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経営者は東大博士! 人気ニュースアプリの生みの親【1】 -対談:スマートニュース会長・共同CEO 鈴木健×田原総一朗

村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影

新聞や雑誌の記事を無料で見られるニュースまとめアプリ、スマートニュース。無数にあるニュースはどのように選別され、どんな仕組みで運営しているのか。経産省から天才プログラマーに認定され、学術書も執筆する異色の創業者に話を聞いた。

ヤフーのニュースとどこが違うか

【田原】さっそく教えてください。鈴木さんが2012年にはじめられたSmartNews(スマートニュース)は、ヤフーのニュースと何が違うのですか。


スマートニュース会長・共同CEO 鈴木健氏(東京・渋谷区神宮前のスマートニュース本社にて)

【鈴木】大きな違いは2つあって、1つは使いやすさです。じつはスマートニュースの前にもいろいろなところがニュースアプリを出していました。たとえば日経新聞のアプリもあれば、ニフティやヤフーもあった。ただ、それらは使いづらくて、人気もありませんでした。

【田原】ヤフーでニュース見る人は多いと思っていたけど、違うんですか。

【鈴木】ブラウザーでヤフーのニュースを見る人はたくさんいましたよ。でも、アプリを使って見る人は少なかった。当時、AppStoreというアップルのストアでニュースカテゴリー1位のアプリは、全体ではだいたい250位から300位。ユーザーはおそらく10万、20万というレベルだったんじゃないでしょうか。

【田原】スマートニュースは?

【鈴木】出した翌日にAppStoreの4位になりました。ノンプロモーションだったので、びっくりしました。

【田原】さっき、スマートニュースは使いやすいとおっしゃった。実際に触ってみて気づきましたが、ヤフーはニュースのヘッドラインが並ぶだけなのに、スマートニュースは新聞みたいに写真がついて、記事の大きさがまちまちになっている。

【鈴木】レイアウトはかなり意識しています。あと、使いやすさという点でいうと地下鉄で読めることも大きかったです。僕がスマートニュースの企画を考えていたのは4年前。当時は電波状況が悪いところが多くて、スマホを持っていてもゲームをするくらいしかありませんでした。地下鉄で周りを見回すとみんなゲームばかり。ふと自分のスマホに視線を落とすと、やっぱり僕もゲームを開いていた(笑)。でも、スマホが普及する前はみんな車内で新聞を折りたたんで読んでいたのだから、ニュースの需要がないわけじゃない。だから電波がなくても読めるようにしようと共同創業者の浜本階生に提案して電波のあるところで1回、アプリを起動しておけば、あとで電波がないところでも読めるようにしました。

【田原】ヤフーとは違う点が2つあると言いましたね。使いやすさと、もう1つは何ですか。

【鈴木】ヤフーニュースは25人程度の編集チームがあって、載せる記事をセレクションしています。スマートニュースも同じく人間の力で記事を選ぶのですが、25人ではなく数百万人の力を使います。

【田原】あれ? 機械の力で自動的に記事を選ぶって聞いたけど。

【鈴木】そこは少し誤解があります。ヤフーは25人の編集部員が記事を選びますが、何を選ぶのかについて、25人の意見がばらばらになることもあるかと思います。そのときはおそらくデスクが決めるとか、議論をして投票をするとか、何らかのアルゴリズムで意思決定しているはずです。じつはスマートニュースも構造は同じです。数百万人ものユーザーによって載る記事が決定されていきます。ただ、数百万人いると、会議を開いて意見をまとめることはできない。その意見集約に人工知能という機械の力を借りているのです。選んでいるのはユーザーという人間の力を集めた集合知です。

【田原】もう少し詳しく説明してもらえますか。

【鈴木】ユーザーがどの記事を何秒間読んだのかというデータは様々な視点で分析されます。たとえばよくタップされるものの、離脱時期が早い記事は、タイトルは扇情的だけど中身がない“釣り記事”で、読む価値が低いかもしれない。そういうことを誰か特定の人ではなく数百万人の集合知で判定して、1日1000万件の記事の中から1000本くらいに記事を絞っていくわけです。

