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憲法改正の国会発議は、“全会一致”が原則 - 南部義典

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

一強多弱のまま、2016年へ

 12月に入って、国会では新しい会派が誕生したり、議員の会派異動がありました。きょう現在の勢力は、図のとおりです(会派の名称は略記)。一強多弱ぶりは、一目りょう然です。
 

 年明け、1月4日には、通常国会が召集されます。安倍内閣は、野党による臨時国会召集要求(10月、11月の二回)を無視するという、重大かつ明白な憲法違反(62条)を犯したわけですから、野党は召集後ただちに、「安倍内閣不信任決議案」「安倍内閣総理大臣問責決議案」を衆院、参院それぞれに提出してほしいところです。・・・しかしながら、来年度の予算案の審議を控えているばかりか、民法が規定する女性の6カ月再婚禁止期間を「違憲」と断じた最高裁判決について、必要な法改正を速やかに行う必要があることから、政治空白を早々に作ることは妥当ではありません。ここは、安倍内閣に対する怒りをグッとこらえつつ、野党は予算委員会での追及や、質問主意書を通じての“反省答弁”を引き出すなどして、しっかりとけじめを付けてもらいたいと思います。

憲法改正に賭ける、四氏の心象風景は

 
 さて、本題です。19日夜のことですが、安倍総理、菅官房長官、橋下前大阪市長、松井大阪府知事の四氏が都内で会食し、憲法改正など、懸案の政治案件について議論が交わされました。複数メディアの記事を読みましたが、憲法第8章(地方自治)の改正に関して、何らかの心合わせがなされたことは間違いないでしょう。

 ここからは想像ですが、参議院議員の通常選挙(同日に、衆議院議員の総選挙?)が終わった後、与党の背中を押すかたちで、おおさか維新の会が史上初めてとなる憲法改正の発議を試みる、という展開が私の脳裏を過ぎります。衆参同日選挙でも何でもやって、憲法改正の国会発議に必要な、「総議員の3分の2以上」を何としても確保しよう――これが、憲法改正に賭ける、四氏の心象風景ではないかと思うわけです。
 
 四氏の心合わせに対抗する意味で、私たち国民の側もいま一度、憲法改正論議の進め方に関して、イメージを共有しておく必要があると思います。

憲法改正の国会発議は、“全会一致”が原則

 私の持論ですが、進め方のイメージというのは憲法改正の国会発議は、政治的には“全会一致”が原則であり、終始“多人多脚走”で議論する必要があるということです。憲法上の要件となっている「3分の2以上の賛成」は、全党・全会派による合意形成を踏んだ結果、若干の反対が生じた場合を許容しているにすぎません。憲法改正には必ず、これを承認するかどうかの国民投票が予定されるところ、政党イメージに惑わされることなく、国民が主権者として純粋に判断するためには、全会一致で国会発議を行って、一切の政党色を抜く(顔が見えないようにする)しかありません。この意味で、憲法改正を国政選挙の争点にすることには、私は反対です。
 
 全政党、全会派の憲法観、立憲主義理解が一致した状態で議論のスタートラインに立っていなければ、「3分の2以上の賛成」を得ることは、結果として非常に困難です。たとえば参議院では、定数242名のうち162名の賛成があって憲法改正案が可決されますが、現状では与党とおおさか維新の議員数を足しても遠く及ばず、民主党その他の野党会派の意見を無視して議論を進めていくことはできません。参議院には現在、12の会派があるわけですから、まずは12人13脚走を始めるところから、心合わせがなければなりません。

 来年の参議院選挙では、比例区定数は半数改選の48名となっていますが、現在の制度で理解する限り、与党とおおさか維新だけでその3分の2超にあたる36名以上の当選を果たすことは、国民の間でよほど憲法改正発議の熱烈なムーブメントが起きない限り、不可能な想定です。

自民党の“やるやる詐欺”はいつまで続くのか

 衆参でそれぞれ、憲法改正の発議に向けた多人多脚走が始められるかといえば、現状、まったくそうなっていないことを指摘しておかなければなりません。自民党は、憲法改正論議に熱心であると公言しながらも、内閣は今秋、臨時国会の召集を見送って、両院の憲法審査会における議論の機会を潰しました。自民党は1955年、自主憲法の制定を党是として誕生しましたが、60年間、憲法改正の“やるやる詐欺”を続けてきています。臨時国会を召集せず、憲法改正論議の機会を作らないこと自体、党の方針と明らかに矛盾しています。この矛盾について、自民党は何ら説明ができていないのではないでしょうか。憲法改正を実現しようと、自民党を熱心に応援している方々は、この点についてなぜ怒りの声を挙げず、大人しくしているのか(“やるやる詐欺”に引っ掛かってしまうのか)、私はどうしても理解することができません。

 衆議院の憲法審査会に目を向ければ、安全保障二法案の審議の転機ともなった6月4日の参考人質疑以来、実質的な議論が止まったままです。参議院も、衆議院のあおりを受けて、活動ができないでいます。反対意見を出されるのが恐い、面倒くさいということでしょうが、将来、仮に憲法改正発議がなされた場合であっても当然、反対意見は各方面から出てくることは容易に想像できます。自民党はそれでも、反対意見が出てくれば、その都度、継続した議論をほとぼりが冷めるまで休止するという方針なのでしょうか。ある意味、多人多脚走のスタートラインに立つことに、もっとも怯えているのが自民党ではないでしょうか。

まだ、18歳国民投票権が実現していない

 さらに、国民の側で心合わせをしておいたほうがいい論点があります。
 それは、仮に国民投票が行われるとしても、現在の法律では、投票を行うことができる者の年齢(投票権年齢)は、「満20歳以上の者」となったままであり、18歳以上に引き下げるための法改正を早期に実現する必要があるということです。周知のとおり、選挙権年齢は、来年6月19日以降の国政選挙から18歳以上に引き下げられますが、投票権年齢は2018年6月20日までは20歳以上、2018年6月21日以降が18歳以上という扱いなのです。つまり、2016年6月19日から2018年6月20日までは、同じ参政権でありながら、観念的には選挙権年齢が18歳以上、投票権年齢が20歳以上と食い違ってしまいます。法律的に国民投票が実施できないわけではありませんが、選挙において18歳で資格を得るのに、国民投票では20歳でなければダメというのは、国民が納得する筈がなく、そんな中で国民投票を実施するなどありえないでしょう。18歳投票権が実現していないうちに、全政党、全会派が憲法改正論議のスタートラインに立つことは、私にはまったく想像できません。

 四氏会談に煽られて、すぐに憲法改正の「中身」の議論に入ろうとするのは早計です。重要なのは、「過程」であり「手続」です。一時くすぶった96条改正論(発議要件引下げ論)が再燃することはないでしょうが、今後は全会一致原則を強調し、立憲主義を不安定にする議論に、より強く、歯止めをかけていこうと考えています。

 2015年もあと一週間になりました。読者の皆さまにおかれましては、どうぞ、よいお年をお迎えください。来年もよろしくお願いいたします。

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