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フィリピンに“ISの衛星国”誕生か - 岡崎研究所

シンガポール南洋理工大学ラジャラトラム国際関係学院のグナラトナ教授が、1月19日付PacNetにて、ISのフィリピンへの「衛星国」樹立の危険性を指摘し、フィリピン政府の緊急な対応が必要である、と述べています。要旨は次の通り。

“フィリピンのイスラム国”指導者の誕生

 ISはフィリピンとインドネシアに支部を作りそうである。インドネシア東部への衛星国樹立は同国軍に先手を打たれたが、フィリピン南部におけるIS支部設立宣言は、地域でのISのイデオロギーの影響の高まりを反映している。1月14日のジャカルタでのテロは、ISによる東南アジアへの明確な危険を示す。

 バグダディに忠誠を誓うフィリピンの地元組織間での議論の結果、「フィリピンのイスラム国」の指導者に、スールー諸島のバシランを拠点とするアブ・サヤフ・グループ(ASG)の指導者、イスニロン・ハピロンが指名された。ISがバシランに聖域を作り、スールー諸島からフィリピンとマレーシアへの作戦を実施するようになれば、地域全体への脅威となる。訓練キャンプの設置は、東南アジアのみならず、豪州、ウイグルなどの人も惹きつけよう。ハピロンはマレーシアを重視しており、マレーシア人がミンダナオのISに参加するだろう。

 1994年にジェマ・イスラミア(JI)が最初の訓練キャンプを設立して以来、フィリピンは、インドネシア人、マレーシア人、シンガポール人、タイのムスリム、アラブ人にとり重要な訓練地となっている。スールー諸島は訓練、作戦基地になっただけでなく、フィリピンとマレーシアを戦略的に結び付けている。

 ISは、イデオローグを送り込むだけでなく、爆発物の専門家、戦術家、その他の作戦要員も派遣する可能性が高い。ミンダナオ島に「国家」樹立を宣言するISの計画は、政治的安定、社会的調和、経済的成長を享受してきた東南アジアにとり、極めて現実的な脅威である。

 フィリピン軍は、ミンダナオ、特にスールー諸島のテロリストのインフラを破壊する能力に欠けている。フィリピン軍は「フィリピンのイスラム国」についてのISの発表をプロパガンダとして片づけている。ミンダナオがISの震源地になるのを阻止することの緊急性が完全には共有されていない。

 ISのスールー諸島への「衛星国」樹立に対しアキノ大統領は先手を打つべきである。ムスリムの心を掴み彼らのISへの支持を阻止するには、フィリピン軍は、ASGの封じ込め、孤立、除去より、地域を経済的に発展させる役割を掲げるべきである。また、フィリピン軍はスールー、バシラン、タウイタウイに展開すべきである。フィリピン軍がスールー島で優勢になれば、ISはフィリピンへの衛星国樹立、作戦、拡大ができなくなる。それは、マレーシア、地域、さらにその外にも意味がある。

出典:Rohan Gunaratna,‘Islamic State branches in Southeast Asia’(PacNet, January 19, 2016)
http://csis.org/files/publication/160119_PacNet_1607.pdf

*   *   *

これまでも過激化してきたフィリピンのイスラム教徒

 フィリピン南部にISの衛星国ができる可能性が現実味を帯びてきています。

 その背景にはフィリピンにおける少数グループとしてのイスラム教徒の存在があります。イスラム教徒はフィリピンの人口の6~9%を占めるに過ぎませんが、これまで過激化してきた経緯があります。その代表例が、フィリピン南部,ミンダナオ島を拠点とするイスラム分離独立派の反政府組織、モロ・イスラム解放戦線です。長年の政府との対立ののち、和解が成立したが、和解に不満な分子グループが、フィリピン南部のスールー諸島を拠点とするアブ・サヤフ・グループ(ASG)のもとに統一され、ASGのリーダーがISから認知されたと言います。ISは今後、ASGを核として、スールー諸島でのISの衛星国樹立を宣言する可能性があります。

 この動きは、IS本体が受け身に立たされ、ISがシリア、イラク以外で成果を上げる必要に迫られているという状況の反映とも言えます。ISは本体の不利な状況から目をそらし、ISの魅力を示すために世界各地でテロ活動を強化しています。

 しかし、ISがシリア、イラク以外に拠点を築くことは、各地でテロをするより深刻な脅威です。その拠点にイデオローグ、爆発物の専門家、戦術家、作戦要員、爆発物などを送り込み、より組織的にテロ活動を拡大する可能性が高まるからです。これまでのところISはリビアに拠点を作っていると見られます。フィリピンの拠点については、どの程度本格的なものとなるのか分かりませんが、もし拠点ができれば、東南アジアにとってのISの脅威は一段と深刻になります。

イスラム国はASEAN諸国共通の問題

 論説によれば、フィリピン政府がISの動きを深刻に受け止めていないきらいがありますが、フィリピン政府、軍は本気で、IS対策を講じるべきです。

 また、関係国との連携が重要となります。ASGの指導者がマレーシアを重視しており、マレーシア人がフィリピンでのIS支部に参加する可能性が高いということであれば、マレーシア政府との協力が不可欠となります。

 ISについては最近テロ攻撃を受けたインドネシアも脅威を感じています。またタイもマレーシアとの国境のイスラム教徒の一部が以前より分離独立の運動をしており、ISが働きかける可能性があります。そうなるとISは一部の国の問題ではなく、ASEANの共通の関心事項となります。ASEANは共同してISの脅威に対処すべきであり、我が国もISの脅威についての認識をASEANと共有すべきでしょう。

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