【田原】なるほど。最近、キュレーションという言葉をよく聞くけど、スマートニュースはユーザーがキュレーションしているわけだ。

【鈴木】そうですね。ただ、個人的にはキュレーションと言われることに対して若干の違和感はあります。そもそもキュレーションは美術館で展覧会を企画するキュレーターからきている言葉で、キュレーションすることは、キュレーターの思想の表現と言っていい。でも、集合知で選ぶスマートニュースが思想の表現かというと、ちょっとピンとこない。僕自身はキュレーションという言葉は使わず、ニュースアプリと言っています。よくスマートニュースもキュレーションサービスと言われますが、それはもうしょうがないという感じで見ています。

中学で社会に行き詰まりを感じた

【田原】今日はぜひおうかがいしたかったことがあります。鈴木さんはITやメディアの人かと思ったら、もともと気鋭の研究者で、『なめらかな社会とその敵』という本をお書きになっている。ごく単純に言うと、この本で鈴木さんは、境界線を取り払ってなめらかな社会にしようとおっしゃっている。行き詰まりを感じ始めたのは、いつごろからですか?


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スマートニュース会長・共同CEO 鈴木健氏の略歴

【鈴木】中学生のころですかね。ベルリンの壁が壊れて冷戦が終わった直後は、理想主義が強かったですよね。フランシス・フクヤマは『歴史の終わり』を書いて、大きな戦争はもう起こらないと言いました。僕も、そうだといいなと思っていました。

【田原】うん。中曽根康弘も冷戦が終わったとき、「これは神が人類にくれた休息の時間だ。いまこそ人類は世界平和を考えるべきだ」と僕に言った。

【鈴木】ところが現実には湾岸戦争が起きて、必ずしも理想的な状況にならなかった。理想主義が現実主義との戦いに敗れてしまったわけです。

【田原】どうして理想主義が負けたんだろう。

【鈴木】現実を直視していなかったからじゃないですか。戦争が起きるのは生命の本質であり、それがない世界をつくるのは本質的に難しいということがわかっていなかった。

【田原】ん? 生命の本質って?

【鈴木】生命は資源がないと生きていけません。外部から何らかの物質を中に入れて、中で化学反応を起こしてエネルギーを取り出して、残ったものを外に出す。この代謝システムが生命の本質です。これは国家も同じです。貿易して外から資源を持ってきて、代謝させることで自己を維持させています。ただ、資源というものは有限であり、人口が増えている状況では奪い合わざるをえない。その現実を直視していなかった。

【田原】だけどいま石油の価格はどんどん下がっています。足りないなら上がらないといけないはずだけど。

【鈴木】石油の専門家ではないので詳しいことはわかりませんが、いま価格が下がっているのは短期的な現象でしょう。資源の需要と供給は、人口に左右されます。中長期的には人口が増えているのだから、やっぱり資源の奪い合いは起きる。人口予測で言うと、世界の人口は2100年ごろにピークを迎えて100億人に達すると言われていますから、今後100年間くらいは非常に危険な状況が続くんじゃないでしょうか。

【田原】資源を奪い合うのが生命の本質だとしたら、どうすればいい?

【鈴木】生命は「核」と「膜」で境界線をつくって、内に資源を囲い込もうとします。この機能を弱めて、世界を「網」としてとらえる仕組みをイノベーションによってつくっていこうというのが、僕の考えです。

【田原】ごめんなさい、抽象的でよくわからない。具体的に聞きます。鈴木さんの言葉で言うと、国境というのは「膜」ですね。それを守るために、いま軍隊が存在している。これはもういらない?

【鈴木】軍隊をなくすのは無理だと思います。ただ、いま中央集権的な仕組みで運営されている軍隊を、分散的な仕組みでやることは可能なんじゃないかと。

【田原】分散って、国連みたいなイメージですか。

【鈴木】いや、国連も単位が国です。僕が言っているのは、もっと細かい単位の分散です。たとえば個人とか。

【田原】個人じゃ軍隊持てっこないじゃない。スイスみたいに、全員が武装するってこと?

【鈴木】近いです。ただ、スイスの全員武装は、あくまでもスイスという国を守るための方法論です。それよりも、スイスという単位自体をなめらかにしていこうと。

田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。若手起業家との対談を収録した『起業のリアル』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

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