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天才か、ほら吹きか。資本主義の先を目指す男【1】 -対談:メタップス社長 佐藤航陽×田原総一朗 - 田原総一朗の「次代への遺言」

通貨はなくなる。インフラはすべてタダになる。経済を選ぶ時代がやってくる――。佐藤航陽氏率いるメタップスは2015年8月、東証マザーズに上場した。若手起業家の間で「天才」と評される佐藤氏が描く、壮大な未来図とは。

シリコンバレーだけが成功じゃない

【田原】今日ここに来る前にメタップスの資料を読んできましたが、事業内容が正直よくわからなかった。今日は僕にもわかるようにじっくり教えてください。

【佐藤】お手柔らかにお願いします。

【田原】事業の話に入る前に、起業の経緯を聞かせてください。佐藤さんはもともと法律家になりたくて早稲田の法学部に入ったそうですが、中退して起業した。どうしてですか。


メタップス社長 佐藤航陽氏 
東京都現代美術館、宮島達男「それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く(1998)」の前で。


【佐藤】在学中に制度が変わったのです。昔は司法試験を受けてそのまま法律家になることができましたが、新しく法科大学院という仕組みができて、そこに進まなくてはいけなくなりました。私は大学の学費も自分で出していたので、大学院修了まで6年間勉強し続けるのは厳しい。それに、お金がないと法律家になれないことにも納得がいきませんでした。実力しだいで何にでもなれる社会のほうが正しいと思いますが、法律家はそういう職業ではなくなってしまった。それで方針転換しました。

【田原】いきなり起業したのですか。

【佐藤】最初はアパレルをやろうと考えていました。ただ、アパレルは服の仕入れや倉庫、店舗でイニシャルコストがかかる。最初に大きな資金が必要になる事業は若者には向きません。ならばお金がなくてもできる領域で勝負しようと考え直して、インターネットで起業しました。

【田原】もともとインターネット系の知識はあったの?

【佐藤】いえ、まったく。パソコンを触ったこともなかったので、とりあえず中古のデルを買ってきて、詳しい友達に教えてもらいながら事業を立ち上げました。プログラミングは3カ月でマスターしたのですが、最初は仕事がないから、「ホームページつくりませんか」と1日300件くらい営業の電話をしていました。軌道に乗るまで3年くらいかかりましたね。

【田原】3年でそこまでいけば立派じゃないですか。

【佐藤】でも、疑問を感じたんですよね。このまま日本でやっていてもダメだなって。日本は縮小しているし、出る杭は打たれてしまう。やっぱり世界中でできるビジネスがいいと思って、中国とアメリカにネタ探しに行きました。起業家と投資家合わせて20人くらいに会ったかな。そこで未来の社会やテクノロジーについて、いろいろ話を聞きました。

【田原】何かヒントはつかめましたか。

【佐藤】はい。この10年でもっとも大きな変革と感じたのがスマートフォンです。2010年当時は日本でまだそれほど普及していなかったのですが、いずれこの小さなコンピュータで、お金や情報などすべてのものが管理される時代になると感じました。それまで私はガラケー向けのビジネスもやっていたのですが、事業を売却して1億円をつくり、シンガポールで新たにスマートフォン向けビジネスを展開しました。

【田原】どうしてシンガポールで?

【佐藤】理由は2つあります。1つはアジアでやりたかったから。シリコンバレーの投資家たちは、口を合わせたように「世界で勝負したいならシリコンバレーに住まないとダメ」といいます。でも、それは違うと思った。たしかにPCの時代はシリコンバレーがインターネットの中心でしたが、スマートフォン普及後は、中心が中国やインドといったアジアに移る。ただ、中国は政治リスクがあって行きにくいですよね。そこでシンガポールを選びました。

【田原】もう1つの理由は?

【佐藤】シンガポールは外資の誘致に熱心で、金融やテクロノジーを重要視していました。当時、日本のスマートフォン普及率は5%くらいでしたが、シンガポールは80%あった。国民が500万人くらいなのでマーケットとしては小さいですが、新しい事業をテストするには最適の国でした。外資系企業は税制でも優遇されていて、税金が安かったことも魅力でした。

LINEも導入するコンサルツール

【田原】佐藤さんはシンガポールで「メタップス」のサービスをリリースします。これはいったい何ですか。

【佐藤】スマートフォンアプリの収益化プラットフォームです。当時、アプリをつくる小さな会社が出始めていましたが、みなさんマネタイズに困っていました。そこでおもしろいアプリをつくれば、お客を集めるところからお金を払ってもらうところまで、面倒くさいところをこちら側でやりますよという仕組みをつくりました。

【田原】アプリ運営会社向けに収益化をコンサルティングするってこと?

