
株式会社ソニックガーデン社長の倉貫義人氏とサイボウズ青野慶久社長のリモートワークにまつわる対談(
前編/
中編)に続き、最終回となる第3回。サイボウズで開発マネージャーを務める佐藤鉄平、田中裕一の2人が、チームマネジメントの観点から倉貫氏にさまざまな質問をぶつけます。
「社員の評価はしない。ボーナスはみんなで山分け」との倉貫氏の発言に2人はビックリ。さらに、価値観の近い人を厳選する、ソニックガーデン独自の採用プロセスの全貌も大公開。一体感に溢れた、強いチームを生み出すためのヒントが満載です。
短期的な評価をするとチームワークが崩壊する

僕らは開発チームのリーダー、マネージャーをやっているので、主にチームマネジメントの観点からお聞きしていきたいと思います。
まず、リモートで働き始めると難しいのが、給与を含めた評価だと思うんです。ソニックガーデンさんでは評価はどうやっているんですか?

評価ですか……。
評価はもうやっていないですね。給与は基本的に横並びで、ボーナスは山分けです。
倉貫義人さん。1974年京都生まれ。株式会社ソニックガーデン代表取締役。1999年立命館大学大学院を卒業し、TISに入社。2011年、自ら立ち上げた社内ベンチャーをMBOで買収し、ソニックガーデンを創業。「納品のない受託開発」というITサービスの新しいビジネスモデルを確立し、注目を集める。新著『リモートチームでうまくいく』

山分けですか!(笑)

各チームのリーダーで均等に山分けするんですか?

今はチームに分けていないので、全体で山分けです。あ、もちろん、レベルによって給与の差はありますよ? 僕らの会社では上から「一人前」「弟子」「見習い」という、役職というか階級みたいなものがあって、その階級ごとに当然、給与は違う。ただ、同じ階級の人はほぼいっしょの給与です。レベルによる差はあるけど、個人の成果とは連動していません。

なぜ山分けにしたんですか?
良い悪いを短期的に見ないからです。短期的に評価すると、短期的な視線で仕事をしちゃうじゃないですか? 一番イヤなのは、チームで助け合って働くのが大事なのに、“自分の評価を考えると、この人を助けている場合じゃない”となってしまうこと。そうなるとチームワークが崩壊します。だから短期的な評価はやめました。

なるほど。

しかも、エンジニアの場合、そもそも短期的に評価するのは難しいですよね? 営業ならば、たくさん売ってきたらその分、給料を多くあげましょう、となってわかりやすい。
けれども
エンジニアの場合、短期で評価できる仕事ってないんですよ。例えば、良いコードを書き、非常に保守性が高くて助かったとして、評価されるのは1年後、2年後でしょう? 短期的に評価しようがないんです。

よくわかります。

だったら、短期的な評価なんてやめて、チームが潤ったらチーム全体に還元すればいいという考え方です。
サイボウズの場合は、評価は市場評価なんですよ。その人が今、転職したらこれくらいの額だよね、と、本人と会社でやり取りして給与を決めます。ある意味、評価をマーケットに丸投げしたんです。
佐藤鉄平:1982年新潟県生まれ。2007年サイボウズにエンジニアとして入社。Garoon、kintoneの開発を経て、2015年7月グローバル開発本部副本部長に就任。JavaScriptとカレーが好き。

おもしろいですねえ。

昔はサイボウズも、評価規定を作ったり、目標達成率で決めたりしていたんですが、エンジニアの場合、倉貫さんがおっしゃったように、数値の設定ができないんですよね。
そんなわけで、なかばあきらめの境地で市場評価になったんですが(笑)。山分けまではいきませんが、考え方はソニックガーデンさんと似ているところがあるかもしれません。

それにしても山分けはすごいですよね。社員の方々はみんな、納得感を持っているんですか?

まあ、そういうものなんだという感じですよね(笑)

給与評価って、「この人はこういう方向に育てよう」というツールみたいな役割もあると思うのですが、そのあたりは給与評価以外のところでやっているんでしょうか?

「こういう方向に育てよう」というのはそもそもないですね。ソニックガーデンの場合、「みんなプログラマ」なので。「キミはやはりインフラ系だね」みたいにコントロールして育てようがないんです。

コントロールとまではいかなくても、「この人は今、うまく働けていないけど、実はこういうのが向いているのでは?」みたいなことってあったりすると思うんですよ。
サイボウズではそういうところを見るのもリーダーの役割の1つなのですが、ソニックガーデンさんではいかがですか? 社員のキャリア相談に乗ったりはするんですか?

もちろん相談には乗ります。けれども、繰り返しになりますが、ウチの場合、プログラマ以外の選択肢はない。「広報に向いているのでは」となったとしても広報の仕事はないんですよ。
だから、相談されても「頑張ろう」としか言えない。どうしてもプログラマで頑張れないなら、会社を辞めるしかないです。厳しいかもしれませんが。

サイボウズより自立した環境かもしれませんね。

その意味で逃げ道はないですね。ただ、副業は全然OKなので。個人的にやりたいことがあるなら、そちらでやってもらって構いません。