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カーナビで劣化する人間の脳

今日の横浜北部はよく晴れて気温も上がりました。まるで春でしたが油断は禁物です。

さて、前回の放送(http://www.nicovideo.jp/watch/1455881590/https://www.youtube.com/watch?v=qZKPDyBBAXw)でも解説した、カーナビというテクノロジーが人間の脳や能力に劣化を引き起こしているとする記事の要約です。

この結論なんですが、暗い話かと思いきや、ちょっと話を拡大しながらも、意外に味のある終わり方をしていて、思わず「うまい!」と言ってしまう書き方です。

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カーナビを信じるな?
By グレッグ・ミルナー
16-2/11 NY Times

今月のはじめにアメリカ人のノエル・サンティラン氏は、アイスランドに旅行にでかけた。空港からすぐ近くの首都レイキャビクのホテルまでレンタカーを借りたのだが、その際にカーナビを頼りに運転を始めた

数時間がたち、しかも400キロほど走った後、彼は北極圏のすぐ側のシグルフィヨルズルという北部の漁村に到着した。サンティラン氏はニュージャージー出身の28歳の販売マネージャーだが、アイスランドのメディアがこの小旅行を取り上げてから、同国内で思わぬ有名人となってしまった、

ただしカーナビの指示に従ったサンティラン氏を、われわれは単純に責めることはできない。シグルフィヨルズルという街にはLaugarvegurという名前の道があるのだが、これは彼がネットのホテル予約サイトから正確にコピペした、ホテルのあるレイキャビクの大通りの名前と同じだったからだ。

ここでの本当の問題は、なぜ彼は道路の標識を無視して、アイスランドの首都から離れる方向に走り続けたのかということだ。NYタイムズ紙によれば、サンティラン氏は長旅となったフライトのおかげで非常に疲れており、「カーナビに全幅の信頼をおいた」というのだ。

この「全幅の信頼」というのは、カーナビによって引き起こされる災難の原因を、被害者が説明する際によく使う言葉だ

たとえばオーストラリアでは、ノースストラドブローク島に行こうとして車ごと太平洋に落ちてしまった日本人旅行者がいたが、彼は「カーナビが道だと言い張るのでそれに従ったまでですよ」と証言している。イギリスのウェストヨークシャーの男性は、自分のBMWで悪路を走って崖から落ちそうになったが、警察に対して「カーナビがその小道を車が通れる道だと言い続けていたからです」と述べている。

おそらく最も有名なのは、ベルギーの女性が車で2時間以内の場所をカーナビに打ち込んだあとに、2日間走りつづけてクロアチアに到着してしまったという実話であろう。これらのエピソードは、完全な「嘲笑の対象」とはいかないまでも、それを聞いた人々に一様に「信じられない」という反応を引き起こすものだ。

スウェーデンのあるカップルが、イタリアのカプリ島に行こうとしてカーナビの指示に従って車を走らせて、最終的にカルピという街に到着した時に、イタリアの観光省の高官は「カプリは島です。彼らは橋をわたったり船に乗らなかったことを不思議に思わなかったのでしょうか?」とBBCの取材にドライに答えている。

NYのあるブログ・サイトでは、一人のドライバーがカーナビを盲信してリバーサイド・パークの階段から落ちそうになったハプニング報告されているが、このエントリーの小見出しは「GPS脳がドライバーを誤らせた」というものだった。

これだけだったらまだマシだが、悲劇につながるものもある。インディアナ州では去年「閉鎖中」の標識があるにもかかわらず、カーナビに従ってそれを無視して、橋から転落してしまったカップルの話があった。カリフォルニアの国立公園デスバレーの僻地では、カーナビに従って廃路を通って行方不明になるケースが後を絶たないが、パークレンジャーたちの間ではこれがあまりにも頻繁に起こるために「GPSによる死」と名付けられているほどだ。

去年10月には旅行者の夫婦がブラジルで撃ち殺されたが、これはカーナビに従ったために麻薬取引が行われているヤバイ通りに迷い込んでしまったためだ。

ところがこのような話を聞いて、あなたは「自分ならそんなアホなことをしない」と言い切れるだろうか?われわれのほとんどはよく知らない地域を運転する際にカーナビを使って面倒くさい道案内という作業を行わせている。

カーナビが普及しはじめたのはここ10年ほどだが、カーナビと人間の関係についての実証的な実験では、すでにわれわれが直感的に知っていたことを裏付けるような結果が出ている。

たとえばコーネル大学の研究者たちは、カーナビを使っているドライバーたちの行動を分析して、彼らが環境から「分離」していることを発見しており、「カーナビは必要とされる注意力のほとんどを消去してしまった」という結論を出している。

