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庶民の娯楽のパチンコから、依存症を生むために技術を駆使するパチンコ産業へ。 

国がギャンブル性を直接管理──パチンコ産業の法律的・行政的な位置


ギャンブル・賭博罪と遊技の間

国際的にはギャンブルに区分されるパチンコだが、日本国内でその法律的・行政的な位置はどうなっているのだろう。

現代社会では賭博は犯罪である。賭博を認める場合は、法律を作って例外的な空間を設け、厳しい条件の下で行うのが普通であり、世界中のカジノはこれに当る。むろん日本でも賭博は、刑法185条(賭博)、186条(常習賭博および賭場開帳)により犯罪である。日本のパチンコは国際的に見れば明らかにギャンブルであるが、国内での行政上の扱いは、ギャンブルとは一線を画す“遊技”とされる。ただし、つねに賭博罪との関係の解釈で灰色の部分がつきまとっている。

いわゆる公営ギャンブル5種(中央競馬、地方競馬、競輪、競艇、オートレース)と、宝くじ、サッカーくじtoto(スポーツ振興くじ)は、形の上では賭博であるが、それぞれ独立の法律によって行われているもので、犯罪とは扱われない(法律用語で違法性阻却と言う)。また刑法の側も、刑法35条によって「法令または正当な業務による行為は罰しない」としている(正当行為)。

一方でパチンコは、戦後、庶民の娯楽として非常に広く浸透し、幾度かのブームを経て、一大産業に育ってきた。激しい流行の波にもまれて、パチンコの形態と社会の中での意味が変わり、その度に、庶民の娯楽性と、賭博罪との線引きが問題になってきた。ところで、言葉としては「パチンコ/スロット」の方が実態に近いが、ここでは「パチンコ」とする。また法律ではカタカナを用いないため、公文書では一貫して「ぱちんこ」と表記される。

風営法から風適法へ。自治体から国の管理に

最初の大流行を牽引したのは、1949年に正村竹一が確立した、正村ゲージと呼ばれる機械であり、今日のパチンコの基本型となった。ところが1952年に、玉が自動的に充填される連発式が考案されると、輪をかけて大ブームとなった。だが同時に、賭博性も著しいものであった。これを問題視した東京都公安委員会は1954年に連発式を禁止し、これを受けて警視庁は、パチンコ機の機械基準について通達を出した。この連発禁止によって業界は大打撃を受けた。

ところが1970年代末から、マイクロコンピュータを搭載させて役物(チューリップなどの仕掛けのこと)を電気的に動かす派手な機種が開発され、一大ブームとなった。代表的機種の名「フィーバー」をとって、フィーバー・ブームと呼ばれたが、これは賭博性が著しく高いものであった。

事態を重く見た警察庁は、1984年に、風営法そのものを全面改正して風俗営業適正化法(風適法)とし、このなかで機械の認可を都道府県レベルから国が直接行う業務に引き上げた。風営法から風適法へ転換した目的は、警察行政の基本を自治体警察から国レベルへ引き上げ、風営法の取締対象であった賭博との線引き基準を明確にし、全国で一律にすることであった。

パチンコは、風適法の下で、第2条(用この時代の警察の規制は、1948年に作られた風俗営業取締法(風営法)に拠るものであった。GHQは戦前の内務省警察を認めず、戦後に成立した警察法は自治体警察が基本であった。そのため、風営法は取り締まり体制の骨格しか定めておらず、具体的な規制は自治体が条例で定め、運用は都道府県公安委員会に委ねられていた。この制度の下では、機械の射幸性の限度(すなわち賭博罪には当たらないという判断)についても都道府県ごとに認可を得る必要があり、規制の内容には地域で差があった。そのなかで、最初に警視庁が動いたのである。

語の定義)7号で「まあじゃん屋、ぱちんこ屋その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業」と規定され、8号業種のゲームセンターとははっきり区別されている。そしてパチンコ機の審査については、風適法第4条3項で「遊技機が著しく客の射幸心をそそるおそれがあるものとして国家公安委員会規則で定める基準に該当するものであるときは、営業を許可しないことができる」とされ、国がパチンコ機のギャンブル性の限度を直接管理することになった。これを受けて国家公安委員会は、「風俗営業適正化に関する法律施行規則」第7条や、「遊技機の認定および型式の検定等に関する規則」で「著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機の基準」を、数字を用いて細かく定めた。

