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2016年ネットメディア展望 ウェブ媒体がただの出版社になっていくまで - 山本一郎


 2016年、今年も自分の頭で考えた結果、まだまだ東京で消耗していこうと思っている山本一郎です。皆さま、良い年は迎えられましたでしょうか。この原稿は1月4日、私の43歳の誕生日に書いております。ハッピーバースデーなのになぜこんな辛気臭いものを背中丸めて書いているのでしょう。理由は簡単、この原稿の締め切りは1月3日だったからです。思い出して慌てて書いております。原稿遅れてすみませんBLOGOSの皆さん。

 年初から存分に謝罪をしたところで本題ですが、いうまでもなく、2015年下期から2016年にかけては、動画の年になります。いままでは、コンテンツファームや、バズメディア(バイラルメディア)といった「安かろう悪かろう」なコンテンツをネット上に大量にばら撒いて、SNSや検索で引っかかった人たちや、過激なタイトルで思わずクリックしてしまった物好きを大量に釣り上げてPVあたり幾らの広告料を回収するというモデルが全盛でありましたが、ここにきて、ようやく広告主とメディアと読者の「エンゲージメント」だとか、書かれていることに対して読者が関心を持って読んだかどうかを示す「ビューアビリティ」といった単語が出始め、コンテンツの質に回帰しつつある状況であります。

 この段階で、イケているウェブメディアはプラットフォームビジネスからバイラルメディアへ、さらにイケス型会員サービスへと転換してきたのがウェブメディアの方向性でした。そして、イケス型には月額課金や会員制といったサブスクリプションサービスが付随し、ブランドに釣られて会員がああでもないこうでもないと記事に対して所見を述べるコメント欄で鈴なりになっている状態でした。

 ただこれも、記事の質と採算という意味では微妙な状況に陥ることが予見されます。これは、結局は既存の週刊誌や会員制月刊誌のビジネスと大差ないからです。古くは月刊誌『選択』や『FACTA』、あるいは日経ビジネス、東洋経済、ダイヤモンド、財界展望といった世界がウェブを経てスマホにモデルが最適化されただけで、いくら編集部を構えようと「ネット発のメディアが先発のこれらの媒体にクオリティで上回ることはなかなかむつかしい」ことが背景にあります。たとえば、NewsPicksもご他聞に漏れず編集部を作って質の高い記事を出し始めましたが、依然として話題の源泉は自社発の記事よりも他社や専門家ブログの記事に対するリアクションがメインになっています。要は、他のところからタダで記事や話題を持ってきて、自分のところのコメント欄にイケス入りした有料顧客に感想を書かせるモデルでしかありません。他社からすれば、タイトルだけNewsPicksにもっていかれて、一番最初に見られるのはPickerの糞コメントなのですからフリーライダーにもっていかれたも同然です。

 実は、このモデル自体ははてなブックマークとそう変わりありません。単に、NewsPicksがビジネスマンに特化してそれ方面の読者を最初に集めたからそのように進化しているだけです。同じようなネタは、別にファッションだろうが芸能、スポーツあらゆる方面に利活用しようと思えばできる、非常にインスタントな仕組みでしかありません。当然のことながら、横綱級のプラットフォームであるヤフーやLINEあたりが乗っかり始めると、数多の専門メディアと同じく細々とやっていくだけの存在になってしまう怖れもありましょう。ここには、レ点商法など若干イカサマ臭いやり方で急伸してきたキャリア系のコンテンツ配信サービスが具体的な会員数を引っ提げて登場してきて、dマガジン(ドコモ)やスマートパス(au)といった月額いくらのサブスクリプションを携帯電話の請求に添えて出すという超絶有利な地形から攻めてくるわけでして、これはなかなか抜き差しならない事態に他なりません。

 これらは、一時期隆盛を誇ったニュース系アプリ、キュレーターサービスにも言えます。とにかくダウンロード数を水増ししてでも盛りまくり、その顧客属性に関心を持ちそうな企業にタイアップ広告を一個でも10万でも多く売って採算を取るだけのメディアです。雑誌業界の末期もほぼ同じような展開であったことは言うまでもありませんが、伸び悩むニュース系アプリのダウンロードを糊塗して成長軌道に乗せたいと考える各社は必死に自転車を漕ぐようにして営業をし続けなければなりません。すでにこの方面の成長期待は剥げ落ち、どのように事業としてピボットするのか、またネット系コンテンツの波に乗るためにどんな企画を仕掛けるのかというのはこれからの作業になります。

