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「コンピューターを人とみなす」とした米運輸当局の見解について

2016年2月12日、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)が、Google社に対して、コンピューターをドライバーとみなせる可能性があるとの見解を示したと報じられた。

この報道について、坂村健東大教授は2月18日付毎日新聞『坂村健の目』で、「メーカーに重い賠償責任を突きつけた」と報じる日本のマスコミは間違いで、むしろ「メーカーにとって福音」と歓迎する考えを示した。その理由は、「米国では懲罰的賠償で、製造物責任は何十億ドルものリスクになる。しかし『コンピューターはドライバー』ということになれば、製造物責任ではなく通常過失の対象(となり)公判前の和解がほとんどで、訴訟コストも低い」から、としている。

しかし、この理由づけはおそらく間違いである。

米当局がGoogle Carの「コンピューターをドライバーとみなす」としたのは、行政当局が自動車の有「人」走行のみを前提とする法律について、「人」は自然人ではなく人工知能も含むと解釈変更して、現行法上も(=法改正をしなくても)公道走行を認めた、ということを意味するに過ぎない。Google Carが事故を起こした場合の責任について言及したものではなく、まして、メーカーの賠償責任を軽減させたものではない。

そもそもの誤解は、行政当局の判断と、事故が起きたときの司法判断をごっちゃまぜにしていることが原因だ。米国は日本と同じ三権分立制だから、行政判断と司法判断は異なるし、行政府の法解釈が裁判所を拘束することもない(米国でもある種のレベル以上ではあるかもしれないが、少なくとも『見解を示した』レベルの行政判断が裁判所を拘束することはありえない)。ただ、運輸当局が法解釈を変更した結果、Google Carが公道を走行しても、日本の道路交通法にあたる法令違反として検挙されることはなくなるので、事実上大手を振って公道を走行できるということに過ぎない。

いいかえれば、行政当局の恩恵が及ぶのはここまで。事故を起こした場合の責任の有無内容は、裁判所の管轄であり、行政当局には差配できない。

したがって、「コンピューターがドライバーとみなされれば、事故が起きても過失責任となり、製造物責任とならない」という理解も間違いとなる。たとえば、人間のドライバーが赤信号を見落として交差点に進入し事故を起こせば過失だが、仮にGoogle Carの人工知能がある種の環境(たとえば夕日などの強い逆光)下で赤信号を認識できず交差点に進入し事故を起こせば、メーカーが問われるのは過失責任でなく、製造物責任である。

しかも、製造物責任は懲罰的賠償で何十億ドルのリスクだが、過失責任は公判前和解がほとんどで賠償金額も少ないという理解もかなり不正確だ。米国のPL訴訟も公判(トライアル)前の和解がほとんどだし(以前調べた記憶によれば9割程度だった)、製造物責任だから懲罰的賠償ということもない。過失はその性質上、一般的に「懲罰的賠償」になじまないだけで、過失による事故でも、証拠を隠したりすれば、懲罰的賠償はありうる(と思う)。

では坂村教授の主張が法律的に全部間違いかというと、そうではない。米当局の判断を歓迎する教授の主張は、「完全自動運転自動車の方が、人間が運転する自動車より安全」という認識があり、その認識は、一般論としては正しい。この認識を前提とするかぎり、道路交通の安全確保を目的とする道路交通法規において「コンピューターを人とみなす」という法解釈は成立しうる。米国らしいプラグマティックなアプローチであるし、文言解釈を重視する日本の法律家も少しは見習え、という限りにおいて、坂村教授の主張は一理ある、ということになろう。

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