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「総理在任中の改憲実現」発言の、次に起こること - 南部義典

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

安倍総理の改憲発言を報じる、読売新聞、朝日新聞の各夕刊(2007年1月4日)

飛び出した「総理在任中の改憲実現」発言

 安倍総理は2日の参議院予算委員会で、「自分が内閣総理大臣の任期にあるうちに、憲法改正を実現したい」と発言しました。大塚耕平議員(民主)に対する答弁の中で、突発的に出てきた発言です。
 委員会で議員が行う質疑については、その内容(骨子)が、前(々)日までに政府側に通告されることになっています。質疑の事前通告がないと、いざ委員会の最中、大臣が往々として答弁できないという事態が生じて、委員会の運営を非効率にするからです。総理に対する質疑であれば、官邸がその通告内容に従って、想定問答をあらかじめ作成しています。
 大臣は、想定問答の内容に沿って、無難な答弁に終始するのが通常ですが、2日の発言は、想定問答の内容を超えて、完全なアドリブでなされたものです。内容が内容なだけに、当然、大きなニュースとして扱われました。私は埼玉県在住ですが、翌3日の埼玉新聞が、「首相がアクセル」と、某スポーツ紙並みの目立つ見出しを付けていたのが印象的でした。
 この「総理在任中の改憲実現」発言に関し、既視感を覚えたのは、私だけではないと思います。いつだったか、見覚え、聞き覚えがある、と。

 冒頭の写真は9年前、第1次安倍内閣(2006年9月~)のときのものです。2007年1月4日、伊勢神宮に参拝した後、年頭の記者会見に臨んだ安倍総理は、ほぼ同じ内容の発言をしていました。
 「私の内閣で憲法改正を目指すということを当然、参院選でも訴えていきたい。今年で憲法施行から60年で、新しい時代にふさわしい憲法を作っていくという意思を明確にしていかなければならない。自民党の草案(※「新憲法草案」2005年10月)は出来ており、各党と協議を進めてもらいたい
 会見当日の読売新聞夕刊は、発言の要旨をこのように報じています。
 その後、第1次安倍内閣がどういう顛末を辿ったか、説明する余地もないでしょう。その7月の参議院選挙の結果、与野党の勢力が逆転し、ねじれ国会となりました。早晩、政策の実現に行き詰まった挙句、総理自身の健康問題も重なって、内閣の総辞職という事態に至ったわけです。

※現在の、自民党「日本国憲法改正草案」(2012年4月)の前身となるものです。

正直なところ、発言の真意がわからない

 「総理在任中の改憲実現」発言は、安倍総理にとっては“禁句”であったはずです。第2次安倍内閣(2012年12月~)、そして第3次安倍内閣が発足しても(2014年12月~)、その口から絶対に発せられることがありませんでした。ことし2016年の年頭記者会見でも、憲法改正については一切、言及がありませんでした。それが、今になってなぜ、その封印を解いたのか、正直なところ、その思い切りの真意はよく分かりません。
 また、総理としてではなく、自民党総裁としての立場からくる発言と捉えるほうが自然ですが、この総裁発言の後、党の幹部が誰一人としてフォローしようとしないのも不思議です。実際のところ、自民党の内部でも、最近の6~7年間は、憲法改正に向けたスケジュール感を見失っている状況にあります。憲法改正を党是とする与党として、今後の作業をどう詰めていくのか、取り組み姿勢を明確にしたいという気持ちが一瞬、表に出てきたのかもしれません。アメリカからの憲法改正要求は、いまに始まったことではないので、これが直接のきっかけになったわけではないでしょう。
 いずれにせよ、政府も自民党も、この発言を真面目に受け止めていないということは断言できます。頭の中だけで憲法改正を自己目的化してしまった、哀れな為政者の戯言と理解するしかありません。

