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ウィーチャットに見るメッセージアプリの未来

 中国のインターネットサービス大手、騰訊控股(テンセントホールディングス)は2011年、無料でテキストメッセージをやり取りできるスマートフォン(スマホ)向けアプリ「微信(ウィーチャット)」を発表した。それから5年、中国ではウィーチャットの数億人のユーザーが同サービスを使用して友人にお金を贈ったり、靴を買ったり、病院に予約を入れたりしている。

 こうした進化は、増加するスマホユーザーにとって、かつて単なるメッセージ送受信用だったアプリが今やオンライン活動の中心を占め、フェイスブックなどの交流サイト(SNS)まで侵食し始めていることを示している。

 この現象はアジアで最も顕著だが、米国など他の地域でも進行し始めている。配車アプリを手掛ける米ウーバー・テクノロジーズは先月、ウィーチャットと同様のサービスであるフェイスブックの「メッセンジャー」アプリを通じて車を手配できるようにした。アルファベット傘下のグーグルは人工知能(AI)を利用した新しいチャットアプリを開発中だ。一定の時間がたつとメッセージが消える「スナップチャット」はニュース配信機能を組み込んでいる。

 一方、米新興企業スラック・テクノロジーズが開発したチャットアプリは職場のコミュニケーションや共同作業の中心をなすプラットフォームとして使用され、中小企業では電子メールに代わるツールとなっている場合も多い。ベンチャーキャピタル、GGVキャピタルのマネージングパートナー、ジェニー・リー氏は「シリコンバレーではメッセージングほど熱心に調査・検討されている技術はない」と話す。

 メッセージングアプリは使用方法がシンプルで大勢のユーザーが多くの時間を費やしていることから、他のサービスを提供する上で理想的なハブになるとアナリストは指摘する。メッセンジャー以外にも、9億人のユーザーを有する世界最大のチャットベースのサービス「ワッツアップ」アプリを抱えるフェイスブックは、ウィーチャットなど他のアプリを慎重に調査し、同様のエコシステム(生態系)の形成を目指す意向だ。しかし、ウィーチャットの成功をまねるのは簡単ではない。

 コンサルティング会社アクティベートによると、メッセージングアプリに利用登録している人は現在、約25億人に上る。同社はこの数字が2018年までには36億人にまで増えるとみている。これは、世界のインターネット利用人口の90%に相当する。

 中国の主要都市では「ウィーチャット」を使用していないスマホユーザーを見つけるのは難しく、ビジネスの場では名刺よりもウィーチャットのユーザー名を交換することの方が多い。

 ウィーチャットは中国の中流階級の拡大とともに台頭してきた。多くの消費者にとってインターネットを利用するきっかけとなったのがウィーチャットだ。アクティベートによると、中国のテキストメッセージの利用コストは米国の26倍で、ウィーチャットをはじめとするメッセージアプリは当初、そうしたコストを回避しようとするユーザーを取り込んでいた。

 しかし、彼らはすぐに他の分野にも手を広げ始めた。ウィーチャットはサービス開始から間もなく、音声メッセージを送信できるトランシーバーのような機能を追加した。また、仮想のビンを「海」に流し、それを拾ったユーザーとつながることができる「ドリフトボトル」という機能も導入した。

 さらに13年、親会社のテンセントが競合の阿里巴巴集団(アリババ・グループ・ホールディング)の電子決済サービス「支付宝(アリペイ)」に対抗しようとウィーチャットにも電子決済機能を組み込んだ。これを機に、ウィーチャットは配車やレストラン予約など他の企業のサービスの統合に乗り出した。

 中国の電子商取引大手、京東集団(JDドットコム)が運営する通販サイト「京東商城」の沈皓瑜・最高経営責任者(CEO)は、チャットアプリについて「娯楽情報やさまざまな他のサービスの玄関口になる」と話す。テンセントは京東の少数株主で、ウィーチャットのユーザーはアプリを介して京東のサイトで買い物できる。

 ウィーチャットの最も人気の機能の1つは、現金の入った仮想の封筒をユーザー同士でやり取りできる機能だ。中国では旧正月に「紅包(ホンバオ)」と呼ばれる赤い封筒に入れたお年玉を贈る習慣があり、そのオンライン版だ。この機能は14年の旧正月に導入されたが、今では1年を通じて利用されている。

 深センの新興企業に勤めるリン・クイ・ルーさん(27)は最近、近くの店でランチを買ってきてくれた同僚に12元(約220円)入った紅包を贈った。リンさんは週に数回、あるいは友人の誕生日にウィーチャットで紅包を贈っているという。そのほか食事の支払いや映画のチケットの購入、タクシーの手配にもウィーチャットを使用しているという。

 「他のどのアプリよりも頻繁にウィーチャットを使っている」とリンさん。

 メッセージアプリは米国などのテキストメッセージの利用料が安い国ではあまり根付いていない。09年にスタートしたカナダのメッセージアプリ「キック・メッセンジャー」のテッド・リビングストンCEOは「欧米には優れた見本がない」と指摘する。

 キックはサービス開始から2年後、同社のサービスに外部の開発会社がアプリを組み込めるようにした。しかし、ユーザーはそれらアプリをダウンロードせず、開発会社はアプリ作成に興味を失っていった。テンセントは8月、キックのサービス強化に向け5000万ドル出資した。

 フェイスブックもメッセージアプリに力を入れている。14年にワッツアップを220億ドルで買収したほか、スマホでフェイスブックにメッセージを送信する際、メッセンジャーを使用させるようにすることでメッセンジャーの知名度向上を図っている。

 今年3月にはメッセンジャー向けに最適化された写真・動画編集アプリが約40種類になったことを明らかにした。現在、700種類を超えるアプリがメッセンジャーで利用可能だが、ユーザーがアプリ内で確認できるのはそのうちわずか70種類ほどだ。

 米電子決済サービス大手ペイパルの元幹部でメッセンジャーを統括するデービッド・マーカス氏は、企業が顧客に煩わしさを感じさせずにチャットを介して顧客と連絡を保つ方法を調査しているところだと述べた。しかし、多くの米国人は依然、メッセージアプリを友人や家族とリアルタイムでチャットする手段以外に使用することに慣れていない。フェイスブックは、エバーレーンやズーリリーなどのネット通販会社がメッセンジャーをカスタマーサービスに利用することを明らかにしている。また、オランダの航空会社KLMは16年序盤にメッセージアプリを介して予約の確認や搭乗券の受け渡しができるようする計画だ。

 ハイアット・ホテル・グループでは利用客がメッセンジャーを介してタオル交換や掃除を依頼できるようにしている。しかし、ハイアットのデジタル戦略・アクティベーション担当ディレクター、ダン・モリアーティ氏によると、「ハーイ」とだけ書いたメッセージを送り、使い方を試す顧客もいる。そうした行動はウィーチャットなど他のメッセージアプリでは見られないという。

By DEEPA SEETHARAMAN and JURO OSAWA

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