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どうしても社会保険に加入したくないという社長に、本気でアドバイスするとしたら - 漆原かなえ(社会保険労務士)

「社会保険(厚生年金)に加入するように、年金事務所から通知が送られてきた。」というご相談が昨年から特に増えています。首相が厚生年金加入漏れに対しての実態調査を計画的かつ確実に行うよう厚生労働省に指示したことからも、今後は益々、社会保険の未加入事業所への加入指導は厳しくなるでしょう。

このような状況の中、「社会保険料を支払える程度の利益はあるが、保険料が高すぎるので、どうしても社会保険に加入したくない。年金事務所からは通知が数回送られてきたが、どうにか逃れられないか?」というご相談を受けましたので、この機会に社会保険に加入した方が良い理由を、回答とともにまとめてみることにします。

■約79万カ所の事業所が厚生年金適用を逃れている可能性がある

「なぜうちの会社だけが社会保険に加入しなければならないのか?周囲の小さな会社では加入していないところも多いのに、うちだけに通知が送られてきた。」というご質問、他の事業主さまから聞くことも何度かありました。

確かに、現在も30%以上の会社が厚生年金適用逃れをしていると推定されています。昨年12月、厚生労働省がまとめた推計公表によると、厚生年金の保険料負担を不正に逃れて、従業員の約200万人が厚生年金に加入できていない可能性があることが分かりました。この推計は、国税庁が保有している企業情報により社会保険の適用事業所だと予測される約250万社を把握し、厚生労働省が把握している厚生年金に加入している約170万社を差し引いた事業所の数になります。もし、まだ通知がきていない小さな会社が周囲に多いのであれば、今後はこの把握された情報により、通知が届くのは遠くなさそうです。

昨年までは、法務局の登記情報より未加入事業所の把握をされていたと職員から聞くことがありましたが、無駄な作業を省くためにも、国税庁から税金を納めている事業所の情報を、そして、今後はマイナンバーを使った加入逃れの防止対策も始まるでしょう。

■社会保険料を支払うことはもったいないのか?加入しないことのデメリット

「どうしてわざわざこんなに高い保険料を支払ってまで加入しなくてはならないのか分からない。逃れられる限りは加入したくない。」との疑問もいただきました。このようなお考えは経営者側におられる方に多いように感じています。確かに、会社は保険料を半分負担しなければなりませんから、ただでさえ高い保険料は、重い負担となるでしょう。

しかし、社会保険給付の手続きにも携わる社会保険労務士からすると、保険料の金額の高さだけに注目することに危険を感じます。ここでは具体的な給付内容についての説明は省きますが、主に、傷病手当金、出産手当金、障害年金3級、障害手当金、遺族厚生年金、将来受給できる老齢厚生年金などの、適正に社会保険に加入していたのならば受給できるかもしれない様々なお金に関係してくるからです。

例えば、私生活上の原因でうつ病などの精神疾患になってしまったり、交通事故で大きなけがをして、しばらく仕事を休まなければならなくなってしまったときには、社会保険に加入していれば、傷病手当金を受給できたり、長期に病気やケガが継続すれば、障害の状態が2級までに該当しない場合は、国民年金にはない障害厚生年金3級を受給できる可能性があります。

また別の例えでは、年金を納付していた期間が満額(国民年金480月)と比べるとわりと短いにもかかわらず、老齢年金の受給金額が高い人には、景気の良かった時などに高額な厚生年金保険料を支払っていたというケースがあります。

目先の保険料の高さにだけ注目してしまうと、将来起こりうる様々な可能性に対応できないときが来るかもしれません。社長一人であれば、不正に社会保険の加入を逃れて、ご自身が社会保険に加入することで受けることのできたはずの給付を受けることができなくなってしまったとしても、自業自得なのかもしれません。しかし、従業員本人が加入を希望しているにもかかわらず意図的に保険料の負担を逃れていた場合には、従業員に対しての責任は気持ちの上でも重くのしかかります。さらに、状況によっては、従業員やそのご家族からの損害賠償請求に発展することも考えられます。

■将来、年金の財源が尽きて、本当にもらえなくなるの?

