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またも着地失敗 顧客喪失の危機もイーロン・マスクは諦めない - 土方細秩子

3度にわたる打ち上げ延期の末、3月4日、ついにスペースXがファルコン9ロケットの打ち上げに成功した。しかし、ロケットの打ち上げは成功でも、スペースX設立者であるイーロン・マスク氏にとっては「苦い失敗」だった。

またもや失敗した着地

 今回のロケット打ち上げは、SES(ルクセンブルグに本社を置く、企業や政府向けの衛星運営会社)の通信衛星を軌道上に乗せるためのものだった。マスク氏は通常使い捨てとなり海に落下するロケットのブースター部分の「リサイクル」を狙っていた。SES側もスペースXからの再利用可能なロケットによる打ち上げに同意していた。

 問題は衛星が1万1000ポンド(約5トン)と、ファルコン9にとってはこれまでの打ち上げで最高重量だったこと。これは燃料を少なくする必要性があることを意味し、当初からブースターの帰還に懸念が持たれていた。マスク氏自身、「今回は失敗に終わるだろうが、次のフライトでは成功させる」とツイッターを流した。

 スペースXは、昨年後半にロケットブースターの着地に成功、しかし今年1月には着地時にブースターの足が折れ、爆発する、という失敗に見舞われた。ロケットを打ち上げ、海上の拠点に着地させるのは「鉛筆をエンパイアステートビルの屋上まで飛ばし、消しゴムの上に落下させる」ほどの精度が必要、と言われる。しかし実現できれば宇宙開発事業にとって大きなコストの節約になる。

4000基の衛星で格安ネット網を築く

 現在NASAはロシアのソユーズに対し、宇宙飛行士を1人宇宙ステーションに運ぶために7000万ドルを支払っている。対してファルコン9の打ち上げ費用は6100万ドル。これを繰り返し使用できるようになれば、かなりのコストが削減できる。

 また、マスク氏の狙いは300キロ程度の軽量の衛星を4000基打ち上げ、世界中に安価なインターネット網を築くことだが、これを実現するためには再利用可能なロケットの存在はマストだ。

 この再利用可能なロケットは、他社の参入もあり現在競争が激化している。米国の億万長者、ジェフ・ベゾス氏は2000年に「ブルー・オリジン」という宇宙旅行を目指す会社を立ち上げた。ブルー・オリジンは現時点で2回、ロケットブースターの着地を成功させている。

 また英国のヴァージン・ギャラクティック社は今年2月、カーボン製ボディの「スペースシップ2」を公開。こちらも個人宇宙旅行が狙いだが、社主であるリチャード・ブランソン氏はマスク氏と同時期に安価な衛星網によるインターネットサービス計画を発表しており、今後両社の「どちらが早く実現するか」という競争も現実化しそうだ。

 この状況の中で、今回のファルコン9の打ち上げの度重なる延期は、スペースXと契約を交わしている世界中の衛星運営会社に不安を与えるものとなった。スペースXは今回のSESのもののような重量級の衛星を打ち上げるため、現在「ファルコン・ヘビー」と呼ばれるロケット開発の最中だ。しかし開発はやや難航しており、ファルコン9では重量級の打ち上げに問題がある、ということが露呈してしまった。

 来年ヨーロッパサット・Hellas-sat3衛星打ち上げをファルコン・ヘビーで予定していたインマルサット社は、「バックアップ」としてインターナショナル・ローンチ・サービスのプロトンロケットを抑えた。プロトン側もインマルサットの予約を認めているが「打ち上げる衛星の詳細は知らされていない」としている。

 今年2月にはカリフォルニア州のビアサット社が、やはり来年4月打ち上げ予定のコンスーマー向けブロードバンド通信衛星を、ファルコン・ヘビーからヨーロッパのアリアン5に変更する、と発表した。

顧客を失う結果につながる可能性

 スペースXではファルコン・ヘビーのテストフライトを今年夏に予定しているが、ブースターの着地にこだわり開発がさらに遅れると、顧客を失う結果につながる可能性がある。

 SESはスペースXの重要な顧客であり、「同社の姿勢に理解を示し計画延期にも同意」してきた。今回の衛星打ち上げは、本来昨年9月に予定されていたもの。今年中にあと2回、17年にも2回の衛星打ち上げをファルコン9もしくはファルコン・ヘビーで行う予定だ。

 このため、世界中の衛星運営会社が今後のSESの動きに注目している。バックアップを求めず、スペースXの「着地成功」に賭けるSESが、もし他社に乗り換えるようなことがあれば、スペースXはかなりの窮地に立たされることになる。

 本気で火星ロケットを計画しているマスク氏にとって、まずはファルコン9、ファルコン・ヘビー、そして大量の衛星打ち上げを成功させ、世界を納得させることが次のステップへの最低条件となる。

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