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弱者にスポットライトを浴びせるな

 「ビートたけしのTVタックル」で、若者自立支援団体を名乗る団体の職員らが、ひきこもった男性の部屋のドアを壊し、暴力的に連れ出す様子が放送され、批判が起きている。(*1)

 僕は該当番組を見ておらず、後からまとめなどに掲載されている別番組のおなじ現場を取材したVTRを見たのだが、感覚としては「警察24時」や「万引きGメン」のような印象であった。ただ、それらの番組とこのひきこもりを引きずり出す番組が違うのは、懲らしめられるのが前者は道交法違反者や犯罪者である一方で、こちらは、単なるひきこもりであり、犯罪者であるとは言えないことである。

 厚生労働省による「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」(*2)の製作にも関わる精神科医の斎藤環氏はこうした支援団体を名乗る人達による暴力的な活動は、支援の名を借りた「暴力」であると批判している。(*3)

 こうした暴力的な「若者更生」を謳う支援団体がテレビで、さも正義の側であるかのように取り上げられることは珍しくない。昔から「戸塚ヨットスクール」や「長田塾」といった団体が取り上げられてはフェードアウトしていった。そしてフェードアウトの原因は、それらの団体やその関連施設で暴力事件がおきたり、不審死があったり、自殺があったりしているからだ。今回の団体も決してその例外ではなく、いずれその手の問題を起こすであろうことはあらかじめ主張しておく。

 なぜ、こうした危険な団体がテレビで大々的に取り上げられるか。

 それは極めて単順な話だ。

 ちゃんとしたひきこもり支援をしている団体では、ひきこもった当事者のことをちゃんと考える。だから支援の現場にカメラを持ち込ませることをしない。支援対象を見世物にしていいことなど全く無いし、それ以上に、これまでじっくり培った関係性を根底から壊してしまう可能性すらある。だから取材を受けることが少なく、映像が必要なテレビではそうしたまっとうなひきこもり支援団体の活動はほとんど伝えられない。

 しかし、暴力的な支援団体では、支援対象もその家族も、自社の宣伝のための見世物に過ぎない。だから安易にカメラを立ち入らせる。関係構築のスタートである交渉段階において、暴力的にドアを壊し、相手をカメラに晒して、今後の支援のための適切な信頼構築ができるだろうか?

 だが、彼らにとってはそんなことは関係がない。たとえこの支援が失敗に終わったとしても、こうした暴力行為に「頼もしさ」を感じてしまう、ひきこもりの子供を抱える親に対するアピールになりさえすればそれでいいのである。

 一方で、テレビにおいても同じことが言える。メディアもまた自分たちが無遠慮にカメラを突っ込んだこの支援が成功するかしないかなど、全く気にしていない。テレビはとにかく絵が無ければ仕事にならないから、ひきこもりが生活をしている絵を撮影したがる。

 テレビメディアにとってはカメラを安易に立ち入らせる暴力的な支援団体は映像を撮らせてくれるとてもありがたい団体なのである。だから彼らの宣伝にも協力するのである。

 こうしたテレビの悪癖については、東京都町田市でひきこもり専門部会委員なども務めるジャーナリストの池上正樹氏が意見を表明している。(*4)

 僕の観点からは「視聴者」と、そしてなにより「ひきこもりの親」の問題を指摘しておく。

 今回の問題は「批判が多い」ということで注目されているが、中には「ひきこもりを外に連れだしたのだから、これはいい暴力だ」と思う視聴者がいる。斎藤環氏も「勧善懲悪バイアスによる認知のゆがみ」(*5)として批判をしているが、こうした暴力的行為を単純に「悪のひきこもりが退治される痛快な映像」として見てしまう人もいる。そうした視聴者が「戸塚ヨットスクール」や「長田塾」といったスパルタ団体を許容し、結果として人が死んだことを決して忘れてはならない。

 また、僕はまとめでみたVTRで「ひきこもりの親」に極めて嫌な印象を抱いた。彼らは息子に暴力を振るわれたり、お金を貸した結果踏み倒されたりと、確かに被害を負っており、被害者であるかのように思える。

