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ベッキー不倫騒動 出版社によるプライバシー侵害の可能性は!? - 河本秀介 (弁護士)

今年のお正月は、有名タレントであるベッキーさんと、バンド「ゲスの極み乙女。」の川谷絵音さんの不倫報道が大きな話題となりました。いち早くスクープした週刊誌は、渦中の二人が、離婚届のことを「卒論」などと呼んでやり取りをしているLINEの画面写真などを掲載し、センセーショナルに報じています。 

 この件については報道が過熱する一方で、インターネットなどには、「芸能人だからといって、個人的なメッセージを勝手に公開されるのは問題じゃないの?」という冷静な声も上がっています。

 中には、「本人に無断でLINEの画面写真を入手するのは違法じゃないの?」「個人情報保護法に違反するのでは?」「プライバシー侵害や名誉毀損にならないの?」という疑問も目にします。今回は、これについて解説したいと思います。

1.無断でパスワードロックを破った場合、
不正アクセス禁止法にあたる

 まず、出版社がLINEの画面写真をどのように手に入れたのかは分かりませんが、おそらくタレント本人が自主的に提供したということはないでしょう。そうすると、出版社はタレント本人に無断で画面写真を手に入れた可能性がありそうですが、この点は問題にならないのでしょうか。

 これについて、不正アクセス禁止法は、「パソコンやスマホなどから、他人のIDやパスワードを無断で入力して認証し、インターネット上のパスワードロックされている機能を使える状態にすること」などを禁止しています。他人のSNSのアカウントに、無断でパスワードを入力してログインした場合も、不正アクセス行為にあたり、罰則が科される可能性があります。

 今回の件で、仮に、タレントの身近な人が本人に無断でパスワードを入力してLINEにログインしたということがあったのであれば、その人が不正アクセス禁止法に違反する可能性があります。

 さらにもし、報道記者がその誰かに「パスワードをこっそり入力して、画面写真を撮影してきてくれ」などと指示していたということがあれば、そのような指示をした報道記者に対しても不正アクセス禁止法違反が成立する可能性があります。

 もっとも、不正アクセス禁止法は、基本的に「不正アクセス行為」を規制する法律です。

 誰かがパスワードロックされていない状態の画面を偶然見てしまい、その場で写真に撮ったような場合は、「不正アクセス行為」があったとはいえず、不正アクセス禁止法違反にはあたらないでしょう。

 また、記者としても、情報提供者からSNSの画面写真の提供を受けただけであり、積極的に不正アクセスを指示したわけではない場合には、「誰かを使って不正アクセス行為をさせた」わけではないので、記者に不正アクセス禁止法違反は成立しないと思われます。

2.報道機関が報道目的で個人情報を用いる場合
個人情報保護法違反にあたらない

 次に、週刊誌で公開されたLINEの画面写真には、個人情報が含まれていると思われますが、個人情報保護法の問題はないのでしょうか。

 個人情報保護法は、事業で個人情報を取り扱っている一定の業者(ほとんどの業者は、何らかの形で個人情報を取り扱っています)に対して、個人情報の適正な取得や、個人情報の利用目的を本人に通知すること、あるいは利用目的に沿った利用などを義務付けています。

 一般の業者であれば、個人情報の含まれるLINEの画面写真を本人に無断で取得して、本人に無断で公開することは、個人情報保護法上問題とされる可能性が高いでしょう。

 しかし、報道機関が個人情報を報道目的で取得したり利用したりする場合、個人情報保護法の多くの規定が適用されません。例えば、新聞報道などで、事件の容疑者の氏名や年齢、職業などが報道されることがありますが、それらを公開することについて本人に了解を取っていない場合でも、個人情報保護法違反にはなりません。

 今回のケースについても、報道機関である出版社に報道の目的があったことには違いないでしょうから、出版社が個人情報保護法に違反することはなさそうです。

3.プライバシー侵害や名誉毀損は?

