記事

“トンデモ発言” 議員に対する懲罰、辞職勧告は可能か? - 南部義典

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

黒人、奴隷、51番目の州…

参議院憲法審査会(17日)における、自民党・丸山和也議員の発言が物議を醸しています。発言の内容、その後の顛末は、翌日の東京新聞(※1)が詳しく伝えていますが、オバマ大統領に対する直接の差別意図は認められないにせよ、重大な事実誤認と、飛躍した論理に基づいた発言であったことは確かです。

東京新聞2面 2016.2.18

 私が一番問題だと思うのは、「日本がアメリカの51番目の州になったら…」というくだりです。
 衆参の憲法審査会は、憲法の意義を確かめつつ、憲法が適切に機能しているかどうかを論じ合う場であるにもかかわらず、丸山議員はこれと真逆に、憲法が機能しなくなり(主権国家でなくなり)、日本がアメリカの一部(州)となるという立論を行ったのです。まさに、日本が将来、戦争に負けるか、大革命が勃発し、国家(政府)が転覆するというような空想を語ったに等しいでしょう。保守政党を自負する議員の発言とも思えません。今回のような“トンデモ発言”を公の場で繰り広げるのは、その感性と学識が疑われて当然です。議員である以前に、主権者として失格です。
 
 丸山議員は当日、釈明の会見を行い、憲法審査会の委員を辞任しました。自身の発言を、憲法審査会の会議録から削除する方向で、会派間の話し合いが続くようです。一方で、問題を重くみた民主党、社民党、生活の党の3党は共同して、丸山議員に対する「議員辞職勧告決議案」を、参議院に提出しました(※2)。

 これから、事の顛末はどうなるのでしょうか。会議録から発言を削除してお仕舞いになるのか、さらなる責任追及として、新たな展開になるのでしょうか。“トンデモ発言”の議員に対して、参議院の中でどのように責任を取らせるか、ケジメを付けるかという課題が、改めて浮き彫りになったと思います。

(※1)「黒人、奴隷が米大統領」参院憲法審で自民・丸山氏(東京新聞、2016.2.18)
(※2)「丸山和也自民参院議員の辞職勧告決議案を民主・社民・生活が共同提出」(民主党、2016.2.18)

“トンデモ発言”は、懲罰の対象にはならない

 国会議員には、免責特権が認められています。憲法51条は、「両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない」と、規定しています。一般には、「演説、討論又は表決」に限られず、所属する議院(衆・参)において、議員が職務行為として行った発言に対して広く、免責特権が及ぶと解されています。「責任を問はれない」とは、名誉棄損の罪を負ったり、損害賠償の責めを負わないという意味です。丸山議員にも当然、免責特権の保障が及びます。所属する参議院では、自由に発言することができ、参議院の外で責任を追及することはできません。これが憲法の大原則です。

 しかし、免責特権が認められても、議員の発言が、まったく無制約に認められるというわけではありません。免責されるのは、発言に対する法的な責任であり、もっと広い意味での政治的責任まで一切免れるわけではないのです。憲法58条2項は「両議院は、…院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる」とも規定し、議員の発言が「院内の秩序を乱した場合」には、懲罰の対象となりうることを示しています。衆議院、参議院それぞれが、自律した運営を維持していくためです。 

 ここで鍵となるのは、「院内の秩序を乱した場合」であるということです。詳しくは、国会法や衆参両院の規則に定めがありますが、具体的には、(1)委員会や本会議の議事進行を野次で妨害する、(2)議題とは無関係な他人の私生活を暴露する発言をする、(3)特定の議員、政党を侮辱したり、事実無根の批判をする、(4)秘密会の秘密事項や特定秘密を漏えいする、といったケースがあてはまります。

 それでは、今回の丸山議員の件はどうでしょうか。本稿では単純に“トンデモ発言”と形容していますが、ある意味、客観的にみれば、自分の持ち時間(許された発言時間)の中で、自由気ままに、見解を述べているにすぎないのです。他人の発言を妨害したわけでもなく、暴力的、脅迫的な言葉づかいをしたわけでもありません。発言が、オバマ大統領を名指しした内容であっても、他の参議院議員や会派、政党を指したものではありません。
 
 結局、懲罰の対象となるかどうかという判断の中では、「単に脱線し、頓珍漢な発言をしただけのこと」と評価されてしまいます。

議員辞職勧告は妥当か?

