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完全自動運転自動車の事故と法的責任について

3月1日のWIRED NEWSによると、グーグルの自動運転自動車が、初めて「AIの過失による」事故を起こしたという。

Google Carが事故を起こしたのは、これが初めてではない。しかしグーグル社によれば、すべて人間側のミスあるいは相手車両の過失によるものであったという。明白にAIの過失といえるものはなかったらしい。

事故報告書によると、自動車は完全自律走行中、右折するため一番右側の車線に入ったが、前方に複数の土のうが置かれて道が塞がれていることを検出して停車した。そして、その土のうを避けるため左にハンドルを切って動き出そうとしたところ、左後方から追い越そうとした路線バスの右側面に接触したという。同乗していたテストドライバーは、「バスが近づいてくるのを左のサイドミラーで見ていたが、バスは止まるか、速度を落として道を譲ってくれると考えた。その約3秒後、グーグルAVが車線中央に戻る途中でバスの側面に接触した」と報告している。上記WIRED NEWSには、バスの車載カメラが写した事故のビデオ映像が掲載されている。

この映像を見る限り、Google CarのAIの過失は明らかだ。Google Carは、左後方からバスが接近してくるのを何らかの理由で見落としたか、または、バスの接近を見ていたが、先に車線に入れると誤解した、もしくは、バスが譲ってくれると誤信したものと思われる(ちなみに、Google Carはあらかじめ左ウィンカーを点滅させているので、バス側にも一定の過失が問われる可能性はあるが、この点に関する論述は割愛する)。

この事故の法的責任はどうなるだろうか。

第1に、ドライバー(または乗車していた人間)の責任が考えられる。今回の事故では、テストドライバーが乗っていたということだし(運転席に座っていたのだろう)、実験中の事故であるから、ドライバーにはハンドルやブレーキを操作したり、非常停止ボタンを押したりして事故を回避する法的責任があったといえる(だってそのためのテストドライバーでしょう?)。したがって、実験段階である今回の事故に限っていえば、ドライバーは過失責任を免れない。しかし、市販された後のことを考えた場合、完全自律運転中の事故について、乗車していた人間の法的責任を問うことは難しい。

第2に、自動車のオーナーの責任が考えられる。この点に関する法令は存在しないが、民法718条1項は、「動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う」と定めている。もとより自動車は「動物」ではないが、自動運転自動車に関する法律が制定されるまでの間は、この条項が類推適用されると考える。たとえば、左後方のセンサーが故障していることを知りえたのに、運行させたオーナーは、本条により損害賠償責任を負う。

もっとも、同条項ただし書きは「動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない」と定めているので、自動運転自動車の管理を尽くしていたことを立証したときは、責任を免れることになる。事故の原因がAIそれ自体にある場合には、オーナーが民法上の責任を問われる可能性は低い(自賠法の責任は後述する)。

第3に、自動車メーカーの責任はどうか。これも、現行法制度を前提にする限り、難しい問題に直面する。なぜなら、過失責任は「結果予見義務または結果回避義務の違反」とされ、それぞれ「結果予見可能性または結果回避可能性」を前提とすると理解されているが、ディープラーニングで経験を積んだAIの場合、「結果予見可能性または結果回避可能性」があった、とはいえない場合も想定されるし、被害者側がこれを立証できない場合も想定されるからだ。同様に、メーカーまたはプログラマーも、「そのような勘違いをするAIになることを予見できた、または回避できた」とはいえない場合がありうるし、これを被害者側が立証することは至難の業だろう。そうなると、被害者側から見れば、「人間が運転していた場合には賠償金がもらえたのに、自動運転車に轢かれたらもらえない」、という不公平な事態が発生する。

では、「AIを人間に置き換えてみた場合、過失責任を問いうる事故であれば、そのようなAIを生み出したメーカーが賠償責任を負う」という法律を作ったらどうか。この場合、被害者保護は図れるが、メーカーとしては非常に困る。なぜなら、AIの教育方法であるディープラーニングは、「AIまかせ」のところがあるので、プログラマーといえども、細かいところには関与できないし、AIがどのように学習効果を習得するか、具体的場面においてどのような判断をするかを、もれなく予測することはできないからである。そうなると、メーカー側から見れば、先の法律は、事故の無過失責任を負わされるに等しい。それは同時に、自社製自動車が起こした事故の賠償請求が全部メーカーに集中することを意味するし、国によっては懲罰的賠償も覚悟しなければならない。弁護士費用だって馬鹿にならない。そのリスクは車両価格に反映されることになるし、メーカーの開発意欲は相当そがれることになろう。

しかし、自動運転自動車の方が、人間が運転する場合に比べ、事故率は絶対に低くなる。それにもかかわらず、メーカーがリスクを恐れて自動運転自動車を製造しなくなったり、自動運転自動車が高価になりすぎて普及しなかったりするのは、好ましい事態とはいえない。

したがって、メーカーの法的責任に関しては、世界標準となるAIの安全基準を策定し、この基準に合格している限り、事故の責任を問わない、とするしかないと思われる。

そうなると、被害者の救済が宙に浮いてしまうことになる。そこで、オーナーに保険加入を義務づけ、「AIを人間に置き換えてみた場合、過失責任を問いうる事故であれば、賠償責任を負う」ものとして運用することが必要となる。

また、賠償額の基準は、いわゆる自賠基準ではなく、任意保険の賠償額であることを要する。そうしないと、「無人自動車に轢かれた方が損」という事態が起こりかねず、自動運転自動車の普及を妨げかねないからだ。賠償金額を引き上げても、自動運転自動車の方が、事故率が断然低いので、保険料が上がるとは限らない。

このように考えてくると、既存の自動車保険制度、すなわち世界的にも珍しいといわれている自賠責と任意保険の二階建ての保険制度とどう整合させるかという問題に直面しかねないが、この問題を論じるのも割愛させていただく。

以上、自動運転自動車の事故責任を大雑把に論じただけで、2500字を超えてしまった。ことほど左様に、自動運転自動車に関する法律整備は大ごとである。

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