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「Yahoo!の中に埋没するつもりは全くない」 〜朝日新聞・渡辺雅隆社長インタビュー

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朝日新聞が5年後に向けた中期経営計画をまとめた。「紙からネットへ」という環境の変化で、他の新聞社と同じく苦戦を強いられているが、新しい計画では、新規事業などで売上を年間2700億円から3000億円に増やすとしている。その目標を実現するためには、ネット時代に適応した組織改革や意識変革が欠かせない。朝日新聞を率いる渡辺雅隆社長(56)は「ネット対応」についてどう考えているのか、詳しく話を聞いた。【取材・構成/亀松太郎】

渡辺雅隆社長


取材は2月23日の午後、東京・築地の朝日新聞社屋で、7つのメディアによるグループインタビューとして実施された。参加したのは、東洋経済、ダイヤモンド、プレジデント、財界、経済界、創の各記者と、私だった。1時間半近くに及んだ共同取材は、それぞれの記者が順番にいくつか質問する形で進められた。

私はふだん、BLOGOSや弁護士ドットコムニュースなどネットのメディアで活動していることもあり、主にネットに関する質問を渡辺社長にぶつけることにした。Yahoo!やLINEといったネット企業にどう対抗していくのか。Buzzfeedやハフィントンポストといった海外発のニュースメディアをどう見ているのか。さらに、ネットへのシフトという環境変化に対応するため、人件費削減などのリストラ策をどう進めていくのか―。

他の記者が質問した項目については、それぞれのメディアの記事でご覧いただくとして、ここでは私自身が直接質問し、それに渡辺社長が回答した内容に絞って紹介したい。その代わり、質問も回答も、できるだけカットしないで掲載するように努めた。質問したものの明確な回答が得られなかったことも含め、大手新聞社のトップと一記者のやりとりの「全体像」を感じ取ってもらいたいと、考えたためである。

「FacebookやLINEは使っていない」

―経営計画の前提となる環境変化の一つとして「ネット環境進化」があげられています。そこで、ネットについて聞きたいのですが、渡辺社長がインターネットを初めて使ったのはいつですか?

渡辺:いつのことだろう・・・。パソコンは割と早い時期から持っていたんですよね。FM-7(富士通が1980年代に発売したパソコン)みたいなところから触っていたりしたので。ただ、このときにインターネットを触れたという明確な記憶は、ちょっとわからないですね。いつのまにか、取材の中に入ってきていたので。

―インターネットに触れたときに、最初にどのように感じましたか?

渡辺:便利だな、と思いました。

―自分が情報を知る手段として、ということですか?

渡辺:そうですね。それがどれくらいの時期だったかは忘れてしまいましたが・・・。新聞記者としての自分のことを思い返してみると、連載で何か記事を書かなければいけないとか、何かまとまったことを考えてやらなければいけないと思ったら、図書館に行ったり、大宅文庫に行ったり、会社の資料室に行ったりして探す手間暇や時間が本当に長かったんですね。そこから、いろんなことがわかってくると、今度はいろんな専門家の方の話を聞きに行って、また次に誰かを紹介してもらってという作業を繰り返していたわけです。そういうのが、(インターネットによって)どんどん、その場でできていく。しかも、時間に関係なくできていく。そういう意味では、便利だなと思いました。

―情報を知る手段としてすごく便利だというのは、その通りだと思いますが、最近はそれだけではなく、一般の人たちが双方向でどんどんやり取りするプラットフォームとして使われています。現在の日本では、たとえば、Facebook、LINE、ニコニコ動画というのが双方向のプラットフォームとして使われていますが、渡辺社長はいま、この3つを使っていますか?

渡辺:僕は、正直に言うと、使っていないですね。それはいろいろ理由がありまして、たとえばLINEは、家族のLINE(グループ)はあるけれど、入れてもらえないとかですね(笑)。なぜか、疎外されているんです。また、LINEをやっているのを見ていると、しょっちゅう返さなければいけないみたいで、面倒くさそうだなというのがありますね。

―ただ、いまのネットのニュースの世界では、今までYahoo!一強だったのが、LINEというプラットフォームが出てきて、もしかしたらYahoo!の対抗馬になるかもしれないと言われています。また、海外からFacebookがやってきて、「インタスタントアーティクル」という形で、ニュースのプラットフォームとしても非常に重要な存在になってきています。そんな中で、渡辺社長自身がFacebookやLINEを使っていないというのは、ちょっと大丈夫かなと思ってしまうのですが、どうでしょう?

