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【寄稿】アカデミー賞ボイコット事件~黒人監督と俳優はなぜ怒っているのか? - 堂本かおる

 1月14日に今年度アカデミー賞のノミネートが発表されるや否や、ツイッターに#OscarsSoWhite(アカデミー賞は真っ白)のハッシュタグが出回った。最優秀主演男優/女優賞、同助演男優/女優賞の候補計20人がすべて白人、黒人俳優はひとりも含まれていなかったのだ。昨年度も同様で、これで2年連続となった。

 この事態を受け、ふだんからストレートな物言いで知られる黒人映画監督スパイク・リーが、1月18日に今年のアカデミー賞ボイコットを表明した。18日は公民権運動のリーダー、故キング牧師の誕生にちなむ祝日だった。

 続いて黒人女優ジェイダ・ピンケット=スミスもボイコットを表明。ピンケット=スミスの夫で黒人俳優のウィル・スミスは、アメフト選手特有の脳損傷を発見した実在の医師の伝記映画『Concussion』で主役の医師を演じており、主演男優賞にノミネートされるべきだったと言われている。後日、スミスもボイコットに賛同したが、「私自身についての問題では決してない」と語った。

 他にもボイコットを支持する黒人俳優や映画関係者が名乗り出る一方、ボイコットをナンセンスと批判する黒人俳優も出た。さらに今年の授賞式の司会を務める黒人コメディアン、クリス・ロックは「降板するべきか否か?」の問いかけもあった。

 こうした一連の出来事はすぐさまトーク番組などでジョークとなった。あるコントは、『クリード チャンプを継ぐ男』で助演男優賞にノミネートされたシルヴェスター・スタローンをネタにした。『クリード』は、あのボクシング映画『ロッキー』のスピンオフ。今は老いて引退したロッキーが、仇敵アポロ・クリードの息子をボクサーとして育て上げる物語だ。主人公は黒人ボクサーであり、ロッキーではない。主人公が黒人ゆえ、取り巻くキャラクターもすべて黒人の、いわゆるブラック・ムービーだ。ゆえにコントのオチは、「唯一の白人キャラがノミネートされちゃったよ」だった。

 爆笑を誘ったコントだが、主役を演じた黒人俳優マイケル・B・ジョーダンの心境は計り知れない。

無冠の黒人アクター

 アカデミー賞の人種の偏りを知るには、過去の受賞リストを見るのが早道だ。

 1929年に始まったアカデミー賞。初の黒人受賞は1940年『風と共に去りぬ』でメイドを演じたハティ・マクダニエル(助演女優賞)と、比較的早かった。しかし次の受賞は1964年『野のユリ』のシドニー・ポワチエ(主演男優賞)まで、実に24年待つこととなる。その次は1983年『愛と青春の旅立ち』のルイス・ゴセットJr.(助演男優賞)と、またもや19年もの間が開く。

 しかし1990年代には3人の受賞者が出、やがて、あの2002年がやってくる。主演男優賞デンゼル・ワシントン(『トレーニングデイ』)、主演女優賞ハル・ベリー(『モンスターボール』)と、まさかの黒人俳優W受賞となったのだった。これで「何かが変わる」という期待を多くの黒人が抱き、以後、2014年までに計7人の受賞者が出た。

 ところが、前述したように昨年と今年は受賞どころか、ノミネートさえ皆無に戻ってしまった。昨年も今年も優れた黒人俳優がいなかったわけではない。ウィル・スミス、マイケル・B・ジョーダンの他にイドリス・エルバ、デヴィッド・オイェロウォなど枚挙に暇はない。

