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あれから1年「大塚家具」騒動の教訓:磯山友幸

父・会長と娘・社長が経営権を巡って株主総会で激突した大塚家具騒動から丸1年。長女の大塚久美子社長が出した「会社側提案」が株主総会で多数の賛同を得たことで、久美子社長体制が固まった。その後、主力店舗の改装などで、株主に訴えた「入りやすい店舗」への転換を実行し、大塚家具の再生に取り組んでいる。

 一方、会長だった父親の大塚勝久氏は、自らの提案が株主総会で受け入れられず、取締役の地位を失って、長男の大塚勝之専務と共に会社を去った。勝久氏は保有株も半分近くを手離し、その資金で「匠大塚」という新会社を立ち上げた。3月25日に迫る今年の株主総会には株主提案は出ておらず、昨年のような「大荒れ」にはならない見込みだ。

 大塚家具の騒動とは、いったい何だったのだろうか。なぜ、あれほどまでに世間の注目を集めたのだろうか。

「情」と「理」の対決

 上場企業を舞台にした騒動だったとはいえ、「どこの家庭で起きてもおかしくない話」、「家族経営の企業ならよくある話」だと多くの人たちの目に映ったことが、関心を呼んだ大きな理由に違いない。

 勝久氏は会見の場で、久美子氏を名指しして「悪い子を作った」と嘆いてみせた。経営路線の違いというのは表面的な話だとし、「私を排除したいだけ」だと言い切った。「人間臭さ」を前面に出し、人々の「情」に訴えたのだ。これを受けてテレビのワイドショーなどは「親子喧嘩」「内紛」と連日報道した。そんな勝久氏の姿に、自らを重ね合わせたり、あるいは自分の父親とダブらせる人が少なくなかったのだろう。

 父親とは対極に、娘の久美子氏は上場企業のあるべき姿を淡々と説いてみせた。父親が「情」に訴えたのに対して、「理」をもって応じたのだ。久美子社長に「働く女性の理想像」を重ねた女性も多かったろう。

 そうした、人ごととは思えない「騒動」だったからこそ、多くの人たちが一気に引き込まれていったのだ。

 と同時に、そんな「人間ドラマ」の陰で、大塚家具問題が世の中に問いかけたことが数多くあった。

 会社が大きく育って「家業」が「上場企業」になった場合、創業者と「会社」の関係はどうあるべきなのか。創業一族は上場企業の経営にどう関与するのか。そもそも、誰が創業者の跡を継ぐべきなのか――。大塚家具の騒動では、「コーポレートガバナンス(企業統治)」が真正面から問われることになったわけだ。

時代を映す鏡

 ちょうど、安倍晋三内閣は成長戦略の柱として「コーポレートガバナンスの強化」を掲げていた。日本企業が本来持つ「稼ぐ力」を失ったのは、日本型の経営構造に大きな要因があると見たわけだ。社外取締役の導入を事実上義務付けるなど、日本企業の伝統的な経営スタイルに一石を投じた。大塚家具でも、創業者の「ワンマン経営」から脱却するために、社外取締役の導入が焦点となった。昨年4月以降の久美子社長体制では、取締役の過半数が社外取締役になった。

 さらに安倍首相は就任以来、「女性活躍の促進」をやはり成長戦略の一環として掲げてきた。日本では伝統的に長男が跡を継ぐことが当たり前だった。いわゆる「一子相伝」で長男にすべてを譲っていくスタイルである。だが、そんな時代はとっくに過ぎ去った。兄弟姉妹は同等に扱われるのが当たり前の時代になった。

 大塚家具の騒動の背景にも、長子の長女と2番目の長男のどちらが父の跡を継ぐのかという問題が見え隠れしていた。久美子氏が支持されたのは、男女同権が当たり前になる中で、優秀な長女が跡を継ぐのが当然だというムードに世の中が大きく変わっていたということだろう。まさに大塚家具問題は時代を映す鏡だったとも言える。

「天皇」たちにとっての衝撃

 では、大塚家具騒動が残した教訓とは何か。

 1つは、機関投資家など外部株主の影響力が大きくなり、経営者自身に明確な説明責任が求められるようになった、ということだ。創業者で実権を握り、社内を掌握していれば、主要な株主は経営を「白紙委任」してくれる、という旧来型の発想がまったく通用しなかった。いくら実力会長で、本人も大株主だとしても、生命保険会社や銀行など機関投資家が求めるのは、「どんな経営をするか」「どう投資家や株主に報いるのか」だった。形ばかりの経営戦略を示しても、それにそっぽを向かれれば、経営トップの座を守ることは難しい時代になったということだ。

