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「出会い系」に翻弄される21世紀のゲイたち - かずかず / フリーランス・エッセイスト

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はじめに

21世紀初頭におけるゲイ(男性同性愛者)の恋愛では、ゲイ男性向けオンライン・デーティング・サービスが広く利用されています(注)。その中でも、ユーザー一人ひとりが写真付きのプロフィールを持ち、それがスマートフォンの位置情報に基づいて近い順に表示されるスマホアプリがその主流となっています(以下、これを「ゲイアプリ」と呼びます)。

(注)ゲイ男性だけでなく、バイセクシャル男性が利用することもあります。

ゲイアプリは、いわゆる「出会い系」とは違った意義を持ちます。普段の生活で多くの恋愛対象・性的対象と出会える異性愛者にとって、出会い系サービスとは出会いを探すための一つの選択肢に過ぎず、依然としていかがわしい印象があります。しかし現在の日本のゲイ男性は、多くがクローゼットであるがゆえに、普段の生活での出会いが圧倒的に少なく、日常生活とは無関係な所で出会わなくてはなりません。

オープンでない日本のゲイ男性のこれらの課題を解決することに、今最も成功しているITツールが、ゲイアプリなのです。今やこのテクノロジーは、日本のゲイ男性にとって「出会いにおけるインフラ」と化しました。蛇口をひねって水が出るように、当たり前に存在し機能してくれなくては困るものなのです。

これらの画期的なテクノロジーは、ゲイ男性同士の出会いの形や人間関係を劇的に変えました。しかしゲイアプリがもたらしたのは、手軽に他のゲイ男性と出会えるという利点だけではありません。ゲイアプリを用いた活動に対して「疲れ」を感じるゲイ男性を数多く生むことにもなったのです。

本稿の目的

この論考の目的は、以下の二点です。

・ゲイアプリの登場によってゲイ男性同士の関係性がどのように変化したか、またゲイアプリがもたらす関係性が一般的な人間関係とどう違うのかを明らかにすること。

・こうした人間関係においてゲイ男性が感じている「疲れ」の原因を解明し、個人で実践できる対処法を提案すること。

この論考が、「ゲイアプリを使う悩めるゲイ男性」の皆さんが漠然と感じている「疲れ」の構造を理解し、今後どうゲイアプリと付き合っていくかを考える一助になれば幸いです(注)。

(注)また、本稿ではゲイアプリの実名を明らかにした上で、仕様や使われ方について考察しています。スマートフォンアプリは、Webブラウザ上のサービスと異なりクローゼットな印象を与えますが、実際には誰でもアクセスできるものです。この論考の本筋ではありませんが、「ゲイアプリは従来の出会い系掲示板よりアウティングのリスクが少ない」というのは神話であると理解したうえでゲイアプリを使うことを推奨します。

異性愛者の皆さんは、出会い系アプリが当たり前になり、僕たちゲイ男性が今経験しているような「疲れ」を感じるようになる、来るべき日に備えるためにこの論考をご活用ください。インターネットに顔写真を載せることが「危険」とされていた時代は、日本におけるFacebookのユーザー数が急増した2011年に終焉を迎えました。これと同じように、今はいかがわしいとされている出会い系サービスの利用が当たり前になるというパラダイムシフトは、日本社会においても必ず起こります。

AirbnbのCEOが「Tinder」という出会い系アプリでガールフレンドを見つけそれを公然と発表しているように、その流れは既に始まっているのです。日本でも、従来のような強い性愛のイメージを排除した異性愛者向け出会い系サービスの広告をよく目にするようになってきました。異性愛者のみなさんにとっても、僕たちの感じている「疲れ」が他人事ではなくなる日は近いでしょう。

また、僕たちゲイが抱えている悩みの中には、LGBTムーブメントで語られるヘテロノーマティブ(全員が異性愛者であることを前提としている)な社会におけるマイノリティとしての生き辛さだけではなく、ゲイコミュニティ内部で起こる摩擦によるものもあります。つまり虹色の旗をひらめかせているゲイたちは全員が仲良しこよしなわけではないことをお伝えし、マイノリティをマイノリティの目線から見つめる機会にしていただければ、とも考えています。

テクノロジーの変遷

まず、ゲイアプリの新しさを説明する上で、従来用いられてきたゲイの出会いのテクノロジー(手段)の変遷を見てみましょう。ゲイ同士のつながりには、お互いがゲイであるという条件で結ばれたコミュニティ的なつながりと、性愛を媒介にした個人対個人のプライベートなつながりの二種類が考えられます。

森山至貴『「ゲイコミュニティ」の社会学』(2012, 勁草書房)によると、インターネットが登場するまで、ゲイの主な出会いの場は、ハッテン場、ゲイバー、ゲイ雑誌の三つでした。これらにおいては、すべて初期段階ではコミュニティ的なつながりとプライベートなつながりとが混在していました。

