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新聞はいつまでも「インテリが作ってヤクザが売るもの」でいいのか?-『小説 新聞社販売局』幸田泉氏インタビュー

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BLOGOS編集部
新聞販売の問題を赤裸々に描いた作品「小説 新聞社販売局」が、業界を中心に静かな話題となっている。小説の形態をとっているが、新聞社が販売店に必要以上の新聞購入を強制する、いわゆる「押し紙」をめぐる販売店主と新聞社社員の攻防や公称部数の水増しの実態などを生々しく描写している。作者であり、全国紙の元社会部記者の幸田泉氏に、現在の新聞社を取り巻く問題について話を聞いた。【取材・文:永田 正行(BLOGOS編集部)】

社員が数百万円の新聞代金を立て替えるケースも・・・

—はじめに執筆の動機を教えてください。

幸田泉氏(以下、幸田):私は元々ある新聞社の記者だったのですが、退社する直前の2年間は販売局にいました。いわゆる「押し紙」 の問題に代表されるように販売現場が苦境に陥っていることは、元々ある程度わかっていたのですが、実際の現場は想像以上だったのです。

これまでもジャーナリストや販売店の関係者が、「押し紙」問題についての本を出版したことがあったのですが、それらは言わば「新聞社が下請けをイジメているという構図の中で描かれたノンフィクションでした。

しかし、一方で「押し紙」をしている分、新聞社は販売補助金を出して販売店を支えているのです。そのため「押し紙」が増えれば、補助金もドンドン膨らみ、新聞社の経営に跳ね返ってくる。新聞社が自分で自分の首を絞めることになっているにも関わらず、なぜこの「押し紙」政策をやめられないのか。こうした構造から抜け出せないから、業界が右肩下がりになっているのではないか。

しかも、新聞社は「押し紙」の存在を絶対に認めません。社内では会話の中でも「押し紙」という言葉すら使わず、残紙や予備紙という言葉に置き換えています。こんな暗部を抱えて、新聞の将来が本当にどうなっていくのか、という販売の現場で感じた疑問を世の中に問うてみたかったのです。

—「押し紙については知っている読者も多いと思います。しかし、今回の作品では、「残紙」「実配」といった用語が飛び交う現場の様子や、販売店から新聞代金の入金がなかった場合に販売員が「立替」を行うといったエピソードも描かれています。

幸田:売れていない新聞が販売店に残っているということは、ある程度、記者の時から自覚していました。ただ、それは販売店しか知らないことで、本社は把握していない、いわば「販売店が勝手にやっていること」だと想像していたのです。

しかし実際、販売局内に行くと、そうした実態をしっかりと把握している。「実配」と言って、実際に読者のいる新聞が販売店に出荷している部数の何%なのか、という部分まで知っているわけです。「どれぐらい『押し紙』をするか」ということは、新聞社の販売方針で決められているのだと感じました。つまり、新聞社側が絵を描いて、「あなたのところは、これぐらいの部数を抱えてくださいね」と全体の部数を調整しているという構図があるのです。

これは実際に取材に行って驚いたのですが、表彰されるぐらい優秀な販売店なのに読者に配達されない「残紙」が3割もある。優秀な販売店でも、これだけの「残紙」があるということは、ある程度構造的に考えられて、販売施策が出来ているんだと思いました。

-販売店に出荷した部数を売り切らなくても、新聞社としては利益が出る構造になっているということですね。

幸田:例えば、1000部の部数がある販売店であれば、「実配(実際に読者のもとに届く部数)が何部であろうと1000部分の新聞原価代を本社に支払います。それによって新聞社側はキチッと売り上げが立つ。

しかし、「押し紙」の分量が多すぎると販売店は全然儲かりません。「必要経費も出ないし、販売店主の取り分もない」となればやっていけないので、そういう販売店の経営を見ながら、「この店には補助金をいくら支払おうか」ということを考える。これを今回の作品の主人公になっている新聞社の担当員がやるわけです。

—作中では、販売店からの新聞代金の入金が滞った場合に、新聞社の販売局員が100万円単位の金額を立て替えているというような描写もあります。もはやブラック企業とも呼べる話だと思うのですが、こういったことも実際にあるのでしょうか。

幸田:私も販売に異動になってから「立替」の話を初めて知って、とても驚きました。

立替はルールに則って行われているわけではないので、実際どれぐらいの金額を立て替えているかはケースバイケースです。しかし、「販売店の入金の『立替』が原因で借金がある とか「○○さんが百万円単位の立替をさせられたらしい」といった話を聞いて、それがサラリーマンの仕事なのかとびっくりしました。更に問題なのは、担当員の立替は表向き禁止されているので、回収できなかった場合、会社に弁済を求めることもできず、入金の「肩代わり」になってしまうのです。

また、私が最初に「立替」問題を知ったのは、社員のお金がらみの不祥事がきっかけでした。金銭の使い込みや流用の話をいくつも聞きましたが、度々、そういう不祥事を起こした社員が、まだ社内で働いていたりするのです。他の部署の社員だったらすぐにクビになりそうな問題を起こしておいて、なぜ会社に残れるのかとても不思議でした。

そして、その理由を調べていくと、「確かに販売店のお金の使い込みをしたけど、理由は入金が足りない分の穴埋めだった」「以前に立て替えた金を回収した」 という言い訳とセットになっているのです。 不良担当員が私的に使ったケースもあると思いますが、「立替」うんぬんの話を持ち出されると、会社としてもきちんと処罰できないのです。

つまり、よくわからない不正を許している背景には、「立替」は禁止のはずなのに、入金が悪くなると担当員は上司から「なんとかしろ!」と言われて「立替」に追い込まれるという現状があるわけです。

—アメリカと比較して、日本の新聞社のデジタル移行が遅れている要因に、日本独自の販売店制度が挙げられます。

幸田:的確な指摘だと思います。紙媒体を残さない限り、販売店は維持できない。となれば、販売店を潰してデジタル化していくということは難しい。実験として、どこか限定的なエリアでやってみるということは考えられるかもしれませんが、販売網とセットになって、業界自体が発展してきた歴史があるので、ハードルはかなり高いと思います。

経営陣が「紙の部数はある程度切りながら、ネットに移していこう」としても必ず販売サイドから猛反発が起こるでしょう。また、新聞社には広告収入や不動産収入など様々な収入があるもものの、販売収入がかなり大きいので、そこに手をつけると会社の売上も落ち込むことになり、恐くてなかなか手がつけられないという状況です。

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