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IoTの真髄とは何か?コトづくりへの変革の手段 - 川手恭輔 (コンセプトデザイン・サイエンティスト)

 米ビジネス・インサイダー社が昨年11月に発刊した調査レポート『The Internet of Things Report』には、「インターネットに繋がったモノがデータを収集して交換するネットワーク」が、かつての産業革命のように世界を変革するだろうと書かれている。

IoTを、製造業の視点から整理

 IoTにはすでに多くのモデルが存在するが、それらがごちゃまぜになって語られることが多い。実は、それらのモデルに「インターネットに繋がったモノがデータを収集して交換する」という曖昧なこと以外に共通することはあまりない。わかっているようで混乱しやすいIoTを、製造業の視点から整理してみた。

 製造業にとって最も理解しやすいIoTのモデルは、工場の工作機械やロボットなどの生産設備をモニタリングして、蓄積された情報から稼働状況を分析して設備稼働率の改善を行うというものだろう(図1)。この場合はモノがインターネットに繋がる必要はなく、セキュリティーの観点からもクローズドなネットワークが利用されている。新しいロボットなどは初めからIoTが組み込まれていることが多いが、工作機械に取り付けられたセンサーや監視カメラなどがゲートウェイを介してネットワークに接続されるケースもIoTとされている。


(図1)筆者作成、以下同

 建設・鉱山機械メーカーのコマツは、自社が販売した機械車両の稼働状況やコンポーネントの損耗状況についての情報を収集して分析し、オーバーホールの時期や部品の需要を予測している。それによって代理店によるサービスの質を向上し、部品供給のリードタイムの短縮や在庫の最小化そして物流の最適化を実現した。農業の分野においても、畑に設置したセンサーによって土壌の酸性レベルや温度などをモニタリングすることによって得られた情報をもとに、収穫高を上げるために必要な施策を講じるといった事例がある(図2)。


(図2)

これらはテレメタリングと呼ばれ、IoTという言葉が生まれる前から多くの産業で用いられているモデルだが、特に無線通信やクラウドなどのインフラの発達によって、そのユースケースが拡大しIoT/M2Mなどと呼称されるようになった。

モノとモノが人の手を介さずに情報交換

 テレメタリングでは情報やその分析結果に基づいた判断や処理は人が行っていたが、今後はAI技術などによってクラウドで判断が行われ、モノとモノが人の手を介さずに情報交換や制御を行う本格的なM2M(Machine to Machine)が加速するだろう(図3)。


(図3)

 『The Internet of Things Report』は、企業は収益性を改善するために次の3つの分野でIoTを利用することができるとしている。

 (1) オペーレションコストの削減

 (2) 生産性の向上

 (3) 新しい市場への進出や新製品の開発

 新しいアイデアやテクノロジーが生まれた時、メディアの過剰な煽りなどによって市場の期待が急激に高まることがある。それをハイプという。しかし、その新しいアイデアやテクノロジーの未成熟さから、なかなか実際の製品やサービスとして実現されないと、その期待が一気に幻滅に変わる。そして、その中から成熟したものが生き残り、実際の製品やサービスとして市場に提供されていく。産業分野における「オペーレションコストの削減」や「生産性の向上」のためのIoT/M2Mは、すでにハイプではなくなっている。

 インターネットに繋がった自動車、いわゆるコネクテッド・カーへの市場の期待も非常に大きい。The Internet of Things Reportは、 2020年には2億2千万台以上の自動車がインターネットに繋がるだろうと予測している。自動車は一般消費者向けの製品として価格も高く、センサーや通信モジュールなどのコストやスペースや電力などの問題がそれほど大きくない。

 米テスラ・モーターズ社の電気自動車はスマートフォンのアプリを使って、離れた場所から航続可能な距離や充電状況を確認したり、充電完了の通知を受け取ったり、遠隔操作でルーフの開閉や空調のコントロールをしたり、駐車した場所をGPSによって確認したりすることなどができる。さらにパソコンやスマートフォンのように、インターネット経由でソフトウェアが更新されて新しい機能が追加されていく。

自動運転に必要な常時接続

 自動車については自動運転が大きな話題になっているが、実はインターネットに常時接続されていることが自動運転の必須条件にはなっていない。現在のモバイル通信のインフラの信頼性では、インターネット接続に頼った自動運転は現実的ではないからだ。まだ、繋がっている時にダウンロードした情報を自動運転に利用するというレベルだ。しかし自動運転の目指す未来にはコネクテッド・カーがあることは間違いないだろう。

 自動車以外の一般消費者向けの製品をつくる製造業での「新しい市場への進出や新製品の開発」のためのIoTは、未だにハイプの域を脱してない。インターネットに繋がった冷蔵庫は、一般の人にインターネットが利用され始めた頃からのハイプだ。電子レンジにレシピをダウンロードしたり、帰宅途中に自宅のリビングのエアコンのスイッチを入れたり、洗濯機の故障を事前に予告してくれたりするといったIoTだ。ドアの鍵をスマートフォンからコントロールできるというIoTは、ホテルや宿泊施設の共有サービスでの採用を期待してベンチャーを含めた多くの企業が群がっている(図4)。


(図4)

 インターネットが出現するまで、一般消費者向けの製品をつくる製造業は、造った製品を流通業に販売するだけで、その製品の顧客との接点はほとんど持っていなかった。接点といえばTVなどのマスメディアを利用した広告などの一方的なものばかりで、双方向性のあるものは困ったときだけ顧客から電話をかけてくるコールセンターぐらいだった。しかし、インターネットによって製造業が顧客との接点を持つことが容易になった。さらにIoTによって顧客が製品を使う経験に積極的に関与して、提供する価値を最大化することができるようになる。

 ① 製品に関連するサービスをクラウドから提供する

 ② 顧客ごとに最適なサービスを提供するために必要な情報を収集する

 これが「新しい市場への進出や新製品の開発」のためのIoTの基本的なモデルになるだろう(図5)。これを実現するにはハードウェアだけではなく、クラウドやスマートフォンのアプリなどのソフトウェアが重要な役割を果たすことは言うまでもない。


(図5)

 技術のコモディティ化や経済のグローバル化が急速に進み、 単一の製品や技術のみで差別化を図ることが難しいという状況が、とくに日本の製造業において困難な事態を引き起こしている。さらに人々は、製品そのものの機能や品質や価格ではなく、購入した製品を利用することによって、どのような体験(経験価値)が得られるかを重視するようになってきた。「新しい市場への進出や新製品の開発」のためのIoTは、これまで「モノづくり」中心だった日本の製造業が、経験価値を提供する「コトづくり」へ自らを変革することを可能にするモデルだと考えることができる。

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