 もちろん、久美子氏が取締役会の過半数をかろうじて押さえ、「会社側」として提案できたことが大きい面もある。だが、ひと昔前ならば、創業者で社内の実権を握る勝久氏に世間の同情が集まった可能性は十分にあった。長子とはいえ娘が父に反逆することに世間の怒りが向けられたかもしれない。間違いなく、時代は大きく変化したのだ。コーポレートガバナンスの枠組みの中で、どうやって経営を担っていくか、「理」をもって説明できなければ、納得してもらえない時代なのである。

 大塚家具騒動を見て、世の多くの「ワンマン経営者」は冷や汗をかいているに違いない。社長・会長を歴任した人物が、70歳を過ぎても居座って、社内で「天皇」などと呼ばれている会社は少なからず存在する。会長になってもCEO(最高経営責任者)という肩書にこだわったり、名誉会長なのに代表権を持っていたりする有名な例もある。また、ほとんど自社の株式を保有していなくても、創業家に連なっているということが権力の源泉になっているケースも少なくない。

 大塚勝久氏は昨年の総会時点では発行済み株式の18%を持つ筆頭株主だった。それでも機関投資家や金融機関などの大株主によって、権力の座から追われた。ほとんど株式を持たない権力基盤のさらに弱い他の大企業の「天皇」たちにとっては、衝撃的な事件だったに違いない。

困難な「ビジネスモデルの転換」

 もう1つの教訓は、創業者から次世代への経営体制の転換の難しさだ。創業者は成功体験から離れられない。もちろん、ビジネスモデルが成功だったからこそ、「家業」が上場企業にまで成長したわけだが、そのビジネスモデルの行き詰りが明らかになってきた時になかなか方向転換ができないのである。これは、大きくなったファミリー企業をどうやって次世代につないでいくかを考える場合、重要なテーマになる。企業は時代に合わせて変革していかなければ、あっという間に滅びてしまう。

 大塚家具が直面したのはまさにそうした問題だった。2000年代半ば以降、デフレが急ピッチで進み、円高を追い風に格安輸入家具を扱う「IKEA」や「ニトリ」が急成長した。そうした中で、「高級品を会員価格で」というそれまでの大塚家具の成功モデルが限界に来ていたのは明らかだった。2009年に久美子氏が社長となってその転換を図ったのだが、結果的にそれが創業者の逆鱗に触れることとなった。2014年7月に社長を解任されてしまう大きな要因にもなった。父娘の対立が世間の知るところとなった解任劇である。それ以降、昨年の株主総会まで激突が続くことになった。

 会長側についた長男の勝之専務は、熱心な「会員制」の信奉者だったという。成功モデルを否定する長女よりも、成功モデルはまだまだ通用すると支持してくれる長男の言うことが耳に入るというのは、世の中に多くあることだ。創業者としては自然な行動とも言えた。

 結局、株主総会での委任状争奪戦(プロキシーファイト)によって、旧来型のモデルが限界に来ているという久美子社長の主張が認められる格好になった。それによって、創業者の創り上げたビジネスモデルに初めて本格的に手を付けることが可能になったのだ。その後、久美子社長は、ロゴも変え、社員の制服も変え、「新生大塚家具」を前面に出す努力を続けている。

 かつて日本一の小売りチェーンを創り上げたダイエーの中内功氏は、外部から後継と目される経営者を招きながら、結局は長男を跡継ぎにすることに固執した。最後はダイエーグループは崩壊、中内家も大半の資産を失うことになった。創業者は不世出の才能を持つがゆえに成功するものの、自らが生み出したビジネスモデルの修正を許せないがために、会社をかえって崩壊の淵へと追い込む。日本の数多くのオーナー系と呼ばれる企業でもしばしばみられることだ。

「コーポレートガバナンス」のあり方

 では、そんなオーナー系企業はどう経営スタイルを変えていくべきなのか。それは、今後の久美子社長の歩む先に答えが待っているのだろう。

 久美子氏は「大塚家具は上場したことで、大塚家のものではなくなった」と公言してはばからない。騒動のさなかでも、理路整然とコーポレートガバナンスのあり方を語っていたが、それは父親と戦うための「武器」であると同時に、「信念」でもあった。一族に社長の「適格者」がいなければ、社員や外部から選ぶことになる。そうした人材をどうやって育てていくのか。

 コーポレートガバナンスは決して大企業だけに求められている問題ではない。「家業」が成長していく過程で、ビジネスモデルや経営体制をどう変えていくべきなのか。創業一族と経営者の関係はどうあるべきか。様々な教訓を含んでいる。大塚家具の騒動は、まさにコーポレートガバナンスの生きた教科書なのである。

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