもしれない」

  筆者は本稿を書くにあたって、池田教授にHLA型データに関する質問をした。

 すると、「HLA geno-typingの結果表示で、DPB1 05:01 アレル(遺伝子)についてその遺伝子頻度とこのアレルをヘテロまたはホモで有している個体頻度をもう少し明瞭に分けて示さなかったことが混乱の原因になったと考えております。鹿児島大学のデータについては高嶋博教授へ直接お問い合わせ下さい」という回答を返してきた。

統計学や遺伝学以前の大きな疑問

 ところで、多くの一般の医師は、池田班発表に対し、統計学や遺伝学以前の大きな疑問を持っていることをご存知だろうか。

 それは、池田班が解析の対象としている「脳障害」の患者群の疾患定義が、発表内容からはよくわからないことだ。

 次のスライドは、池田班が「脳障害」とする患者の臨床症状を示している。しかし、記憶力低下、集中力低下、朝起きられない、光がまぶしいといった症状は、ワクチンを打っていなくてもよくある症状だ。


拡大画像表示
出所:厚生労働科学研究事業成果発表会資料


 池田教授は「脳障害がワクチンと関係があると判断した」症例としてこんな少女を紹介している。

「なぜこの脳障害がワクチンと関連があると我々が考えたかという例をお示しします。この患者さんは2010年ですかね、サーバリックスを打った後から、四肢の脱力、全身倦怠感、車椅子使用となり、起立性調節障害と診断して、薬物療法とリハビリテーションを行った。その後、杖歩行まで改善したので学校行こうということになったんですが、幼児向けの本しか理解できない。学校へ行ってうまくいかないと言うんですね」

 しかも、この少女の脳PET画像を撮ると、前葉頭頂葉の神経細胞が働いていないことが分かり、高次脳機能検査(精緻な知能テスト)をやってみると、通常のIQや動作性のIQは悪くないが、処理速度だけが極端に悪いという。

 しかし、学校でうまくいかないのは、果たして子宮頸がんワクチンを打ったせいなのか。「高次脳機能検査で脳の処理速度が落ちている」と言われれば、脳の異常が客観的に評価されたかのようだが、そうではない。池田教授が高次脳機能障害を疑うとしている少女たちの症状は、次のスライドにあるように、勉強の内容を記憶できない、計算が遅くなった、昼過ぎまで起きられないといった、あくまでも自覚的な訴えだ。


拡大画像表示
出所:厚生労働科学研究事業成果発表会資料


 「脳障害」としている21例のうち、画像検査で異常が見られたのは結局、何例だったのだろう。発表では明らかにされていない。その上、患者の共通項としている高次脳機能検査の処理速度は、被験者の意欲にも左右される。末梢性の自律神経障害では説明できない学習障害があった症例41例のうち、なぜその一部の21例のみ「脳障害」となったのかも不明だ。

 池田教授は先ほどの症例紹介に続けて、このような発言をしている。

「他のこの年齢で、麻痺だとか高次脳機能障害を訴えている他の病態と区別できるのかということなんですが、この方もワクチンを打って数年たって突然足のけいれん、歩きにくいというようなことで、子宮頸がんワクチンの副反応じゃないかと受診しています。こういう子が高次脳機能検査をすると、全般的に悪いんですね。そして脳の画像を撮ってみると、脳の画像上、どっか機能が落ちているところはないとなって、これは、高次脳機能検査と脳画像から、これはやっぱりワクチンの障害ではないという判断になります」

 他の病気との鑑別基準を話すとしていたのに、なぜかワクチンの因果関係を説明したことになっている。これでは、脳障害の症例定義もワクチンとの因果関係も説明していない。

あわせて読みたい

「子宮頸がん」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    「安倍晋三記念小学校」嘘と判明

    和田政宗

  2. 2

    籠池氏の嘘 拡散した朝日は無視?

    和田政宗

  3. 3

    よしのり氏「罠にはまった文春」

    小林よしのり

  4. 4

    山口組の自虐的川柳が傑作ぞろい

    NEWSポストセブン

  5. 5

    希望維新の合流進めたい安倍首相

    NEWSポストセブン

  6. 6

    ISを「破門」しないムスリム社会

    SYNODOS

  7. 7

    内田樹氏の安倍政権分析に納得

    マガジン9

  8. 8

    詩織さん事件 超党派議連が追及

    田中龍作

  9. 9

    日本が核禁止条約に署名しない訳

    河野太郎

  10. 10

    よしのり氏 山尾氏の改憲案見よ

    小林よしのり

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。