 アカデミー賞は今年で第88回となるため、累計では352人の俳優が最優秀賞受賞となるが、黒人俳優は15人(*)。最優秀主演賞に限ると、5人のみである。

*デンゼル・ワシントンが主演と助演で2回受賞しており、実質14人

大河「奴隷」映画

 アカデミー賞でもっとも注目されるのは、やはり最優秀作品賞だろう。毎回、選ばれる作品に遜色はないが、これも黒人の視点で見るとやはり「違うもの」が見えてくる。

 まず、黒人監督による作品が最優秀作品賞を受賞したのは、後にも先にも2014年の『それでも夜は明ける』(監督:スティーヴ・マックイーン)の一作品のみ。

 話はやや逸れるが、ノミネートされる作品には白人監督による“白人救世主の物語”と揶揄されるものが少なからずある。人種差別や貧困など苦境にある黒人を“良い白人”が救う物語だ。1988年『ミシシッピー・バーニング』は、黒人の公民権運動家が殺された事件を、白人のFBI捜査官が追う物語。2009年『しあわせの隠れ場所』は、貧しい黒人少年を裕福な白人女性が引き取り、アメフト選手として大成させた実話に基づく。2012年『ヘルプ~こころがつなぐストーリー』は、苦しい黒人メイドの生活を若い白人女性が取材する。いずれも主人公は白人であり、白人の視点で物語は進行する。

 黒人が主人公の作品になると、奴隷や公民権運動など、差別にあえぐ黒人の姿を描いた歴史感動大作が評価される傾向にある。今年、伝説のギャングスタ・ラップ・グループN.W.Aの生々しい姿を描いた『ストレイト・アウタ・コンプトン』がノミネートされなかったことについて、早速「奴隷フレイバーを入れておくべきだったよね」というジョークが出た。

 また、最優秀監督賞も過去88年間にノミネートされた黒人監督は3人のみ、受賞は皆無。昨年、キング牧師の伝記映画『グローリー/明日への行進』の黒人女性監督エイヴァ・デュヴァーネイがノミネートから漏れたことに、多くの映画ファンや関係者が異議を唱えた。

アカデミー会員の9割が白人

 アメリカには黒人に対する人種差別が現在にいたるまで根強く残っている。これは周知の事実。しかしアカデミー賞にノミネートされる黒人の少なさは差別だけでなく、異文化への非親和性にも由来する。映画に限らずすべての文化において、人はやはり自身の文化に共鳴する。全く異なる文化には距離感を抱き、関心を持ちにくい。特にアメリカは同じアメリカ人でありながら白人と黒人のカルチャーに驚くほどの違いがあるため、顕著になる。

 したがってノミネート投票を行う会員6,000人のうち白人が9割以上、男性が8割近くを占め、平均年齢60代のアカデミーは、自ずと黒人俳優や、その出演作に関心を持ちにくい。アカデミー会員とて全ての映画を観るわけではない。限られた本数を観る際、例えば65歳の白人会員は、若い黒人が「ファック・ザ・ポリース!」と叫ぶヒップホップ映画を選ぶだろうか。

 今回のボイコット騒動に対し、アカデミー側は2020年までにノミネート制度の変革をおこなうと発表した。そのひとつは会員の構成を変えること。女性とマイノリティを倍にするとしている。

 現在、アカデミー会員の2%を占めるに過ぎない黒人会員が倍になったところで、過去88年間に亘って培われたアカデミーの風土が劇的に変わるわけではないだろう。それでも変化の第一歩には違いない。スパイク・リー監督の勇気と強い意志が、変化のきざしをもたらせたのである。

※文中の作品年度は作品の公開年ではなく、アカデミー賞ノミネート/受賞年

(どうもと かおる)大阪出身、ニューヨーク在住。CD情報誌の編集を経て1996年に渡米。ハーレムのパブリックリレーション会社インターン、学童保育所インストラクターを経てライターとなる。以後、ブラックカルチャー、移民/エスニックカルチャー、アメリカ社会事情全般について雑誌やウエブに執筆。

・HP: ニューヨーク・ブラックカルチャー・トリヴィア
・ブログ:ハーレム・ジャーナル
・ツイッター:nybct
・ツアー:ハーレム・ウォーキングツアー

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