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スキーバス事故で「学内で強引に学生を取材」法政大学が日テレに抗議

1月15日(金)に長野県軽井沢で起きたスキーバスの転落事故から1カ月以上が経過した。

乗員2人を除けば、死亡したのは乗客13人全員が大学生だったという事実は大学関係者や学生の心にけっして小さくはない傷を残している。

私の勤務する法政大学では4人の学生が亡くなったが、その他に6人が乗車していて大怪我をし、全員がキャリアデザイン学部の尾木直樹教授のゼミの学生だった。大学内でもっともメディアへの露出が多い尾木教授にしても今回は実際に体験したこととメディアで報じられることとのギャップが大きいようだ。彼がテレビのインタビューなどで話した言葉によると、「命に別状なし」とマスコミが発表した場合でも、実際には非常に重い怪我で苦しんでいるケースばかりで、「当事者」の側に立ってみるとマスコミ報道と実際とのギャップを感じさせられることが少なくないという。

実際、大学内は一見平穏なようにみえて、友人や先輩、後輩らを突然の事故で失った学生たちの心は激しく動揺している。

授業中に突然泣き出す学生がいるなど、「心の問題」はとてもデリケートだ。

友人が犠牲になったという教え子は私の近くにも存在する。そんな学生たちの心のケアをどうすればいいのか。教員たちも悩みながら事故の重みに向き合っている。どうやって若い彼らを守っていけばいいのかと。

そんな矢先、心ないテレビ局の取材者が大学の中に入り込み、強引に取材を進めていたことが判明した。

法政大学では各学部教授会等を通じ、全学の教職員や事務職員らに以下のように伝えた。
1月19日(火)、日本テレビが東京・市ヶ谷にある法政大学外濠校舎に入り込み、死亡学生の所属サークルの部室に押しかけた。部室にいた学生は対応を拒んだが、別の学生へのインタビューシーンが、当日の14時過ぎに配信された。また、サークルメンバーのアルバイト先にまで押しかけているとのこと。これらに対し広報から抗議を申し入れた。

法政大学は私にとって現在の職場であり、日本テレビは以前の職場である。

以前の職場の関係者が心ない取材をして学生たちの心を傷つけている。そのことにショックを受けた。

どの局ということではなく、テレビ局にデリカシーのない取材者が時々存在することを私はよく知っている。 

取材において、関係者の心の内を想像して傷つけないように最大限配慮する、という鉄則が実際にはあまり徹底されていない現実も知っている。

しかも大学が管理している「サークルの部室」に突然、日本テレビのスタッフが現れる、などということは住居侵入罪に問われる可能性まである。

学生のバイト先にまで「押しかける」という事実があるのなら、傷ついた学生たちにさらに精神的な打撃を与えかねない加害行為だともいえる。

土足で学生たちの心をかき乱すような行為を行った日テレのスタッフの取材行為は、大学教員という立場からみれば信じられないし許しがたいものだ。

大学という場所は、部外者が学生や関係者のふりをして構内に入っていっても、(入試中など特別な期間中を除けば)身分証でチェックされることもなく、平気で入ることができる場所である。

とはいえ入り口や玄関などに「関係者以外の立ち入りを禁じます」とか「大学にご用のある方は受付で申し出てください」などという言葉が明記され、大学に通常の用事(学生なら授業を受ける、教員なら授業を行うなど)でない場合には「立ち入り禁止」ということになっている。 実際には玄関横には衛視の男性(ガードマン)が1人、2人は立っているのが常だが、明らかに風貌が特殊な人間でもない限りは特にとがめないのが常だ。日本テレビのスタッフはこうした点につけこんで大学の中に入り込んだと思われる。

しかし、実際上は簡単に入れる、ということと、無断で入っていいかどうかは別の問題だ。その程度の社会常識はテレビの取材者であれば当然持っているべきものだ。

報道する側に立ってみると、こうした事故が起きた時に、犠牲者を身近に知る人間を取材しようとするのは報道する側のルーティーンであることは理解する。

犠牲者がどんな人間であったか。その人生に迫り、大事な命が失われたことの重みを伝えることが事故の重大性を知らせる意味でポイントになることもわかる。

だから、取材者はどこまで踏み込んでいいのかをその都度判断を迫られながら、超えてはならない境界線を意識しながら取材していく。

どこまでが踏み込んでいい境界線なのか。

それは取材する人間や会社の「倫理観」だったり、「取材姿勢」などがかかわってくる。

事故当日(15日)は私のところにもあるテレビ局の関係者から「亡くなった学生の家族や知人の連絡先を知らないか?」という問い合わせがあった。

私自身はまったく接点はなかったので協力のしようもなかったが、教員だけでなく、学生のところにも知っているマスコミ関係者から同様の問い合わせがあった。

直後ならまだそうした問い合わせなどが錯綜するのは仕方ないかもしれない。

ところが日本テレビが法政大学市ヶ谷キャンパスの外堀校舎の「サークルの部室」に押しかけたという1月19日(火)は、事故から4日が経過していて事故直後ではない。

事故直後であれば、それぞれのテレビ局の「報道局」のニュース班、つまり報道腕章をもった「記者」たちが事故直後の反応を求めて大学に押しかける、というケースがありうるのは想像できる。