三店方式。賭博罪回避のしくみ

この体制の下では、パチンコ機メーカーが新しい機種を生産するためには、まず警察庁に開発した機械の仕様書と試作機を提出して、認定を受け、ギャンブル性が基準以下と認められれば、メーカーはこの機種を生産する。そして製品は、指定機関である保安通信協会(保通協)による検査を受けなければならない。メーカーは、パチンコ機をパチンコホールに納入する際、検定合格機であることを示すシールを一台ごとに貼ることになる。

国がここまでパチンコ機を管理する根拠は、風適法の目的の条文に明示されている。そもそも旧・風営法には目的の条項もなかったのである。

風適法第1条(目的)には「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、および少年の健全な育成に障害をおよぼす行為を防止するため」とある。そ

して、ここで言う「善良の風俗の保持」とは、「国民の健全な道徳観念により人の欲望を基礎とする風俗環境を善良の状態に保持する」(解釈基準、『風営適正化法令解釈基準集』)こととされている。

ここで重要なのは、風適法を根拠とする規制とは、1「人の欲望を基礎とする風俗環境を善良の状態に保持する」、具体的には、刑法の賭博罪との間で線引きをし健全な娯楽の範囲に保つ、2少年の健全な育成、の二点であることである。

国家公安委員会によるパチンコ機の直接規制は、賭博罪との間にある灰色領域がひとつであり、もうひとつが景品の換金問題である。景品換金については、長年の試行錯誤の結果、「三店方式」と言われる形が定着しており、これで賭博罪は回避されていると一般には受け取られている。ただし警察庁の公式見解は、「ただちに違法とは言えない」ということで一貫している。

図3が「三店方式」の概要である。1980年代以降、とくに景品の換金が一般化し、現在ではパチンコで勝った客の大半、約95%が特殊景品(G景品)を受けとると言われる。客は受け取った特殊景品を、ホール近くの買取所で現金に換える。特殊景品はいったん問屋が買い取り、これをパチンコホールに卸売する。これが、パチンコホールは直接、換金を行わないのだから賭博には当たらない、という解釈がかろうじて成り立つ現在の形である。

三店方式による景品換金の仕組み

以上が、パチンコの法律的・行政的な地位のあらましである。

パチンコ業界と警察

風適法による規制対象という不安定な地位にあるパチンコ業界は、パチンコホール・パチンコ機メーカー・関連機器サービスごとに、たくさんの業界組織をもち、多くの場合、そこに元警察官僚(官僚用語ではOB)を受け入れている。この光景を指して、これらは警察官僚の天下り先を確保するために作らせたものと批判する場合がある。そう見ることも可能ではあるが、それだけで終わるのなら一面的に過ぎる。なるほど風適法の下にある施行規則は国家公安委員会の所轄であり、施行規則を決める審議会委員は実質的に警察庁が決めてはいる。しかし全体としては、日本社会が長い間、正当な手続きを積み重ねて採用してきた政策である。このように複雑な政策的課題(この場合は賭博罪との線引きをしながら娯楽産業として認める)に対処するためには、政策的にルールを設けそれを遵守することが必要になり、当然、人的資源を含めてそれに見合ったコストが必要となる。

ただし、警察庁が刑事警察の取締官庁から、余暇産業の推進へ権限を延ばそうとした時期があったことも、また事実である。警察庁の平沢勝栄・保安課長(現在:東京17区選出の衆議院議員)はパチンコのカードシステム化を決め、1988年7月にパチンコ業界の代表に対してこう述べている。

「遊技業界は10兆円産業と言われているが、国民の余暇時間の増大を考慮すると15兆円、いや20兆円産業に増大しても不思議ではない。このカードシステムによる玉貸方法は時節に即応した方向であり、警察庁としては業界の今後の発展を展望し、全国共通カードシステムの導入を認める方向で検討中だ。......カード発行会社は既存の企業ではなく、JR、NTT、一流銀行など大手資本に