 そして、いま起きている波は、文字通り動画を使ったメディア展開であります。本当は一昨年ぐらいからくるんじゃないかと思っていたんですが、予想より2年程遅れて伸びてきたなあといった感じであります。もはや、先駆者であったように見えたドワンゴのニコニコ動画もこの波に利用者の「卒業」とキラーコンテンツのブーム終了と共に消えていく運命にある一方、テレビ局系の各種ネット放送サービスにWOWOWなどがセットで出てきてユーザー獲得のレッドオーシャンに突入しています。LINEもいつの間にかLINE LIVEを始め、NetFlix、Hulu(日本テレビ系)、FOD(フジテレビオンデマンド)といったネットメディアの勝負が単発10億単位の世界に突入しました。そして、これらの一部はテキスト系ウェブメディアとのオルタナティブ、相互効果でお客様を囲い込もうとし、また規制産業と巨大な設備産業のあいの子でもあるテレビ局、あるいは系列局、さらには映画会社、そして巨額な製作資金を提供するコンテンツファンドといった世界がどんどん組み合わさってくるわけであります。ネットメディアも、動画の世界になってようやくビッグプレイヤーが単に広告宣伝やマーケティングとしてではなく、回収するモデルのひとつとして組み込まれる状態になった、というのが2015年から続くネットメディアの変革の推移ではないかと思います。

 そして、利用者にとってはアーカイブにしたり後で視聴しても話題遅れにならない限り劣化しないコンテンツはかなりのバラエティリティがネット経由で提供されるようになる一方、より臨場感のある、ユーザー体験やユーザー同士の共有体験を得られるタイプのコンテンツの価値はどんどん上がっていきます。クラスターは細分化され、ユーザーはより主体的に選択された興味対象にだけ、お金を支払うという明確な動きを見せてきたのが、2016年は一層拍車をかける形で進んでいくのでしょう。それは、ハンパなコンテンツを提供するだけの質の低い事業者にとっては悪夢であり、またCGMやSNSに依存しすぎたサービスは畳んだり身売りしたりするタイミングを考えるべき時期に差し掛かっているとも言えます。逆に、体験を生み出し、話題をクラスターの中で共有できる、フロス(小さい小さい泡)のような市場から、時間単価あたりで高額の売上を上げられる仕組みを作った事業者が、2017年以降、次のゲームの参加できる切符を手にするのは間違いありません。

 それは、ゲーム動画や国内・海外旅行、釣りやゴルフなどのスポーツ、マラソンにトライアスロン、自転車、Xsportsといった、高額の趣味に見合う体験の提供であり、そこにハマっている人々の熱量を汲み上げひとつのメディアとして吸収していく、そして次の体験に対する期待値を高めてそこにお金を払ってもらう、メディアを通じてより良い人生を送ってもらうためのツールとしてもらうといった世界観になるのでしょう。逆に言えば、期待値の低いメディアは質が低いものを大量に扱う安かろう悪かろうのレベルのままで滞留するのであって、それはレッドオーシャンの果てに消耗したあとは大手資本のニュースアプリの物量の前に消えていくことになるのではないかと思っております。

 その意味では、ウェブメディアの関心事は「人」、ひいては「生き様」に収斂していくのでしょう。人の持つ世界観や生き様に読者の関心が集まり、また体験を共有するためにどういうストーリーを持ち、どんな人がおり、どんな顔つきであり、言葉を交わすのか… といった、スマホの小さい画面の向こうにある人の肌触りが勝負であるということです。人に対する関心が持たれない書き手は沈没するでしょうし、内輪の中で蛸壺化することを目指すメディアは伸び悩みます。2014年ごろからはっきりとテレビの復権が見られ、スマホとテレビを行き来する人たちがどこにお金を払うのか、何に時間を使うのかを観察してみれば、その先に見えるコンテンツの質への回帰、お金が払われるコンテンツの特徴とが分かるようになります。もはや、読者からお金の取れないコンテンツは悪だと言い切れてしまうぐらいに、ネット的な広告モデルではないコンテンツの流通の仕組みを作れた事業者がしばらくは優位に立つことに他なりません。

 それらの、有料コンテンツや動画コンテンツの扇の要になるのは結局はテキストであり、ユーザーの興味を惹かせるためのテクニックであり、売るためのノウハウであったりもします。この辺は、ネットにメディア事業というものが具体的に出てきた1997年ぐらい以降、ほとんど変わりはありません。関心を寄せてもらうための仕掛けは、人の顔をしていて、分かりやすいことが求められます。私のような書き手としても、生き残るためには変化を受け入れて、自らを作り変え続けなければなりません。人として何を伝え、どんな価値を感じてもらうのかは、時代によって変わりますし、それはBLOGOSの書き手の入れ替わりや読まれる記事の動きを見ても肌で感じるところです。結局、みんな必死なんですよ。そのなかで、一番考えて変われた奴が勝つ、という教科書どおりの一年になるのだろうと思います。

 そういうわけで、私もBLOGOSも皆さんも、良い試行錯誤の一年でありますように。

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