目的地へ到達するためのデバイスとしてのカーナビの歴史は、意外に古い。車が登場した頃から人間は自動航行システムを開発しようとしており、20世紀初頭には「ジョーンズ・ライブマップ・メーター」や「チャドウィック・ロード・ガイド」のような製品が、ハンドルやオドメーターを運転者に連携させることによって方向を指示するようなシステムを使っていた。60〜70年代には日本とアメリカで道路上のセンサーを使った交通誘導システムが実験されていたほどだ。

つまりわれわれは車を改革、つまりわれわれに「世界を見るための運搬手段」から、「世界をわれわれに見せてくれるマシーン」にしようとしてきたとも言えるのだ。

その結果としてもたらされたのが、われわれの「認知地図」(cognitive map: 1984年にカリフォルニア州立大学バークレー校の心理学教授エドワード・トールマンが有名にした言葉だ)の減少の可能性である。

トールマンは画期的な論文の中で、ネズミと迷路を使ったいくつかの実験の結果を報告しており、ネズミは2つの地点だけの空間関係を認知した単純な「進路要図」(strip map)だけでなく、迷路全体を含む包括的な「認知地図」を構成する能力を持っていると論じたのだ。

ではカーナビが普及した社会は、われわれ人間の「認知地図」を徐々に弱めるものなのだろうか?フライブルグ大学のジュリア・フランケンスティン教授によれば、カーナビの危険性は「あまりにも便利になるために、逆にわれわれが情報を記憶したり加工したりする必要に迫られることがなくなり、考えたり決定したりしなくてもよくなる点にある」という。

「われわれはAからZの地点までの道を見ることができるが、その間の目印となるものには目をくれなくなる」というのだ。これを言い換えれば、「これほど少ない情報から認知地図を発展させるのは、まるで音楽一曲を、たった数種類の音だけで表現するようなもの」なのだ。

つまりカーナビはわれわれの世界全体についての理解を「進路要図」のレベルのものだけにとどめてしまうのだ。

そして実際のところ、人間の「認知地図」が劣化する証拠は存在する。広く知られることになった2006年の研究によれば、ロンドンのタクシー運転手の複雑な空間認識を司る脳の領域は、普通の人の量よりも広いのだが、退職したタクシー運転手の同じ脳の領域は、以前ほど使われなくなったためにそのサイズが減少していることが確認されたというのだ。

その論文の共同研究者の一人であるヒューゴ・スピアーズ教授は「カーナビだけ使っている人は、いくら道路を走っていても、おそらく空間認識に使う脳の一部が減るはずです」と教えてくれた。

トールマンにとって「認知地図」という概念は、たくさんの現象に応用できる流動的なメタファーであり、それをネズミに応用したのだ。そして彼らと同じように、科学者は迷路の中を走って「進路要図」を包括的な地図につくりかえていき、彼曰く「偉大な神が与えたわれわれ人間界という迷路」についてのより正確なモデルを構築しているというのである。

彼は、その人間界という迷路の中に「追放された侵害」の例を無数に見た。たとえば「黒人のせいにする南部の貧しい白人」や「その他の学部の教授たちを批判する心理学者たち」や「ロシアを批判するアメリカ人とわれわれを批判するロシア人」などである。これらはある一定の「進路要図」の理解のレベルにあると言えるのであり、大きな図を見ることのない視野の狭い見方なのだ。

彼は「天と心理学は一体何ができるというのだろうか?私の唯一の答えは、理性の良さ、つまり広い認知地図の必要性を説くことなのだ」と書いている。カーナビは世界を「進路要図」で描くひとつの手段であるが、迷路の中を走るときにわれわれ自身を車という覆いの中に引きこもらせてしまう。

ただし今後、カーナビが(たとえアクシデントによるものであろうと)広い視点をわれわれに与えてくれた場合には、感謝すべきなのかもしれない

サンティラン氏のアクシデント的な旅に対する反応は、極めて正しいものであった。シグルフィヨルズルに到着して車を降りた時に、彼はその風景に感動して、そこに数日間滞在しようと決心したからだ。急がなくてもレイキャビクは彼を待ってくれているはずだ。

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実に様々なことを教えてくれる、いい記事ですね。

私はここから「自分の頭で決断して考えること」の重要性を学んだような気がしましたが、「リスクをとって痛い思いをしても視界が広がる」という意味では悪いくない、という風にも言えますね。

とにかくいざという時のために、私は自分の中に眠る「動物的感覚」というものをしっかりと維持しておきたいと感じました。

そしてこれは個人だけでなく、組織や国家にも同じことが言える・・・というのはやや拡大解釈でしょうか?

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