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【読書感想】貧困女子のリアル

貧困女子のリアル (小学館新書)

貧困女子のリアル (小学館新書)

Kindle版もあります。

貧困女子のリアル(小学館新書)

貧困女子のリアル(小学館新書)

内容(「BOOK」データベースより)
社会的に注目されている貧困女子はシングルマザーなどが多かったが、ここにきて、短大や大学を卒業した30代女性たちが貧困状態に陥っていることが表面化してきた。街金での借金、親からのDV、男性への依存など、悲惨な現状はネットや雑誌でも話題になり、反響は大きい。学歴があるのに、なぜお金に困るのか、なぜ人生を捨てたような日常になってしまうのか。親や上司の世代には理解しがたい驚くべき現実。そして意外に共感できるという同世代の女性たち。社会問題としての貧困女子を浮き彫りにする。

 シングルマザーや精神的な疾患を抱えている女性の貧困について書かれた記事や本は、けっこうたくさんありますし、そのうちのいくつかを僕も読んできました。

 いまの日本という国は、そういう女性たちに対して、かなり冷淡でもあるし、救済のシステムがあっても、それを利用する術を知らない、わざわざ制度のほうから歩み寄っていくこともない、という現実があります。

 この新書は、そういう「特殊な事情」(とはいえ、シングルマザーも精神的な疾患も、そんなに珍しい状況ではないんですけどね)を抱えていないにもかかわらず、「貧困」に陥っている女性を取材した「貧困女子のリアル」なのです。

 これはある意味、自分のすぐ傍にいるかもしれない女性の話であり、日頃の生活ぶりからはわからないような「隠れ貧困女子」についてのレポートです。

 ここ数年、私に依頼が来るテーマに”貧困女子”という単語が交じるようになった。貧困女子といえば、メディアで報道されている家族関係や健康問題に端を発し、性風俗産業などで搾取され、家もない女性というイメージがある。シングルマザーの貧困も問題になっている。働く単身女性の3人に1人が年収114万円未満ともいわれている。

 しかし、少なくとも私に依頼が来る女性誌は、都会に住むOLを対象にした消費を謳歌する商業誌で、そこに”貧困”という単語はあまりにもミスマッチだ。しかし、女性の貧困はそこにある、と多くの編集者が感じたからこそ、企画化されたことは間違いない。そこで、現実を探るべく実際にアラサー女性をインタビューしたところ、貧困エピソードが意外なほど多く出てきた。その一例を挙げてみよう。

「給料日前、彼の財布から2000円抜き取ったことがある」(30歳・証券会社勤務)

「クレジットカードの返済が毎月20万円あり、首が回らない」(32歳・広告代理店勤務)

「女子会の出費が月8万円。手取り月収は25万円です」(35歳・アパレル関連会社勤務)

 彼女たちは、大学や短大を出て、普通に”大人の女性”として社会で活躍している。定職があるから、お金に困っているとは誰も想像しない。しかし、実際に困っているのだ。借金が原因で結婚を諦めたり、会社の終業後、歌舞伎町や銀座のスナック(キャバ嬢やホステスのニーズは20代前半まで)で終電まで働くという人は、もはやレアケースではない。

「ストレスから消費に走った、自業自得の愚かなOL」と見下すのは簡単だ。でも、もし、自分の大切な娘さん、お姉さん、妹さん、あるいは職場の同僚や部下がこのようなタイプの貧困女子だったら?

 率直に言うと、僕はこの新書をよみながら、「それ、自業自得だろ……」と言いたくなるとことがたくさんあったんですよね。

 子どものために長時間働くことができないシングルマザーや、病気で仕事ができない人などに比べると、それなりの大学・短大を出て、定職もあり、そこそこの収入もあるのに「女子会」とか「買い物」とかで借金まみれになって、「ストレス解消のためにしょうがない」なんていうのは、共感しにくいのは事実です。

 でも、こういう人って、世の中にはたくさんいるのだろうな、というのもわかります。

 現実をfacebookの中の自分に近づけようとすると、こうなってしまうのかもしれない。

 それで「困っている」と言われても、「節約すればいいのに」としか言いようもない(あるいは、病的なものであれば、病院で診てもらうように、としか)。

 ただ、これを読んでいると、やるせないというか、自分だってちょっとしたきっかけで、こういう状況に陥るのではないか、という気もするんですよね。

 人は独りでは生きていけない、とはいうけれど、人間関係のしがらみみたいなものから、抜け出せなくなってしまうこともある。

 洋子さんは、偏差値55程度の、私立大学を卒業している。

「武蔵野地域にある大学の経済学部を、母の妹である叔母の援助でなんとか卒業できました。小さい頃から父と母が不仲で、愛された記憶がなく、あまり他人を信じられないこともあって、友達はあまりいません。自分でも”コミュ障”(コミュニケーション障害)だと思いますよ。

