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AKB48を卒業すると、なぜメンバーはフェードアウトするのか

AKB48というユニットは変わっている。選挙によってセンター、つまりメンバーの中心と主要メンバーの神7などが毎年選ばれるが、メインを張っているアイドルは早晩、「卒業」と称してAKBを離脱していく。その後、個々で活躍を始めることになるのだが……なぜか、そのほとんどがフェードアウトするという現象が発生しているのだ。前田敦子しかり、大島優子しかり。神7を担ったメンバーも同様だ。篠田麻里子とか板野友美とか、もうメジャーでは全然見かけないのだけれど……どうしてなんだろう?

今回は、AKBのメンバーが卒業するとフェイドアウトするの理由をメディア論的に考えてみた。ちなみに、これはかなり必然的な問題と、僕は踏んでいる。元凶はプロデューサー・秋元康の方針にある。

秋元康という利己遺伝子

進化生物学者のR.ドーキンスは「利己遺伝子」という面白いアイデアを提供している。バッサリいってしまうと「遺伝子は自己中である」という考え方だ。遺伝子は自分が生き残ることに専ら関心があり、そのためだったらなんでもする。この時、生物=個体は遺伝子にとって「乗り物」でしかない。この乗り物=個体が使えないとなったら、とっとと捨てて乗り換えるということを平気でやってしまうというのだ。典型的な例として「レミングの集団自殺」を取り上げてみたい(ちなみに、この話はディズニーが映画でデッチあげたウソ話だが、説明としては解りやすいので比喩としてご理解いただきたい)。レミングはネズミの一種。例えば小さな島でレミングが大量発生し、個体を維持するのに十分な食料を確保できないとなると、突然大量のレミングが海に突進し、自殺する。これによって、いわば「間引き」が行われ、その結果、レミングという種の生存は確保される。このプログラムを実施しているのが、要するに遺伝子、つまりひたすら生存したいために乗り物を破壊する利己遺伝子というわけだ。

すでにお断りしておいたように、これはフィクションだが、遺伝子にはこういった性質があるとドーキンスは説いたのだった。

さて、ここからはアナロジーで考えてみたい。利己遺伝子=秋元康、遺伝子の乗り物・個体=AKB48である。秋元という利己遺伝子は、専ら自己によるプロデュースというシステムを維持することに関心を持っている。これを作り上げることを専ら目標に掲げるのだ。そして、これまで様々なシステムを構築してきた。80年代初頭に作り上げたシステムはフジの深夜番組『オールナイトフジ』だった。プロデューサー・石田弘の下、構成を担当し「オールナイターズ」と呼ばれる素人女子大生からなるパーソナリティーを大挙出演させ、人気を博すことに成功(キャッチフレーズは「私たちはバカじゃない!」)。80年代半ばには、やはり石田傘下で、今度は『夕焼けニャンニャン』をスタートさせ、ここでオールナイターズ同様の「おニャン子クラブ」を結成した。ただし、おニャン子クラブは女子高生からなる一群で、実際に放課後の部活的なイメージで番組は進行した(時間帯は午後五時から一時間枠。こちらもフジ)。おニャン子クラブは大ブレークし、社会現象と呼ばれるまでに。メンバーをぞろっと並べて歌わせるという(代表曲は「セーラー服を脱がさないで」)手法を編み出し、個々のメンバーからは国生さゆり、渡辺満里奈、工藤静香等が輩出した。そして、その延長上というか、極端にしたものがAKB48に他ならない。

オールナイターズ、おニャン子クラブ、そしてAKB48という個体には共通する特徴が存在する。すべて「ほとんど素人」であることだ。容貌、スタイル、演技力、歌唱力、ダンス能力、話術力、どれを取ってもほぼ素人なのである。そして、この素人という個体=乗り物を秋元利己遺伝子は面白いように操作して、自らのシステムを構築し、その生存を続けるのである。言い換えれば、秋元は自分が乗っかる個体に、実際ところ、ほとんど関心がないということなのだが。

このことは、個体=乗り物の乗り換えという操作をいとも簡単に行うところにも出ている。ここまで、秋元利己遺伝子を「システム」と呼んできたが、もうすこし厳密に表現すれば「自己組織」ということになる。単なるシステムであればメカニズムとして閉じているのだが、秋元のシステムは状況に応じて、そのシステムを柔軟に変化させるのだ。つまり、システム=自己組織性が十全に機能なくなり始めると、乗り物の新陳代謝を行っていく。メンバー=個体をどんどん取り替えていくわけなのだけれど、それでも対応できないとなると、今度は既存の個体からなるシステムそのものを破壊してしまう。

で、その時、秋元の利己遺伝子はどうやってサバイバルしているのかといえば、もはやおわかりだろうが、新しい個体にシステムを移し替えることによって、これを達成するのだ。それがオールナイターズ→おニャン子クラブ→AKB48という形でのシステムの名称替えだ。もちろん、この時、個体=乗り物は女子大生→高校生→アイドル志望の女子というかたちで変容を遂げている。しかしながら秋元利己遺伝子は基本的に同じ。いや厳密に言えば、そのシステム=自己組織性を時代に合わせてより洗練化させているということになるのだろうが。

