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<憲法改正>安倍首相が創設を目指す「緊急事態条項」とは?

 安倍晋三首相は年頭の記者会見で、夏の参院選の争点として「憲法改正」に言及しました。その布石として導入を図ろうとしているのが「緊急事態条項」です。昨年の国会でも安倍首相は緊急事態条項を憲法に創設したい意向を示しています。しかし、その中身はよく分からない部分も多いのです。緊急事態条項とは一体どのようなものなのでしょうか?

なぜいま議論となっているのか?

 緊急事態条項とは、「大災害や武力攻撃などによって国家の秩序などが脅かされる状況に陥った場合、政府などの一部機関に大幅な権限を与えたり、人権保障を停止したりする、非常措置をとる」ことを定めた規定です。自民党は2012年に11章から成る「日本国憲法改正草案」を提言。その中の項目として、「緊急事態条項」の創設を提案しました。これは前年の東日本大震災における災害対応の不手際を教訓として盛り込んだとされています。現在議論されているのは、この2012年に発表された緊急事態条項の内容です。

 首相はまず2013年に、憲法96条「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする」の要件である“各議院の総議員の三分の二以上の賛成”を“各議院の総議員の過半数”に改正し、改憲のハードルを下げようと試みました。しかし、世論や自民党内部からの反対もあり、取りやめています。そこで首相は、手始めに野党との合意も得られやすい「緊急事態条項」を創設し、憲法改正の動きを活発化させたいとの思惑があるようです。

あいまいな?「緊急事態条項」の定義

 具体的にはどのような内容なのでしょうか? まずはどのような状態を“緊急事態”と想定しているかをみてみます。草案では大きく分けて3つのケースを想定しています。(1)外部からの武力攻撃、(2)内乱等の社会秩序の混乱、(3)大規模な自然災害です。

 これに対し、憲法学が専門の聖学院大学政治経済学部の石川裕一郎教授は、規定のあいまいさを指摘します。「条文では『内乱“等”による社会秩序の混乱』と、内乱以外も想定しているのです。例えば、“ストライキ”や“金融不安”なども想定しているのかという疑念があります。さらに問題とするのは、条項の最後に『その他の法律で定める緊急事態』と記載されている点です。法律でこの3つ以外のケースも作り得るのです」。もちろん、緊急事態条項が創設されれば、国会で議論されるので乱暴なやり方はできないにしても、ある程度は政権の思い通りにできる可能性があるのです。

具体的にはどんな状況を想定している?

 自民党は日本国憲法改正草案の提言と併せて、「Q&A集」も発表しています。その解説には、緊急事態条項創設の目的を「東日本大震災のような大災害のときに、政府が迅速に動けるようにする」とあります。しかしこれらはもう、「現在の災害対策基本法や災害救助法の下、都道府県知事や市町村長の判断でほとんど対応できる」などと、憲法学者や弁護士が主張しています。さらに、日本国内が戦争になったと場合も既存の法律で対応できるのです。敵が攻めてきたり内乱が起きたりした場合は、自衛隊法や警察法があるのです。

 自然災害以外での緊急事態条項創設の論拠となるのは「国政選挙」関連です。「衆議院が任期満了で総選挙になったときに、たまたま災害や外部からの武力攻撃で、選挙ができないまま4年経ったとします。衆議院の任期は4年と憲法で決まっていますが、任期延長の規定はありません。法律で任期を延ばすことはできないということで、緊急事態条項の創設という形で憲法に加えようとしているのです」(石川教授)。

内閣だけで法律と同等な制度を作れる?

 改憲案では、「緊急事態が宣言、発せられた場合は内閣が法律と同じ効力を持つ政令を発することができる」となっています。石川教授は「国会での法律の審議すらある意味飛ばして、内閣レベルで法律と同等なルールを作れてしまいます。さらにその政令に関し、『憲法14、18、19、21条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない』と書いてある。逆に言えば、尊重さえすれば、憲法で保障されているさまざまな基本的人権をも制約できるとも解釈できます」と、憲法の条文そのものを相対化する危険性を指摘しました。内閣が発する政令次第では、例えば“裁判所の令状なしでの身柄拘束”などが可能となるのです。

 一番の問題は、憲法レベルで保障されている基本的人権が簡単に制約されてしまうことです。憲法に創設されるとなると、もちろん違憲でもありません。さらに、石川教授は緊急事態の宣言の手続きについて指摘しました。「緊急事態は内閣総理大臣が発します。これへの歯止めとして考えられるのが国会です。しかし、国会の承認は事前または事後でも認められます。そして、その承認の期限がないのです。 極端な話、緊急事態宣言を発して数か月後の承認でもいいのでしょうか?」と、疑問を投げかけました。

フランスの「非常事態宣言」の場合は?

 実際に同様な形で1955年から運用されているフランスの事例を見てみます。フランスでは現在、昨年11月のパリ同時多発テロ事件の発生に伴い、大統領が非常事態宣言を発令しています。発令されると、夜間外出禁止や集会の規制、ライブハウスやホールなどの人が集まる施設の営業規制、裁判所の令状なしで昼夜問わずの家宅捜索、令状なしでの不審者の身柄拘束が可能となります。

 もちろん問題点もあります。今回のテロ事件に関連し、フランス当局は数千件に上る家宅捜索を行ったのにも関わらず、結果的にテロとの関係が疑われる犯罪の立件は1桁くらいしかないのです。このような状況もあり、フランスでも法律家や市民グループが行政裁判を起こしています。さらに、フランスでも非常事態法で自然災害の想定を記載していますが、これまで6回の非常事態宣言の発令では、自然災害での適用が1回もないのです。

現行法でほとんど対応できる?

 それでは、日本において緊急事態条項は必要なのでしょうか? 石川教授は全て現行法で賄えるとして不要と主張します。「自然災害と武力攻撃は先ほど指摘した法律でほぼ対応可能です。さらに衆議院解散中の空白ついても、実は現憲法で対応できるのです。衆議院には解散がありますが、参議院にはありません。解散がない上に半数ごとの改選なので国会には空白期間が生まれません」。緊急事態を想定し、憲法54条で“参議院の緊急集会(衆議院が存在せずに国会が開催できない場合で、国に緊急の必要性が生じたために参議院で開かれる国会の機能を臨時に果たす集会)”が定められているのです。

 憲法改正は安倍首相の宿願であり、緊急事態条項の必要性を認める見方もありますが、議論は注意深く見ていく必要があるかもしれません。

(ライター・重野真)

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