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第三次世界大戦はすでに始まっている - 佐藤優

中東情勢は複雑怪奇

── サウジとイランの国交断絶の背景として、イスラム国(IS)の台頭や昨年の米英仏露中独とイランの核合意が考えられます。

佐藤 イスラム国の台頭によって、シリアが破綻国家になってしまい、権力の空白が生じてしまいました。国際政治は権力の空白があれば埋めようとするものです。周辺国のトルコやロシアのシリア空爆やイランのイラク、シリアにおける対IS地上戦は、その流れです。

 アメリカはIS対策でイランの協力を得るために核協議で譲歩して合意を形成しましたが、その内容は事実上イランの核開発を容認するものです。現在、イランはアメリカのお墨付きの下でISと戦い、シリアにおける影響力を拡大しています。

 これに対してサウジは危機感を強めています。サウジにとって最悪のシナリオはイランがシリアの政治的空白を埋め、アラビア半島に進出してくることです。それゆえサウジはイランに急接近するアメリカに様々な手段で懸念を伝えましたが、アメリカは真剣に受け止めませんでした。だからこそサウジはニムル師を処刑し、アメリカに対して「我々は本気で怒っている」とレッドカードを突きつけたのです。

 とはいえ、今さらアメリカがサウジとイランの対立を止めることはできません。シリアを影響圏にすることを目論むイランと、シリアをバッファー(緩衝地帯)にしたいサウジのせめぎ合いは本格化します。

 まずサウジは原油の減産をせず、原油シェアを確保するでしょう。経済制裁を解除されたイランは原油を売って外貨を稼ぎたがっています。それを妨害するために、原油安の状態を維持するはずです。またISがシーア派殲滅を打ち出すようになって、シリアでイランはISと全力で戦っています。その結果、中東の対立構造がスンニー派対シーア派に変化しました。現在のサウジにとって同じスンニー派に属するISの方がイランよりマシです。サウジはISを生かさず殺さずの状態でイランに対する防波堤として利用したいと考えています。

 一方、イランはシリア進出を強めると同時に、これまで以上にバハレーン、レバノン、イエメンのシーア派を支援してサウード王家に対する転覆工作を本格化するでしょう。イランの最終目標はサウジの手からメッカとメディナという聖地を奪還することです。両国の対立はどちらかが滅ぶまで続きます。

 当面はイランに有利な形で情勢が推移するでしょう。また今後はISよりもサウジが国際情勢の不安定要素になり、政治、軍事、経済、エネルギーの危機はサウジが震源地になる可能性が高いと思います。ですが、予断は許しません。

 現在、中東ではプレモダン、モダン、ポストモダンが同時進行しています。例えば、宗派対立や聖地の争奪戦はプレモダン的ですが、国家間の核合意や国交断絶はモダン的、シリアの難民やISというグローバルテロリズムはポストモダン的です。

 さらに敵と味方が複雑に入り組んでいます。例えばイランはレバノンのシーア派民兵組織ヒズボラを支援しています。これはイスラエルにとって脅威です。一方、イランは同じシーア派に属するシリアのアサド政権を支援しています。これはイスラエルの利益です。イスラエルにとってシリアは無政府状態で混乱するよりも戦い慣れたアサド政権が存続する方が望ましいからです。こういう複雑な利害関係があちこちに沢山あります。

 それだから現在の中東情勢は情報工学で言うところの「複雑系」になっています。変数が多すぎてシミュレーションが不可能なのです。我々は何が起きるか分からない事態に直面していることを自覚する必要があります。

我が国はいかに第三次世界大戦を生き抜くか

── サウジとイランの対立を契機に第三次世界大戦が現実味を帯びています。

佐藤 いや、その見方は正確ではないと思います。私は「第三次世界大戦はすでに始まっている」と認識すべきだと考えています。国家、宗派、テロが陸、海、空、宇宙、サイバー空間で衝突する世界的規模の戦争はすでに進行しているからです。実際、ローマ教皇(法王)フランシスコは現在の世界情勢を「第三次世界大戦」だと評価しています。

 私が言う第三次世界大戦はプレモダン、モダン、ポストモダンの要素を含んでいます。それゆえ近代国家間の帝国主義やナショナリズムが衝突した第一次、第二次世界大戦とは様相が異なるのです。宣戦布告がないまま世界大戦が始まっているということです。……





以下全文は本誌2月号をご覧ください。

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