 もちろん、今まで彼氏がいたこともありません。趣味といえば映画を観ることでしょうか。映画館に行くとお金がかかるので、休日は近所の図書館で、朝8時から閉館する21時までDVDを観ています。

 日曜日はコンビニで朝8時から16時までバイトして、この収入が月に4万円くらいになります。バイトが終わると23時くらいまでショッピングモールにいます。顔見知りのホームレスの人ができるくらい。そうしているのは家には帰りたくないからなんです。 

 あまりゆっくり休めないから、いつも体がだるく疲れていて、たまにストレス性のじんましんが出ることがあります」

 洋子さんが自宅に帰りたくない理由は、面倒な居候がいるからだという。

「私にはひとつ年上の姉がいるのですが、2年前から私のワンルームマンションに居候しています。母が亡くなったのを機会に、千葉県・船橋市の実家から東京・江東区のワンルームに、IKEAのブルーバッグに洋服やがらくたを大量に詰め込んで転がり込んできたんです。

 姉は私に輪をかけたコミュ障で、34歳の今までバイトを転々としています。今、姉が働いているのは、お弁当工場。桐野夏生さんの小説で『OUT』という作品がありますが、弁当箱の中にご飯をつめたり、揚げ物を入れたり、まさにああいう仕事をしているようです。あの作品にも介護や浪費などで生活に苦しめられている女性たちが登場しますが、私たちも同じですね」

 深いため息をついて、洋子さんは視線を下に落とした。
 子どもの頃は、父親の暴力や借金に悩まされ、なんとか家を出たものの、母親の死後は、こんな姉が転がり込んできて……

 家に住み着いた姉は”あんたのことを(父親から)私が守ってやったんだから金をよこせ”といって、月に5万円の小遣いを要求。姉は大学受験に3回失敗してから引きこもり状態になっていて、基本はずっと家にいますが、アニメが好きで、その仲間と交流するのにお金がいるのです」

 お金は、一度渡してしまうとそれが習慣になってしまう。

「私の手取りの収入が15万円ですから、ワンルームマンションの家賃が6万円、姉に5万円渡したら、残りは4万円しかありません。今はコンビニでバイトしているから、少しはゆとりがありますが、貯蓄はできないどころか、食べるものさえも事欠く始末。

 こういうのって、どうすれば良いのでしょうね……

 「まず、お姉さんを追い出せ!」という声が聞こえてきそうですし、僕もそう思ったのですが、そうするとお姉さんは行き場がなくなってしまう(実家も競売にかけられ、もう存在しないそうです)。援助を打ち切って、お姉さんには生活保護を受けてもらう、というのが現実的な方法なのかもしれませんが、34歳で”コミュ障”とはいえ、「アニメの仲間とは交流できるくらい」(しかも、お金がいるということは、出かけて実際に会ったりもしていそうですし)なら、生活保護というのも、なかなか難しそうです。

 こういうのって、「なんとか食べていけるだけマシ」なのだろうか……

 この本の冒頭に「働く単身女性の3人に1人が年収114万円未満ともいわれている」というのが出てくるのですが、この人はバイト代も含めると、200万円以上の収入があるのに、この困窮状態なのです。

 本当に「独りきり」ならなんとか生活できていても、困った身内がひとりいれば、それだけで破綻してしまう。

 著者の友人の妹さんだという、こんな人も出てきます(仮名)。

 開口一番に「初めまして、寺田まどかと申します。あ、写真撮っていいですか~?」といった。そして、そのラウンジとわかるコーヒーカップをスマホで撮影、話しながらもスマホを片時も手放さず、チェックしている。まず、貯蓄やお金の管理について質問をぶつけた。

「預貯金? 全然していませんね。だって楽しいことが多すぎて。先日もフィレンツェに行ってきたんです。ルネッサンスの美術が見たくなって、いてもたってもいられなくなって。たまたま航空券が往復15万円で手配できたから独身の友達とふたりで行っちゃいました。ホテルはビッティ(服飾系の見本市)と重なっていたから全然とれなくて、『Air B&B』を使ってみました。持つべきものは英語ができる友達ですね。今はモノを買うより、経験にお金を使いたいですよ。