渡辺:そういう面で、そのジャンルが重要であるというのは認識しているんですよ。うちも、Facebookにしろ、LINEにしろ、そこを起点にしてニュースを出していくということについては、別に消極的になろうという気は全然ないです。これだけ情報が増えてきて、みなさんが情報に接触する場面がこれだけ多様化してきている中で、自分のところで出しているニュースがどこかでユーザーにひっかかってもらわなければいけないとすれば、その出し先が朝日新聞デジタルだけということはありえない。そこはやっぱり、柔軟に考えていくべきだと思っています。

―渡辺社長自身がFacebookやLINEを使ってみて、感覚としてつかむというのはないですか? 紙の新聞も手に取って読んでみないとその良さがわからないと思います。Facebookで読む朝日新聞、LINEで読む朝日新聞は、それぞれのプラットフォームで見てみないとわからないと思うんですが…。

渡辺:それは、そういう面があるのかもしれません。ただ、正直、あまり時間もなくてですね。いま、日々、精一杯という感じなので(苦笑)。

「ハフィントンポストはすごく勉強になる」

―ネットの問題としてはもう一つ、Buzzfeed(今年1月に日本版が始まった米国発ニュースサイト)のことを聞きたいと思います。Buzzfeed Japanは、朝日新聞の記者だった古田大輔さんが編集長に就任して、編集部員としても朝日新聞の経済部の方が入りました。さらに、朝日新聞が出資しているハフィントンポストからも2人ほど行っている。ある意味、朝日新聞が育てた人たちがBuzzfeedに行っているともいえますが、Buzzfeedについてはどのように見ていますか?

BuzzFeed日本版立ち上げ時の会見
渡辺:Buzzfeedは、まだ始まって間もないので、どういうふうに育っていくのかなという関心はありますけど、私がいまどうとか論評するということではないかなと思っています。

僕も紙の世界でずっと生きてきたので、ハフィントンポストが始まったとき、どんな人たちに、どんなふうに読まれていくんだろうというのがありましたけど、ここまでしっかりと成長して、ある程度、影響力をもったメディアになってきたのをみると、ああいう形のニュースの伝え方というのもありなんだという意味で、すごく勉強になりますね。

ハフィントンポスト日本版立ち上げ時の会見
―中期経営計画の中では、外部の人材を登用していこうということも書かれていますが、たとえば、Yahoo!やLNEやBuzzfeedといったネット企業の中のメディアに近いところでやっている人たちを、どんどん朝日新聞の中に取り込んでいこうという考えはないでしょうか?

渡辺:拒絶しているつもりは全くなくて、必要ならば、そういうこともありだと思います。

―(他の記者に対する回答の中で)「朝日新聞はジャーナリズムの会社である」という言葉がありました。「ジャーナリズム」という言葉はかなり多義的で、人によって意味内容が異なっているようにも感じるんですが、渡辺社長にとって「ジャーナリズム」とは、いったいどういうものでしょうか?

渡辺:日々のいろんな紙面で書かれていることの中で、「この記者が報じなければこのことは表には出なかったであろう。しかし、これは極めて重要なものだ」というものが、いくつもあると思うんですね。そういうものをしっかりと書いていくのが「ジャーナリズム」だと思います。そのためには、専門の訓練を受けた人たちが、そのために仕事をしているということが極めて重要だ、と。だからこそ、私たちのような会社が存続する意味があると思っています。

―「これぞ、ジャーナリズムだ」という具体例を一つあげるとしたら、なんでしょうか?

渡辺:僕が直接、関わったものでいうと、大阪の編集局長時代に新聞協会賞もいただいた(大阪地検特捜部の)フロッピーディスク改ざん事件というのがあります。僕の出身でもある大阪社会部の若い人たちがやってくれた仕事で、すごくいい仕事をしたなあと思いました。それは、僕が社会部で事件系の取材をしてきたからそういうふうに思うのであって、政治部だったら政治部としての違う考え方があるかもしれませんけど。

―フロッピーディスク改ざん事件は、朝日新聞の記者が独自に調べたという意味で、いわゆる「調査報道」ということになるのだと思います。一方で、中期経営計画の中では、新しい「課題解決型の報道」を強化するとしています。これは具体的にいうと、どういうものですか?

渡辺:たとえば、いま「子どもの貧困」というテーマで連載をやっています。この豊かな日本の中で、子どもの貧困というときに、どういうことを思い浮かべていくか。ここに、厳しい中で暮らしている人たちがいるというだけでは、なかなか説得力を持たない。そういう人たちが実は10人に1人いるとか、この地域にこれだけいるという調査データがあって、それに対する施策がどのように行われていて、その施策の不備がどうなっているのかということを調べて書いていく。そういうのが極めて重要だと思っています。

これは、隠されたものをパッと抜いてくるというのとは次元が違うけれども、極めて大事な「調査報道」と言っていいんじゃないかと思います。それをどうしていくのかということを、いろんな人の知見を集めて考える場を作っていくというのが「課題解決型の報道」のイメージです。

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