よる管理会社を計画している。......さらに業界の脱税防止、暴力団の資金源排除なども考慮し、景品機構の見直しや業界の健全化、福祉への還元などを将来的にこのカード会社によって解決していきたい」(溝上憲文『パチンコの歴史』、p.210)。

日本の統治機構のなかで警察庁が担ってきた権力分担から見て、このパチンコ業界へのカードシステムの導入は政策選択として異色であり、唐突であった。発端は、1980年代後半から偵察衛星などによって北朝鮮の核開発が疑われ始め、これへの対抗手段として北朝鮮への資金流入を抑える意図があったと言われる。事前のマーケティング調査などもないまま導入されたため、当然、失敗に終わった。だがその後、パチンコ機にカード式の玉貸機能を合体させたCR機が導入され、現在では標準の機種になっている。このCR機導入の過程で警察庁は射幸性の限度を緩めた時期があり、ギャンブル依存症問題からするとこの点は問題視せざるを得ない。

日本の警察が高い信頼を持ちえている理由のひとつは、その中核に有能な人材を集め、警察官28万人からなる巨大な権力機構の権力運用のバランスを慎重にとってきたからである。実際、1990年代前半までは、公務員試験の成績上位の学生が希望する重要官庁は、大蔵・通産・自治・警察の4省庁(現在の財務省・経済産業省・総務省・警察庁)であった。

では、警察官僚は、実際どれほどパチンコ業界に天下っているのか。参考になるのは、2000年7月6日に辻元清美・衆議院議員が提出した質問主意書に対する政府回答書である。そこに次のような数字がある。

「警察を退職する際に国家公務員たる警察官であった者で、パチンコ・プリペイドカード関連会社、パチンコ関係団体等を含むパチンコ関連企業に在職しているものは、平成12年7月1日現在、47人である。警察を退職する際に地方公務員たる

警察官であった者で、パチンコ関連企業に在職している者の正確な人数は把握していないが、都道府県警察が把握している範囲でその回答を求めたところ、同日現在、全国で194人とのことであった。」

退職時に国家公務員であった警察官とは、いわゆるキャリア組を指し、警察庁が出した47人という数字は正確と考えてよいが、やはり天下りは多い。一方、非キャリア組の人数は、警察庁が都道府県警察本部に問い合わせ、回答書作成までに集まった数字を足したものと考えられるが、これは少なすぎて参考にはならない。

依存症生む技術を動員するパチンコ機メーカー

海外の研究者の眼には、日本のパチンコ産業は非常にわかりにくい巨大な沈黙の経済セクターと映る。もともと日本のパチンコへの関心は薄く、英語情報は限られているため、海外では一面的なパチンコ観が浸透している。

パチンコは、国際的にみればEGMの代表的機種であり、ギャンブルである。しかし歴史的には、パチンコは戦後日本で庶民の娯楽や息抜きとして広く社会に浸透した後に、その拡大過程で波状的にギャンブル性を強めてきた。警察庁はこれに対応して法律を改正し、パチンコ機の射幸性の限度を直接規制する体制を整え、パチンコ機の検定(行政用語で型式の検定)の基準として、国家公安委員会規則を設け、これを機械の進展にあわせて精緻化してきた。

パチンコ機メーカーは、この堅固な枠組みの条件下で新しい機種を開発していかなくてはならない。そこで物語性という文脈コードがとり入れられ、これを前提に、大当たりへの期待と快感を持続させるために技術開発をしてきた。刺激的なCGと大音響をあびせて大当たりの快感を脳内に刻みつけ、パチンコ台の前に座り続けさせるために技術を動員してきたのである。言い換えれば、パチンコ機メーカーは、ギャンブル依存症とその予備軍を大量に生むために知恵を絞ってきたことになる。加えて、歴史的にパチンコへの心理的抵抗が薄いために、他国と比べ、ギャンブル依存症がより純粋な形で多く発症することになったと考えられる。

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