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有料・無料を繰り返す「お薬手帳」は驚きの展開に

病院や薬局で支払う医療費は診療(調剤)報酬制度によって規定されています。
この報酬制度は2年に一度改定されますが、今年の4月がその時期にあたります。

薬局における改定の目玉として、大きく二つが挙げられます。

薬剤師の職責、薬局活用の本質に関わる 『「かかりつけ薬剤師」制度の新設』
大きな方向転換となった 『「お薬手帳」料金の改定』

今回は、「お薬手帳」の料金改定についての話題です。
これまでとは、ずいぶん違う料金制度になっていますので、4月になって混乱することのないよう、あらかじめ知っておかれるとよいと思います。

※もう一つの話題である「かかりつけ薬剤師」については、少し話が複雑になりますので、検討する上で押さえておきたい論点について次回ご提示し、その次の投稿でご紹介したいと思います。

■現行制度におけるお薬手帳の料金

「お薬手帳」については以前BLOGOSに記事を投稿し、制度を概説するとともに、厚労省の制度設計について批判的に触れました。おさらいしてみようと思われる方は、まずそちらをご覧ください。

『「お薬手帳」は不要だと考えている患者さんへ』
http://blogos.com/article/111763/

現在の制度(平成26年度改定)では、お薬手帳の料金(薬剤師による確認・記録)は70円、実際の負担額はその1~3割です。「お薬手帳を利用せず、窓口での負担金を節約しよう」といった特集がTVや雑誌で多く見られたのも、記憶に新しいところです。
ちなみに、その前の報酬制度(平成24年度改定)ではお薬手帳は無料、さらに前の制度(平成22年度改定)では有料でした。
2年おきに、『有料→無料→有料』と変遷したことになります。

■4月改正後、お薬手帳は驚きの料金設定に

今回決定した報酬制度では、お薬手帳の料金設定は予想外の展開となりました。『お薬手帳を持って行くことで、負担金を値引きする』という制度になります。

お薬手帳の利用料金は、安くなるのではなく、無料になる訳でもなく、「手帳を利用すれば、負担金を減額する」ことになりました。
これが、ありのまま、今、起こっていることです。
何を言っているのか分からないと思います。私も当初よく分かりませんでした。

■値引きの仕組み

薬局で支払う料金は、薬剤師の技術料と医薬品自体の価格(薬価)の合計です。
調剤報酬制度では、医薬品の仕入れ値と販売価格(薬価)の差額がほとんど生じないよう制度設計されています。これは一般の小売業と大きく異なる特徴です。大きな差額が生じてしまえば、高価な薬剤を使用したり、多くの医薬品を調剤することにインセンティブが生じてしまうため、このような制度になっています。その代わり、利益部分を薬剤師の技術料として設定し、薬剤師が実施する個々の業務を規定しています。

「お薬手帳を持参すれば負担金減額」の仕組みはこうです。
薬剤師の技術料項目に、「薬剤服用歴管理指導料」(患者に対し説明や指導を実施するとともに、薬剤服用歴に記録する)というものがありますが、この報酬は今回500円に設定されています。
患者がお薬手帳を持参した場合には、これを380円としました。120円安い設定です。自己負担金は1割負担で10円、3割負担の方で40円減額されることになります。

ただし、この減額設定には幾つかの例外があります。手帳持参で減額が適用されるのは、6か月以内に同じ薬局で調剤を受けた場合のみです。久しぶりに薬局を訪れた際には、手帳持参の有無に関わらず支払額は変わりません。
また、「調剤基本料」が安価である一部の薬局(薬局の規模・機能等による)においては、手帳の有無に関わらず、薬剤服用歴管理指導料500円が適用されます。今回新設された「かかりつけ薬剤師管理料」を算定する場合(患者側の同意が必要)も、手帳持参による減額は実施されません。

少々話がややこしくなりましたが、
「6か月以内に同じ薬局を利用した場合、ほとんどの薬局において、お薬手帳を持参することで自己負担金が減額される。」
という理解でよいと思います。減額が適用されない薬局の数は、実際にはかなり少ないはずです。
少なくとも、手帳を利用することで負担金が増えることはありません。

■値引き設定の狙い

安全な薬物治療を提供するためには、これまでの薬剤服用歴や副作用歴、併用薬といった情報が重要です。服薬状況の一元的な管理のために、患者が同じ薬局にお薬手帳を持参して繰り返し来局するよう、負担金に差額を設け誘導するという訳です。
また久しぶりに薬局を訪れた場合には、体質やアレルギーといった変化がないか改めて確認する必要があり、相応の手間がかかりますので報酬に反映させる必要があります。

今回の改定には、そういった狙いがあるとされます。
これはよい考えだと思います。疑問は、「今までの料金設定はなんだったのか。お薬手帳が調剤報酬制度に登場してから16年、制度設計担当者は何をやっていたのだ。」ということに尽きます。

■調剤報酬制度から学ぶべき教訓

上で提示した、以前の投稿でも言及したように、お薬手帳の制度自体は非常に単純なものです。持参のうえ、医師・薬剤師に提示すればそれなりに役に立ちますし、手帳を利用せず、これまでの服用歴や副作用歴、現在使用中の薬剤名が分からなければ、相応の危険を伴います。それだけです。

国(厚労省)は制度設計により、患者や薬剤師の行動をある程度誘導することが可能です。制度を議論するにあたっては、当然職能団体である日本薬剤師会も意見を述べ、会議には担当者も出席しています。
有料、無料を繰り返し、ついには減額と変遷する制度設計は、混乱や薬局制度への不信を招き、患者と薬剤師の信頼関係にも悪影響を及ぼすでしょう。これが紛れもない、日本の薬局・薬剤師業界指導者層の姿です。

制度の受益者である皆さんには、右往左往する制度に惑わされて危険に身をさらすことのないよう、ご注意頂きたいと願います。医療はあくまでローカルな存在ですので、生活圏で良心的な薬剤師を「かかりつけ」とし、関係性を保つことが、こうした不利益から身を守る上でも大切だと思います。

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