まずは、“おおさか維新案”の丸呑みから

 「総理在任中の改憲実現」発言はいったん横に置くとしても、今後、野党と、与党でも野党でもない「ゆ党」との関係で、政治的な意味での化学反応が、予想を超えて起きてくるのではないかと思います。とくに、次の二点を指摘しておきます。
 まず、昨年11月に結成された、おおさか維新の会との関係についてです。橋下・前大阪市長が同会の法律政策顧問として加わりつつ、同会としての憲法改正の考え方をこの3月中にまとめる予定と報じられています。具体的な内容は明らかではありませんが、自民党は近い将来、この“おおさか維新案”を丸呑みする形で、憲政史上初となる憲法改正の審議をスタートさせようと目論むことが考えられます。これとは別ルートですが、全国知事会も、4月中に憲法改正に関する提案を行うこととされており、これらピンポイントの案を尊重(利用)することが十分ありうるのです。
 4年前にまとめた自民党「日本国憲法改正草案」は、年を重ねるごとに国民的評判を落としており、各党協議のたたき台としてもそのまま使えないことは、永田町の中でも定説化しつつあります。憲法改正論議を現実的にスタートさせるには、草案の内容をテーマごと、内容ごとに細かく分けて、議論のテーブルに載せるという作業をしなければならないのですが、その優先順位を付ける際、イデオロギー的な対立や、衆議院側と参議院側の対立といった問題が、派閥の思惑が絡み合いながらその都度あらわになってしまうので、自民党自身が草案に手が付けられない状況に陥っているという事情もあります(…民主党は憲法に関しては意見がバラバラだといわれますが、自民党もそれなりの意見対立を抱えているのです)。
 したがって、議論する価値の低い(無い)自民党草案を持ち出して、余計な労力をかけるよりはむしろ、新鮮味がある“おおさか維新案”に縋ったほうがいいという政治判断がありうるわけです。参議院選挙(衆議院との同日選挙)の結果、おおさか維新の会などを加えて、「両議院の総議員の3分の2以上」の賛成多数派が形成できれば、一気に事が運ぶ予感がします。

ブレーキ役で無くなる「民維新党」

 もう一点は、27日に結成される民主党と維新の党の新党についてです。民主党には今まで、他の野党とともに、国会における行き過ぎた憲法論議を抑止する期待がかかっていました。憲法改正に関しては、3分の2の賛成多数派に加わらなければよいわけですから、「余計な動きをしないこと」が最大の仕事であって、最高の功績であったかもしれません。
 しかし、維新の党との合流の後、民維新党が果たしてブレーキ役として機能するかどうか、私は疑問を持っています。新党名に“立憲”という冠が付こうが付くまいが、関係ありません。民主党の中には、ブレーキ役として、実質的な看板を背負ってきた多くのベテラン議員がいますが、次回の衆参選挙を以て、一斉に引退してしまうことがその原因です。今までは「のらりくらり」でかわすことができたかもしれませんが、重みのあるベテランが不在となり、党としてのベクトルがどっちに向くか予想もつかなくなります。前記、おおさか維新案の丸呑みという政治判断に、易々と乗っかろうとする議員も皆無ではありません。

 現在の政治情勢からすれば、3月末に2016年度政府予算案が参議院で可決・成立した後は、何が起きてもおかしくありません。立憲主義の理解、実践が進む一方で、これをあいまいにする勢力も次々と、台頭しようとしています。憲法にはそもそも、国民以上の政治的権威は想定されていないことから、私たちは面倒で、しんどい思いをしながらも、政治の監視、監督を続けていかなければなりません。
 最近、新聞記事の中にも「立憲政治」という言葉が出てきて、私としても心強く、うれしい限りですが、これが単なる理想や目標で終わることがないよう、すべての政党、すべての議員に対して、声をさらに強めていかなければならないと痛感しています。

 最後に、新刊の宣伝をさせていただきます。
 私が共著者の一人となった『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』が、開発教育協会より発売されました。本書において、第3章「18歳選挙権・18歳成人の法律論」を執筆させていただいています。
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『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』
(特定非営利活動法人 開発教育協会)¥2,160(税込)

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