 しかし、彼らもまた早い段階で適切な団体などに相談をできず、結果として息子のひきこもりを長期化させた原因の1つである。そしてその挙句にこうした悪質な団体に騙されてしまう。

 彼らが頼もしげな暴力的支援団体やマスコミのカメラの後ろで、いまさら息子を叱ったり批判したりと、大きな口を叩いている様子を見て「この親にしてこの子あり」だと思ったのは、決して僕だけではないと思う。

 ただ唯一、ひきこもった息子と、その親に違いがあったとすれば、親が大人として育った時代が、右肩上がりの経済成長の時代で、誰でも望めば正社員になれた幸せな時代であったというだけのことだろう。

 そしてもう1つ。

 息子が「自分はプログラマである」と認識していたことは極めて重要であると思う。

 実態としてはひきこもりでも、少なくとも彼はプログラマであると自覚している。それは「仕事」でしか自尊心を得られないこの社会で、彼が自分を騙すためにしがみついた最後の希望だったのだろう。

 しかし一方で、自分を「プログラマとして働いている」と騙し続けたことが、結果としてひきこもりを長期化させる結果に至る大きな原因となってしまった。

 もしも日本社会が、無職でも当たり前の自尊心を抱けるような、まっとうな再分配のある社会であれば、彼も自分が無職であることを認めることができただろう。そうであれば職を探すなり、もしくは仕事以外で社会と関わり合いを持つような向上心も自ずと得られただろう。

 しかし、一度仕事を失い、無職になっていまうとそれこそ「服を買いに行く服がない」状況になってしまう。仕事がないことによって自尊心を奪われているのに、自尊心を得るために中年男性が社会に関わろうとすれば、どうしても「何の仕事をしているのか」ということを探られてしまう。

 そして、本来の支援団体の役割は、ひきこもった人自身に、現状を正しく認識させ、かつ自尊心を保つために社会にかかわらせることである。暴力的に攻め立てても、人は卑屈になっていくだけで、とても自尊心など育たない。結果、余計に粗暴になったり、自殺に至ったりしてしまう。スパルタ系支援団体で人が死ぬのは決して不幸な事故などではなく、当然至るべくして至った結果に過ぎないのである。

 「貧困問題」もそうなのだが、貧困の問題を知るために貧困者の実態を探る必要などない。適切な再分配と、できるだけ多様な立場の人達が生活できる社会さえあればいい。にも関わらず、貧困問題を語るときは必ず貧困者にスポットライトが浴びせかけられ、一方で貧困者を貧困に陥らせる原因を作っている正社員たちは、マジョリティであるという免罪符でもってスポットライトを浴びること無く、常に免罪されてきた。

 そうした中でテレビカメラが正社員を映すときは、いわゆる企業の健闘を取材するビジネス番組のカメラとして被写体を「一生懸命悩みながら苦悩するサラリーマン」として映し出す。その一方で貧困者は「自堕落で無責任な人間」として映し出す。それはテレビメディアがもっぱらそうした絵を撮りたいと望み、また視聴者もその絵を見ることを望んできたからだ。

 今回の問題は、その構図がハッキリと見えるものとなった。

 単に暴力的な支援団体がさも「正義の支援団体」のように映しだされ、ただひきこもっていた息子が「卑劣で自堕落な中年男」として映しだされた。

 それは自社を宣伝したい企業と、とにかく面白い絵がほしいテレビメディア。そして他人を指差して笑いたいだけの視聴者の三者がグルになって生み出した「悪魔の映像」であると言っていい。

 テレビメディアが弱者にカメラを向けようとする限り、こうした悪魔の映像はこれからも撮影され続けるだろう。そして悪魔の映像は誰も救うことがないのである。

*1:TVタックル『ひきこもり特集』のヤンキー業者礼賛等で斎藤環氏を中心に批判殺到中…有用な対案、対策もあり〼。(Togetterまとめ)
*2:「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」の公表について(厚生労働省)
*3:「ワンステップスクール伊藤学校の関係者の皆様へ」(Facebook 斎藤環)
*4:扉の向こうで「ひきこもり」している像を流したがるテレビ局の体質(Yahoo!ニュース 池上正樹)
*5:https://twitter.com/pentaxxx/status/713526877491568640(Twitter 斎藤環)

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