取材する側も情報が錯綜するなかで少しも情報や反応がほしいから、とりあえず来た、という感じの取材者がいるかもしれない。その場合でも、報道局のニュース班ならば、通常は許可もなく大学の校舎の「サークルの部室」に押しかける、ということはしないでまず大学の「広報」に連絡をする、というセオリーを守るように記者たちは教育されているはずだ。

事件から4日後になって広報を通さずに「サークルの部室」を強引に取材する取材班とはどういったチームだろう?

ニュースであれば事故から時間が経てば焦点はバス会社やツアーを組んだ旅行会社などの安全管理体制などに移行していくはずなので、「サークルの部室」などを強引に取材する必要はあまりないはずだ。

「サークルの部室」を取材する必要があるのは、亡くなった学生についての「物語」を作りたい、という取材班ではないのか?

経験上、脳裏に浮かんだのはこの点だ。

同じサークルの学生たちが複数死亡し、今も大怪我で入院している学生が数名いる、というサークルの部室に突然入り込んで、学生たちにマイクを向けようとする行為はそのことだけで明らかにデリカシーを欠いた行為だし、許可を取っていなかったとしら犯罪行為にも等しい。

大学側も懸念しているように、こうした取材は学生の心の傷をえぐり、場合によってはフラッシュバックなどの反応を導きかねない加害性がある行為でもある。大学という場所は学生たちが安心して本音を言い合える空間でもある。そうした空間を壊すような、了解を得ていないルール違反の取材行為は、取材だからといって許されるものではない。

取材が行われた1月19日は尾木直樹教授が国会議員会館で事件の当事者としての苦渋を議員らの前で告白した日だ。その前日に尾木ゼミの学生だった4年生の男子学生が入院先で死亡が確認されている。

サークルの部室に押しかけて取材したという以上、この日の日本テレビの取材はこの学生にも関連した取材だったのだろうと想像される。

それにしても、なぜ強引な取材が行われたのか?

大学という場所ならば、中まで入り込むことが可能なので許可なく校舎内に入り込んで取材しても構わない、という指示を上司が出していたのだろうか。

友人などが事故で死亡した際にどういう取材を行うべきか。行わないべきか。

スタッフに取材の倫理を教育する体制はどうなっていたのか。

それはとても重要な点できちんと検証すべきことだと思う。

大事なことは、取材の手順である。

他人が所有する場所で取材を行う時には事前に許可を求めるという当然行われるべき手順。

大学側の言い分を聞く限りでは、日本テレビのスタッフはそれを踏んでいないようだ。

当該のスタッフは、こうしたケースの取材について、どういう教育を受けていたのか?

この取材に関して、そのスタッフは番組のプロデューサーや取材部のデスクからどんな指示を受けていたのか?

こうした疑問に対して、日本テレビは答えるべきだ。

テレビ局はかつて1980年代のワイドショー全盛の時代には、犯罪で犠牲になった遺族らを追いかけ回すなどの「メディアスクラム」(集団的過熱取材)を起こして社会的にたびたび非難を浴びた。

この反省から、テレビ局の社内や日本民間放送連盟などの研修会で「メディアスクラム」を起こさないように注意喚起する機会が時々設けられている。それなのに、なぜ今回、このようなことが起きてしまったのだろうか。

しかし、今回の日本テレビの法政大学への「押しかけ取材」が事実であるなら、かつてのメディアスクラムなどの強引な取材は克服されることなく現在でも存在していることになる。

法政大学が出した「抗議」に対して、日本テレビは誠実に回答してほしい。

学生たちの心をむやみに刺激せずに静かにケアしていこうとする大学の営みをどう考えていたのだろうか。そうした痛みを想像する姿勢があったのだろうか。まずは事実関係を明らかにしてほしい。

こうした取材でのトラブルは放っておくと、テレビ局にとってもより深刻な問題に発展しかねない。

たまたま法政大学が日本テレビに抗議したことで学内では知られることになったが、他のテレビ局や他の大学でも同じようなことはあったのか。ひょっとすると氷山の一角ではないのか。

今回のケースはテレビ局の取材とはどうあるべきなのか、という根本的な問題を我々に投げかけている。

※Yahoo!ニュースからの転載

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