「どうせ自分たちが将来年金を受ける頃には年金はもらえないか、極端に少ない金額になっているだろうから年金保険料を支払っても無駄になる。」とのご相談も。これは、一時期の報道などによる、「年金制度の破綻」、「公的年金は赤字」、「若い人は、年金はもらえなくなる」というような発言が影響しているものと考えられます。

年金の財政ついて分かりやすく説明されている、「年金保険料を払わないとあなたは必ず損をする(東洋経済オンライン)2015/11/4」という記事があります。公的年金の財政に不信を持たれている方は、一度読まれてみてはいかがでしょう。
「年金不安をあおり立てている金融機関や一部のマスコミの言葉に乗って、年金保険料を支払わないということになれば、それは結果としてあなた自身の将来に大きな禍根を残すことになりかねません。」

上記の記事にもあるように、本当に、年金保険料を納付しない方がいいと判断するほどに破綻の可能性が高い状況にあるのか、部分的な出来事や言葉に振り回されないように、自分自身で見極められるようしっかり気を付けたいものです。

■民間の保険に入っているから大丈夫?社会保険に加入しないことのリスク

「民間の高い保険に入っているから大丈夫。」とのお考えも伺いました。民間の保険は多くの種類がありますから、本当に大丈夫なケースがあるのかは、全てを把握できているわけではないため分かりません。しかし、そもそも、社会保険は、要件に該当する場合は加入が義務付けられているもので、罰則もあります。

社会保険未加入の罰則には、社会保険料の追徴と罰金があります。追徴金では、該当者全員の社会保険料を2年間遡って追徴されます。追徴金の場合、状況によっては従業員の社会保険料負担分も、会社が肩代わりしなければいけない場合も考えられます。従業員が既に退職していたり、2年間分もの保険料をどのように従業員から回収したりするのかという新たな問題がでてきます。

また、健康保険法第208条では、「6か月以下の懲役、または50万円以下の罰金」と定めています。今まで実際には、罰則まで科されることはほとんどありませんでした。しかし、今後は追徴金のみならず悪質な場合は、刑事告発される可能性もあるとのことです。(日本経済新聞電子版2016/1/19より)。既にその基準の協議に入っているとの情報もあります。

■社会保険に加入すると、お給料の手取りが減るので昇給した方がいいのか

社会保険に加入すると従業員のお給料の手取り額が減るとのことで、社会保険適用手続きのタイミングでお給料を上げる事業所さまもおられますが、従業員の社会保険加入のメリットを考えると、個人的にはそこまではしなくてもいいのではと考えることもあります。

半分は会社が既に保険料を負担していますし、社会保険(厚生年金)に加入すれば、将来の受給年金額は少なくとも国民年金のみに加入している場合よりは上乗せされて本人に返ってきます。長生きすればするほど年金受給金額も増えます。

ただし、経営の状態にもよりますので一概には判断できません。もちろん、会社の経営を圧迫しないのであれば、昇給されてもいいと思いますが、顧問税理士などに事前にご相談されてからの方がいいでしょう。

■社会保険に対する経営者のこれからの心構え

今年度も3月下旬となり、あと少しで終わりです。すぐ先、新年度4月には、厚生労働省と日本年金機構はさらに未加入事業所に対する指導を強化し、立ち入り検査や強制的に加入させられる事業所も出てくるでしょう。マイナンバー(法人番号)を使って効率的に未加入事業所の特定もされるようになると思われます。

現在では、資本金に関する規制が撤廃され、以前よりは会社設立もしやすくなりましたが、既に事業経営されている方のみならず、これから起業される方も、事業を継続していくためには、社会保険料も経営予算に含める覚悟で起業をされたほうがいいでしょう。

どちらにしろ、社会保険に加入するのであれば、給付や将来受給する老齢厚生年金について着目されてはいかがでしょうか。優秀な人材を採用したい場合には、会社の信用にも繋がりますし、もしかしたら、今考えているよりは、社会保険加入のメリットを感じられるかもしれません。

【参考記事】
■女性の起業迷子を生まないために、事業を継続できる環境づくりを
http://sharescafe.net/47585292-20160121.html
■起業大国を実現するための、女性の『小さな起業』とは?
http://sharescafe.net/43701838-20150308.html
■どうして女性だけに「輝く」がつくの?
http://kanae-office.correct-auto.com/2015/10/07/kagayaku/
■精神障害・知的障害に係る障害基礎年金の支給認定基準が厳格化の可能性も
http://sharescafe.net/45795559-20150803.html
■国会議員の育休よりも考えたい、働く女性の産前産後の所得補償
http://sharescafe.net/47457285-20160108.html

漆原かなえ 特定社会保険労務士 かなえ社会保険労務士事務所代表

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