例えば、ハッテン場と言えば見ず知らずの人とセックスして終わったら帰る、というイメージがありますが、初期の屋外公衆トイレなどのハッテン場では温かいコミュニケーションが行われることもありました。

「だいたいいつも十人くらいの同じ顔触れで、『しばらく。元気?』なんて言葉を交わしたりして、……」(伏見憲明『ゲイという経験[増補版]』2004, ポット出版, p.326)

ここでは、性行為というプライベートなつながりに加え、挨拶を交わし合うといったコミュニティ的なつながりも同時に発生していました。ゲイバーについても、初期は売春業の営業も兼ねており、おしゃべりを楽しむコミュニティ的つながりだけでなく、プライベートなつながりも発生しました。ゲイ雑誌においては、同じ雑誌を読んでいる(すなわち雑誌というメディアを介した)者同士のコミュニティ的なつながりと、文通欄のパートナーの募集や「複数名で集まりましょう」といった投稿を通じて発生するプライベートなつながりがありました。

しかし、時代が下るにつれて、これらの場はプライベートなつながりを提供するものとコミュニティ的なつながりを提供するものに分化していきます。ハッテン場は屋内施設化が進むに伴って、よりプライベートなつながりに特化した空間となりました。現代のハッテン場は、照明が暗く、重低音の効いた音楽が流れていて、会話などのコミュニケーション、つまりコミュニティ的つながりが発生しないような設計がされています。

また、ゲイバーも今では性的サービスを提供する店とほぼ分離し、なじみの客同士のコミュニティ的つながりの形成に特化しています。ゲイ雑誌においても通信欄が廃止されるなど、プライベートなつながりを提供する場としては機能しなくなっていきました。

森山がこうした分化を促進した原因として挙げているのが、インターネットの興隆です。1990年代中盤以降、出会いの新たなテクノロジーであるゲイ向けの掲示板やSNSが登場しますが、これによってユーザーは「友達を作りたい」「恋人をつくりたい」といった目的に合わせてピンポイントで手段を選べるようになりました。このように出会いの手段が充実し総覧的に示されることで、ゲイ男性たちが目的を明確にして振る舞わざるを得ないようになっていき、これに伴い二つのつながりの混在が解消されていったと森山は分析しています。

インターネット以前は、場にプライベートなつながりとコミュニティ的なつながりを求める人が混在していたので、自分が望んでいないつながりを求めている人と会う可能性がありました。そして、相手と自分の求めているものが違う場合でも、「つながらないよりはマシ」と思ってつながってしまうことがあったのです。しかし、インターネットによる出会いでは、出会う前に何を求めてつながろうとしているのかを知ることができるので、そのようなミスマッチを避けることができるようになりました。このような文脈の中で、プライベートなつながりを提供する最先端の手段として登場したのがゲイアプリです。(注)

(注)ゲイアプリ上では、友達募集・恋人募集・ヤリ目(やりもく:セックスのみを目的とすること)という三つのレーベルがよく使われています。これらは三つともプライベートなつながりですが、その中でも分化が起きており、異なる募集タイプのゲイ男性同士がつながる(会う)ことが防がれる傾向にあります。ヤリ目の人に「今週末美術館に行きませんか?」とメッセしたり、友達募集の人に突然「エッチしましょう」とメッセしてもリアルには至らないでしょう。ただし、このProfileの「○○募集」という表明がどれほど本心と一致しているかは、状況によっても、個人によっても異なります。ゲイアプリ上でのヤリ目は、社会のオフィシャルな言説の中での「出会い系」が持ついかがわしさに似たイメージを持っており、そのネガティブなイメージを気にして、実際にはセックスの相手を探していてもそれを明言していない人も多く見受けられます。この場合でも、当人同士が会う(つながる)前にメッセージのやり取りでお互いが本当に募集しているものを判明させることでミスマッチが解消されます。

「ゲイアプリ」とは

それではいよいよ、ゲイアプリの仕様を見ていきましょう。数あるゲイアプリの中から、今回は現在世界・日本で最もシェアの大きいゲイアプリの一つであり、スタンダードな機能を備えている「Jack’d」を通して分析を進めていきます。

Jack’dは、2010年、元祖ゲイアプリである「Grindr」のリリースの一年後に、よりソーシャルな要素を加えて登場しました。Jack’dがどのくらいゲイライフに浸透しているかというと、一般の人にとってのLINEやTwitter並みと言っても過言ではありません。公式HPの発表では、Jack’dはリリースされてから2015年12月までの間に、世界で約500万人のユーザーを持ち、毎日新たに1万ダウンロードされています。

まず、Jack’dのインターフェースとともに、主な機能を説明していきます。

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