 では、プライバシー侵害や名誉毀損はどうでしょうか。

 LINEの画面写真を取得したり公開したりすることについて、不正アクセス法や個人情報保護法の問題がないとしても、プライバシー侵害や名誉毀損の問題は、それとは別に考える必要があります。

 まず、「プライバシー侵害」はどうでしょうか。

 「プライバシー」には色々な意味があるのですが、ここでは「普通の人ならば秘密にしておきたいであろう、私生活上の事柄」としておきます

 「不倫をしていること」も「プライバシー」にふくまれるでしょう。

 合理的な理由がないのに、本人に無断でプライバシーを公開することは、違法・不当な行為として、民事上の損害賠償請求や出版差し止めの対象となる可能性があります。

 次に、「名誉毀損」はどうでしょう。

 名誉毀損とは、法律的な意味では、「不特定または多数の人が知ることができる状況下で、具体的な事実を示すことで、ある人の社会的な評価を落とすこと」などとされています。

 誰かの悪口をインターネットの掲示板やSNSに投稿することも、「不特定多数に向けて事実を示して、ある人の社会的な評価を落とした」といえるので、名誉毀損とされる可能性があります。

 この場合、指摘した事実が本当のことであっても名誉毀損は成立します。例えば、ネットの掲示板に「こないだのテスト、A君は0点だった」と書き込んだ場合、たとえ実際にA君が0点を取っていたのだとしても、A君に対する名誉毀損が成立する可能性があります。

 報道が名誉毀損にあたるとされた場合、プライバシー侵害と同じように民事上の損害賠償請求や出版差し止めの対象となる可能性があります。さらに名誉毀損には刑罰も予定されており、刑事責任を追及される場合もあります。

 今回のケースでは、「不倫をしていること」ということは、その人の評価に対して悪影響があると思われます。特に清潔感のあるイメージで売り出しているタレントにとっては影響が大きいでしょう。「不倫をしている」ことを報道することは、仮に事実であったとしても、名誉毀損にあたる可能性があります。

4.「公益的な報道」か、「私生活上の問題」か

 それでは、本件では、出版社にプライバシー侵害や名誉毀損を理由とした責任が生じるのでしょうか。

 まず、報道機関には報道の自由があります。また、事件や事故について報道することは国民の知る権利に応えるものであり、社会的な意義があると考えられています。

 仮に名誉毀損を含む事実が報道されたとしても、そのような報道が社会的な利益のためにされたものであり、かつ、報道された内容が真実であるような場合には、民事上・刑事上の責任が生じないとされています。プライバシーについても同様に、報道することにプライバシーを保護することを上回るような利益があるような場合には、民事上の責任は問われません。

 今回の報道の対象となったタレントは、両方ともテレビ番組やCMなどに出演して活動しています。ファンにとっては、タレントがどういった人物なのかには興味や関心があるでしょう。また、タレントをCMやイメージキャラクターに起用している会社や自治体などにとっては、タレントのイメージにかかわることに、特に関心があるかもしれません。

 その一方で、たとえタレントであっても、その人が誰と交際しているのか、私生活で家族とどのようなトラブルを抱えているのかというのは、特にプライベートなことだといえます。

 また、タレントとして活動をしていたとしても、一般人であることには変わりません。これが政治家であれば、選挙でその人の性格や人間性も含めて判断することになりますので、私生活の報道にもある程度の社会的な意義がありそうですが、タレントの場合は、政治家などとは少し違うように思われます。

 最近の裁判例を見ますと、昨年6月に、週刊誌が、著名な元野球選手の家庭内トラブルを記事にしたことについて、週刊誌側の名誉毀損やプライバシー侵害による損害賠償責任などを認めた判決がありました。

 判決では、一定の家庭内トラブルがあったことが事実だと認めつつも、それらは家族内の問題に過ぎず、報道することについて「専ら公益に出たものであったとも認められない」などとされています。

 タレントの私生活の報道について、どこまでが許容されるのかは非常に難しい問題ですが、個人的な感想としては、単に「交際している」という報道だけならばともかく、本人同士しか知らないLINEでのやり取りを直接公開するのは、特にプライバシー侵害の程度が高いように思います。

 また、その画面写真を直接公開するのは、非常に生々しいインパクトがありますので、文章だけの報道と比較した場合に、その人の社会的な評価を必要以上に落とす可能性が否定できません。

 そう考えると、週刊誌がLINEの画面写真を掲載して報道したことについては、「名誉毀損やプライバシー侵害の観点から行き過ぎだ」と判断される可能性もあるように思われるのですが、みなさんのお考えはいかがでしょうか。

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