【佐藤】それを人工知能を使ったシステムでやりました。うちのシステムを組み込んでもらうと、それだけでお金が落ちてくるようになります。

【田原】それがよくわからない。システムでやるってどういうことですか。

【佐藤】たとえばSDK(Software Development Kit)という仕組みをアプリに組み込んでいただくと、アプリのユーザーがどう動いているのかというデータが私たちのところに送られてきます。それをもとに、どんなユーザーにどんな広告を提供すればいいのかということを人工知能で分析して自動的に振り分けます。

【田原】いわゆるビッグデータで広告を分析するわけですか。

【佐藤】そうですね。世界中でだいたい2億人分の分析をしています。

【田原】これがとてもうまくいったそうですね。お客さんは中小だけじゃなく、たとえばLINEとも一緒に広告の販売をしている。LINEくらい大きな会社だと自分でできそうなものだけど、佐藤さんのところと組むメリットは何だろう?

【佐藤】私たちが世界中で広告主を持っていることが大きいのかも。いま世界に8拠点あって、各拠点は全員現地の外国人。現地の企業と距離が近いので、各地でそれぞれ広告主を抱えています。それが強みですね。

【田原】ただ、新しい会社はそう簡単に信用してもらえないでしょう。メタップスはどうやって広告主の信用を勝ち得たのですか。

【佐藤】実際にお客様を儲けさせることが大切ですが、それ以外のところでいうと、知名度を上げることが大事ですね。世界中でアプリ開発者や広告主向けのカンファレンスが開かれていますが、私たちは必ず出席していました。そうすると「どこの国にいっても、あいつらはいるよね」と評判が立って、有名な企業だと思っていただけるようになる。けっこうきめ細かい努力をしていました。

【田原】佐藤さんは何かの雑誌で、12年にはアジアで1位、13年には世界で1位になるとおっしゃっていた。これは実現しましたか?

【佐藤】この領域では近いところには行けました。ただ、やっているうちに目標は上がっていくので、また違うものを見ています。

【田原】違うものといえば、メタップスは新しく「スパイク」という事業を始めましたね。これもよくわからなかった。どんな事業ですか。

【佐藤】スパイクはインターネット上でのお金の流れをスムーズにする仕組みです。ネット上でのお金のやり取りって、面倒くさいじゃないですか。たとえばお店がカード決済の仕組みを導入しようとすると、審査されて許可が出るまでに1カ月くらいかかるし、設定の手間もかかる。そこをボタン1つで、一瞬でやり取りできる仕組みをつくりました。

【田原】具体的にこれまでの決済システムと何が違うの?

【佐藤】最大の違いは、手数料が無料なことです。インターネットの決済は、お金を送ったり払ったりした瞬間にだいたい3%から5%の手数料を引かれます。粗利10%の業種で手数料を引かれると利益が残らなくなってしまう。これは痛いので小さなお店での導入が進まなかったのですが、無料にすればそれも解消できるだろうと。

【田原】無料にしたら、メタップスは儲かりませんよね?

【佐藤】売り上げの少ないところは無料にするかわりに、月100万円以上の決済があるお客様からは手数料をいただきます。一部の20%の大きな企業が全体の80%の取引を占めるという「パレートの法則」があるように、儲かっているお客様からいただけば、小さなところから取らなくても十分に成り立ちます。実際、100万円以上のお客様はアカウントで全体の20%を切っています。

【田原】なるほど。その仕組みだと、小さなお店がスパイクを使うのはよくわかります。でも、大きなお店にメリットはあるんですか。

【佐藤】手数料はいただきますが、それでも最安値に設定します。それと決済の先が大きい。私たちはもともとアプリのマーケティングで大きくなった会社です。だから、さらに集客をしたいとか、顧客の客単価を上げたいというときに適切なコンサルティングができる。儲かっているお客様にも、そこを期待していただければいいなと。

【田原】実際に反応はどうですか。

【佐藤】とくに営業活動はしていないのですが、やはり安くて、ネット上で申し込めばすぐ使えるということでいまどんどん加盟店が増えています。すでに10万店舗は突破しています。楽天市場の出店数が4万店舗ぐらいですから、なかなかいい数字ではないでしょうか。

田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。若手起業家との対談を収録した『起業のリアル』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

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