 前記のような理由もあって、野党3党(民主、社民、生活)は、丸山議員の政治責任を追及する手段として、懲罰ではなく「議員辞職勧告」を選びました。議員辞職勧告とは、議員として活動することが“不適当”であると思われる議員に対して、その議院の議決により、議員辞職を迫るものです。参議院の本会議で、議員辞職勧告の決議案を審議し、賛成が過半数になれば、「丸山君、あなたは、参議院議員を辞職しなさい」という勧告をなし得るものです。過去にも、刑事事件で逮捕・起訴された議員等に対して、辞職勧告が行われた例があります。
 
 しかし、議員辞職勧告にも、問題がないわけではありません。辞職勧告決議は、参議院本会議に出席した議員の過半数の賛成があれば可決されます。この点、立場を逆に考えてみると、与党が、気に入らない他党の議員を辞職勧告の対象に貶めることが可能ということです。つまり、濫用される危険を常に含んでいるといえます。今回、丸山議員に対する辞職勧告決議案の提出には、共産党や、政権与党に厳しい無所属議員が加わっていないのも、この点を冷静に踏まえたからと想像します。

 また、議員辞職勧告決議には法的な拘束力(強制力)がありません。両院ではこれまで、16名の議員が辞職勧告を受けていますが、勧告に従って辞職した者は一人もいません。辞職勧告決議は、ずっと無視され続けているのです。かえって、決議を行った議院の権威を傷つけているのが先例の教えるところです。現段階では、今回の決議案が、参議院本会議で議題に上るかどうかさえ不明です。
  
 あと、残る手段は、参議院憲法審査会が次回開催された際、その会の冒頭で、丸山議員が自らの発言の真意、その後に感じ取った政治家としての思いについて語らせ、謝罪ないし反省の弁を述べさせることが考えられます。しかし、すでに審査会の委員を辞めているので、もう一度戻ることがない限り、不可能です。

懲罰に準ずる、イエローカードを与えるべき

 今回の件は懲罰の対象にはならないことから、参議院の懲罰委員会では、取扱いができません。もっとも、参議院には、参議院の運営全体について協議する議院運営委員会(議運)という委員会があります。むしろ、こちらに丸山議員を出席、発言させて陳謝させ、委員会として注意し、説示する議決を行ってはどうかと、私は考えます(議員に注意するのが目的で、辞職勧告を行うのではありません)。議員本人に弁明したい意向があれば、先例を作る意味でも積極的に認めるべきでしょう。議運で発言すれば、その内容は、会議録にはっきりと残すことができます。何が問題だったのか、後にも検証することができます。

 政治家として、公人として、議員は自身の発言、行動に最新の注意を払うのが通常です。一般的な政策論争に馴染まない内容で、しかも懲罰の対象にならない、この種の“トンデモ発言”は、それほど頻繁に起こるとも思えませんが、こうした突飛なケースに対応するための責任追及の場、決着の場を制度化しておくことが必要ではないでしょうか。

 丸山議員は発言の当日、メディアに向けての弁明会見を行いましたが、本人の気持ちとしてはむしろ「釈明」に近いもので、なお、発言の取り扱われ方や自身のケジメの付け方について納得していない(何が問題視されているのか、心底理解していない)おそれがあります。このまま、辞職勧告決議案も参議院の本会議で議題にならないとなれば、臭いものに蓋をするかのように、曖昧なままフェイドアウトしてしまうでしょう。

 議運が行う「注意議決」は、議院としてのイエローカードです。現在の国会は紛れもなく与党、野党、ゆ党の三極構造に進みつつあり、相互に立場が入れ替わる可能性があるわけですが、このような対処が政治的に最も公平だと思います。

憲法論議が本当に下手な自民党

 私は今回の件を通じ、丸山議員個人の問題を超えて、自民党は憲法論議が本当に下手だと感じました。党内には、大日本帝国憲法への憧着、懐古趣味も根強く残っています。この意味で、自民党は一枚岩でなく、丸山議員のような憲法論議のスタートラインにさえ立てない(立つつもりがない?)議員が少なからず所属しているということです。第一次安倍内閣以降、意味のある、建設的な憲法論議を阻害してきたのは、実は自民党であるという皮肉な経過に、新たな事実が付け加わったとみるべきです。自民党のことですから、同じような“過ち”を繰り返すでしょう。

あわせて読みたい

「丸山和也」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    クロ現「日本の防衛」報道に驚き

    中村ゆきつぐ

  2. 2

    テレビの報道が信頼されないワケ

    メディアゴン

  3. 3

    笹子トンネル事故に"新事実"判明

    週刊金曜日編集部

  4. 4

    加計で総理批判する国民に疑問

    青山社中筆頭代表 朝比奈一郎

  5. 5

    田原氏語る共謀罪強行採決の理由

    田原総一朗

  6. 6

    共産党と公明党「因縁」の歴史

    蓬莱藤乃

  7. 7

    石破氏「暴言は人間性の問題」

    石破茂

  8. 8

    小林麻央 2年8ヶ月ガンとの戦い

    渡邉裕二

  9. 9

    石破氏 自民党は議論の自由ない

    『月刊日本』編集部

  10. 10

    麻央さん死去 報道の姿勢に苦言

    中村ゆきつぐ

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。