 それにつけても、独身って身軽ですよね。思いついてどこにでも行けて、何でもできるんですから。ウチのお姉ちゃんみたいに、大学時代に知り合った彼氏と27歳で結婚して、子供産んじゃうと、人生が本当に楽しくなる30代……仕事も遊びも楽しくなる時期が全部育児にとられちゃいますもんね」

 さらに突っ込んだ話をしようとすると、月にかかるお金、実家にお金を入れているか否かなと、さまざまな質問をする。

「親も私のことは諦めていますので……貯蓄なんてしていませんよ。いつかきっとお金持ちの王子様が私を迎えに来てくれると思っていますので(笑)」と答えた。

 その笑顔があまりに華やかで、彼女の借金額が現在総額400万円(親の老後資金から300万円、消費者金融やクレジットカードの支払い残額の総額100万円)という現実と向き合っていないことがわかる。彼女に何を質問しても、現在の華やかな部分だけが切り取られて語られていく。浪費癖、人生に対する無責任さ、家族の献身に対する無自覚さなどがわかり、暗澹とした気持ちになっていく。
 著者の友人であるお姉さんは、まどかさんが帰ったあと、こう言っていたそうです。
「35歳でいつまでも女子な妹と誰が結婚したいのか。自慢の美貌だって、もう賞味期限は終わっています」

 そりゃ、そうだよね……

 お姉さんは、今後、自分の子供たちにまで、まどかさんが頼ってくるのではないか、と危惧しているそうです。

 こういう生き方も、自分の収入の範囲内でやるのなら自由だとは思うのですが、親の老後資金を食いつぶし、借金を重ねながら、ですからね……

 「自己責任」じゃなくても、こんな家族がひとりいれば、たちまち、「隠れ貧困女子」になってしまうのです。

 とはいえ、フィレンツェにお出かけするオバサンを社会を助けてやれ、と思えるかというと、妖怪ウォッチ無しでも、僕の心のなかに「む~り~」というのが口癖の妖怪が登場してしまうのですけど。

 でも、僕と同世代か、少し年下くらいの彼女たちが生きてきた時代のことを考えると、「自己責任」ばかりで片づけるべきではないのかもしれません。

 話を聞いた、大卒・短大卒なのに貧困状態にある女性たちは、35歳からアラフォーの世代が多い。彼女たちは2000年代の初頭から半ばに社会に出ている。この時期は就職氷河期といわれ、正社員として採用されるのは困難を極めた。まだ現在のようにモラハラの概念がなく、圧迫面接(何を発言しても否定的な回答をされる)や、”結婚しても働くのか””出産したいと思っているか”などセクハラまがいなことを質問されたという経験を語る人もいた。これにより、心が疲弊し、就職活動に疲れ果てて非正規労働者の道を選んだという人も少なくない。

「偏差値55の大学を卒業し、中堅証券会社に就職しました。当時、証券会社で颯爽と働き、黒のスーツを着て丸の内を闊歩する自分が理想だったんですよ。でも、新人に待っていたのは営業電話をかける日々。午前中に50件というのが最低ノルマでした。トイレに行こうとすると”仕事もできないのにトイレか!?”といわれたこともあります」(40歳・派遣社員)

 この女性は、8か月で帯状疱疹を発症し、退職に追い込まれる。以降は半年間、都内の実家で療養し、回復後は大手の派遣会社に登録。32歳で同世代男性と結婚し、そこそこ安定した生活を送っている。しかし、夫婦共稼ぎでないと生活が維持できないので、子供はいない。

 それに、”自分の夢を追う”ことが素晴らしいとされる教育をされていた、というプロフィールを持つ人も多く、就職しても夢とは全く違う、ノルマや単純作業に追われるハードで、単調な毎日に嫌気がさして、辞表を出した人もいる。たとえそれが、希望の業種を扱う会社に就職できたとしても、だ。

 先日、会社の元同僚たちと会ってきたという義父が、しみじみと「みんな、自分自身の健康や、子供たちのお金のことで苦労しているんだよなあ……」と語っていました。

 有名企業に就職していた団塊世代のジュニアたちでさえ、それが現実なのです。

 もっとも、人生において、まったく金銭的にも健康的にも家族関係にも不安がない時期なんて、蜃気楼みたいなものなのかもしれません。

 「隠れ貧困」レベルまで、社会的にサポートするのは難しいだろうな、としか言いようがありませんが、とりあえず、こういう現実が、確実に存在しているのです。

最貧困女子 (幻冬舎新書)

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