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安売り攻勢かけるスペースX 宇宙開発の仁義なき戦い - 土方細秩子

今年3月、4回の延期の末にようやくファルコン9ロケットの打ち上げに成功したスペースX。衛星切り離し後にロケット本体を無事に地表に戻す、というのは失敗に終わったが、スペースX設立者であるイーロン・マスク氏の目標は「すべてのロケット着地に成功し、ロケットを再利用すること」にある。

 そこで、まだ実現していないが今後の約束としてマスク氏のスポークスマンでもあるスペースX社長、グウィン・ショットウェル氏が3月9日、大胆な発言を行った。「再利用するロケットの打ち上げ料を30%値引きする」というのである。

“業界最安地”からさらに大幅値引き!

 現在のスペースXのファルコンロケット打ち上げ費用は「業界最安値」の6100万ドル。それが再利用ロケットを使えば4000万ドルになるという。ちなみにボーイング、ロッキードが共同運営するユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)の打ち上げ費用は1億6400万ドル、ヨーロッパのアリアンスペースは1億6700万ドルだ。

 現在スペースXの最大の顧客であるルクセンブルクのSES社はこれを歓迎、ただし「最初の再利用ロケット顧客になるので、打ち上げ費用を30%ではなく50%オフにしてほしい」と交渉中、という。ショットウェル氏は「燃料費、ロケット修繕費などを考慮しないと、正確にどこまで値引きができるかは現段階では未定」としている。

 同時にショットウェル氏はスペースXが一度だけ成功したロケットの着地についても「非常に印象深いものだった。実際に着地したロケットを見学に行ったが、ほとんど傷一つなく、ボディはピカピカのまま、エンジンもカバーを外してみれば新品同様だった」と絶賛した。

大きなミッション前に強気のスペースX

 まだ一度しか成功していないロケットの着地だが、ショットウェル氏は「2016年にはすでに成功した2回に加え、16回の打ち上げ予定がある。来年には合計で24回のロケット打ち上げを予定している」と、打ち上げ回数が増えればロケットの無事帰還、再利用の可能性もぐんと増す、と強気だ。

 また、重量のある衛星打ち上げに対応するため現在スペースXが開発に取り組んでいるファルコン・ヘビーロケットについても、「11月には商業打ち上げができる」との予測を発表した。

 さらに、今年はスペースXにとって大きなミッションが待っている。NASAとの提携による「有人宇宙ロケット打ち上げ」だ。NASAは現在宇宙ステーションへの飛行士輸送をロシアのソユーズに頼っているが、経費節約のため自国製の有人ロケット開発を急いでいる。昨年この計画にスペースXがボーイングとともに選ばれ、大きな話題となった。現時点でどちらが先に有人飛行を行うのかは未定とされているが、なんとオバマ大統領が「うっかり」口を滑らせ「スペースXは火星への有人飛行の大きな助けになるだろう」と語ったところから、スペースXが選ばれる可能性が高いのでは、との噂だ。

 NASA自身がこのところ民間の協力をあおいでいる。ロケット技術の一部をオープンソース公開し、その技術を使った起業アイデアを募り、選ばれたグループには技術の無料使用を許可する、という企画を進めている。企業が軌道に乗り、利益を上げるとその一部を「ロイヤリティ」として受け取る。スペースXについても「純粋な民間企業だからこそできる、思い切ったコストカットなど、新しいアイデアが宇宙航空事業にもたらされる」と賞賛した。ULAは民間企業とは言えほぼ半官半民であり、同社とアリアンスペースのロケット打ち上げ費用を見ても明らかなように、コスト面での事実上のトラストが存在する。しかしスペースXの登場により、宇宙も「価格破壊」の時代に突入した。

 ただし、今後の宇宙開発競争は厳しい。スペースXが目指す再利用ロケットの着地にすでに成功している、アマゾンCEOジェフ・ベゾス氏の「ブルー・オリジン」の存在は大きい。

マスク氏の最大のライバルはアマゾン・べゾス氏

 ベゾス氏とマスク氏の間にはかなりのライバル意識があるようで、昨年末スペースXが初めてロケット着地を成功させた際、ベゾス氏はツイッターで「おめでとう。ようこそ『クラブ』に」と皮肉った。これに対しマスク氏は「だけど『宇宙』と『大気圏外軌道』の差を明確にしておかないとね」とつぶやき返した。

 ベゾス氏が目指すのは個人の宇宙旅行であり、ブルー・オリジンは「大気圏外に出て宇宙を飛び、戻ってきた」だけ。しかしスペースXは「衛星を軌道上に乗せる」作業を終えての帰還だ、とマスク氏は強調したのだ。これに続き、マスク氏はツイッターで「宇宙に飛び出すだけならスピードはマッハ3、GTO軌道に到達するにはマッハ30が必要、それに必要なエネルギーはその二乗で、宇宙に行くだけなら9ユニット、軌道では900ユニット必要なんだ」と説明した。

 どちらも業界の風雲児ではあるが、このような型破りな人間が切磋琢磨することで、宇宙事業も飛躍的に発展するのかもしれない。

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