その究極の形が、ようするにAKB48なのだ。秋元自ら「クラスで10番目くらいの子を集めた」と発言しているように、秋元利己遺伝子が作り上げたシステムの中で、AKB48は利用している個体が最も特徴的に乏しいものになっている。秋元は、要するにシステム=自己組織性を十全に機能させることだけに関心をどんどんと集中させ、このシステムを洗練させることに注力していったのである。要するに、ここにあるのは秋元利己遺伝子の「美学の追究」だったのだ。システムが中心となって美しく機能すれば、個体はなんでもいいというのが秋元のスタンスだろう。

システム消費するファンたち

そして、このシステム=自己組織性戦略が花開く。AKB48に血道を上げるファンたちは「推しメン」だなんだといいながら、その実、彼らもまたメンバーそれ自体には関心を持っていない。にもかかわらず握手券をゲットし、総選挙の投票権を獲得するためにCDを大人買いし、ライブに頻繁に通い続ける。この時、ファンたちがやっているのは推しメンのメンバーに思いを託しているようでいて、その実、秋元の作り上げたシステムに包摂されることに深い快感を覚えているのだ。だから、容姿や演技力、歌唱力、パフォーマンスは実のところ付随的なものになる。言い換えればファンたちはAKB48のメンバーという乗り物=個体をメディア=媒介に、秋元利己遺伝子によるシステム=自己組織性を消費しているのである。本丸は秋元の方にある。

ファンにとって秋元利己遺伝子によるシステムの消費は実に快感だ。このシステムの中に身を置くことによって、ファンは他のファンとの競争(これまた推しメンによる神セブンやセンターの地位を巡ってのせめぎ合いとなるのだけれど)に荷担し、秋元システムが提供する様々なイベントに参加することで、この大きなシステムの中に包摂される。ファンやたくさんのAKB48メンバーに囲まれることで自分が決して一人ではないこと、大きなものに包まれていること(ホーリスティックな感覚)、いいかえれば、そこにイリンクス=めまいを感じることが出来る。ま、フロイト的に表現すればタナトス(死の欲動)ということになる。あのエクスタシー状態での「死ぬ―っ、死ぬー」ってやつである(笑)。

だがメンバーはあくまで乗り物=個体である。ということは、メンバーがAKB48を卒業するとどうなるか。当然、この個体には、もはや秋元遺伝子は存在しない。ということは、いくらこの個体=元メンバーに血道を上げても、そこからは、かつては獲得可能だったホーリスティックな感覚やイリンクスは得られない。その瞬間、今度は「クラスで10番目くらいの子」の度量が剥き出しになる。つまり「ただのクラスで10番目くらいの子」。ファンはハッと目が覚め、興醒めしてしまうのだ。「なんで、こんなフツーの女の子に入れ込んでいたんだろう?」

ファンは「AKB48のメンバー」という秋元利己遺伝子のシステム=自己組織性の下でのみ機能する記号に惚れ込んでいたに過ぎなかった。だから、卒業してしまった元AKB48のメンバーにはすっかり関心を示さなくなっていく。

卒業後のメンバーたちのその後は悲惨だ。メディアからの露出が先ず、消える。例えば前田敦子。劇画『ど根性ガエル』で前田は弘の彼女・京子ちゃんに抜擢されたが「学芸会レベル」と酷評された(その一方で、女優の満島ひかりがピョン吉の声で出演し、絶賛されたのはなんとも残酷というか、皮肉というか)。篠田麻里子は自らの立ち上げたブランドを撤退させた。板野友美は、その顔面模写で登場したざわちんのほうがもはや目立っている。そう、時代はほぼ素人の「ともちん」ではなく、芸に長けた「ざわちん」なのである。

メンバーたちは犠牲者か?

こうやって見てみると秋元康という利己遺伝子は、端から才能のない、しかしアイドルになりたい女の子たちをかき集めて、システムに載せて利用し、その必死さをファンに楽しませ、システム消費させた後、消費しつくされてしまえばとっとと捨てるという、きわめて利己的な存在と考えることができる。おそらくAKB48というシステムが十全に機能しなくなれば、今度はまた別のシステム=自己組織性へと個体とシステムを乗り換えていくのだろう。

これに比べると、ジャニーズ事務所は少し違っている。システム的には類似だが、それなりに才能のある人財を発掘し、その内のいくらかはジャニーズというシステムから離脱した後も一本立ちさせるようなメタシステムを用意している(事務所からは抜けられないという現実もあるが)。SMAPや嵐、TOKIO、V6といったユニットのメンバーを思い浮かべた時、われわれシステムというより、メンバー個々のキャラクターや芸風が浮かんでくるというふうにもなっているわけで(まあ、これは一部のみであって、その多くはAKB48と同じで使い捨てではあるのだが)。

秋元という利己遺伝子。どこまで行っても利己的、自己中なのだ。だが、この強烈な自己中を徹底する限り、ファンは世代を変えて誕生し続け、結果として秋元という利己遺伝子は生き残り繁栄し続けるのである。

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