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新日本有限責任監査法人への処分の妥当性

久しぶりのブログ更新である。

ブログの読者だった方には本当に申し訳ないと思うが,ブログを5月に書いて以来,暫く多忙でブログ記事を書くことができなかった。

半年前に書いた東芝担当に監査法人に関する記事につき,その後がだいぶ追及が進んできたので,半年ぶりにブログを更新するにあたり,今回は新日本有限責任監査法人に対する金融庁の処分の妥当性についての記事を書いてみようと思う。

なお,既に弁護士の郷原先生がこの問題について所見を述べられており,私も郷原先生のご意見には概ね同意するものの,若干,記事の流れから,コンプライアンスの第一人者である自分を関与させれば良かった的な先生自身の売り込みに読めてしまう点に読者としては違和感を感じてしまったことから,違う視点で今回の問題を取り上げてみようと思う。

1.当初は甘い処分との報道が流れていた

金融庁をはじめとする規制当局は,当初,東芝や東芝の監査を担当していた新日本有限責任監査法人(以下「新日本」という)に対して責任を追及するつもりはあまりなかったように思われる。

しかしながら,内部告発等々により,東芝のあまりにも悪質な粉飾決算の実態が明らかになるにつれ,世論は東芝及びその監査を担当していた新日本に対して極めて厳しい眼差しを送ることになった。

そして,既に報じられているとおり,規制当局は現在東芝の旧経営陣等々に対する刑事事件での立件に向け検討に入っている。

監査法人については,一連の報道を見ていると,金融庁は当初は第三者委員会の報告書などから,会社が虚偽の情報を提供したのを見破るのは困難だったというような,いわば,士業の内輪の論理に立脚し,新日本に対してもさほど厳しくない「業務改善命令」が出る程度だろうという論調が多かったように思われる。

しかしながら,そのような甘い処分に留めることができなくなった背景にはいくつかの要因があると考えている。

まず,世論は当初から消極的な規制当局に対し批判的であったことが挙げられる。

ライブドア事件では50億の粉飾で刑事事件となり,堀江らは実刑に処せられた。多くの一般人は,東芝はそれをはるかに超える2248億円の粉飾であるにもかかわらず,刑事事件がやっと検討されるに過ぎない状況について,証券等監視委員会をはじめとする規制当局に対して強い不信感を持ち続けてきている。

当然,その犯行の悪質性というのも考慮されるべきであるが,東芝の旧経営陣らの行為は一連の報道を見ていると,市場を騙す意図で数々の粉飾行為を継続的に行ってきたことは明らかなのであって,これが刑事事件化されないことは,通常人の合理的な思考からは理解できないというべきであろう。

そして,通常人の合理的な思考からすれば,2000億を超える粉飾額を見抜けなかった士業たる監査法人に対しては,「専門家としてどんな仕事をしているんだ」,「こんなの見抜けなかったら会計士なんて不要」という意見が出てくるのは当然なのであって,新日本に対しては,その職務遂行のあり方に対して,当然根深い不信感と批判が向けられることになった。

この点,私も以前のブログ記事で指摘したが,東芝の監査では,業務執行社員として,新日本の品質管理部長が関与していたのある。

つまり,最も職業的懐疑心をもって他の監査チームを指導する立場にあった人物が関与していたにもかかわらず,2000億を超える粉飾を数年にわたって漫然と(故意なのか過失なのかは別として)見過ごしてきたと言ってもよいだろう。

こうした世間の厳しい視線は,金融庁も無視できなかったと思われる。

また,7月には金融庁は検査局担当の審議官,兼,公認会計士・監査審査会の事務局長に天谷知子氏を起用した。このことも,会計士の内輪の論理でナアナアな処分をできなかった要因であろう。

天谷氏については,監査法人に対して厳しい姿勢を持っているという噂は他の方も述べられているところである。

現に,今回の報道では,審査会のメンバーをある意味差し置いて,事務局長である天谷氏の発言が前面にでている。

例えば,次のような報道を見ると,天谷氏がいかに公認会計士という専門職に対し,その自覚をきちんと持つように規制当局の責任者として強い発信をしているかが顕れているといえるのではなかろうか。

新日本監査法人勧告 繰り返す甘い監査に「自浄能力欠如」 毎日新聞


2.金融庁が考えている処分は妥当なのか

もっとも,新日本への主な指摘事項を見ると,天谷氏が厳しい姿勢の持ち主か否かに関わらず,新日本の会計士は,根本的に士業としての資質を欠如しているというべきではなかろうか。

弁護士であれ,会計士であれ,士業は,専門職として,その高度な知識や経験という目に見えない価値を提供する職業である。

そのような士業にとって,上記指摘は,その資質がないという烙印を押されているに他ならない

特に会計士は,独立した立場での職務執行が強く求められている職業である。

にもかかわらず,「会社側の見積もりや計画をうのみにし、分析が不十分」,「会計に虚偽の疑いがある場合でも、証拠収集が不徹底」,「経営者が不正に関与している可能性の検討が不十分」などというのは,極めて稚拙なことで指摘されているというべきであろう。

このような流れの中で,現在,金融庁は,①業務改善命令,②課徴金20億円~30億円,③業務の一部停止命令を併せて行うことを検討しているという。

果たしてこの処分は,新日本の負うべき職責に比して,十分に重い処分といえるのであろうか

まず,課徴金については初適用ということで騒がれている。

確かに初適用ということで,インパクトはある。また,監査法人というのは,あまり利益を内部留保せず,利益はパートナーと呼ばれる人たちを中心に配分される傾向にあるから,20~30億円という課徴金は十分重たいという声も聞こえてくる。

しかしながら,果たして本当にそうなのであろうか。

というのも,士業は弁護士もそうであるが,保険に入っているのが通常である。

まして,大手監査法人で,アーンスト・アンド・ヤング(EY)というグローバルのアカウンティングファームに所属しているのであるから,当然に,このような事態に備えて損害賠償保険等に加入しているのが当然の義務となっていると考えられる

そうであるとすれば,20~30億円の課徴金は痛くも痒くもないのではなかろうか。

そうすると課徴金そのものはさほど重い処分とは言えない。

そこで,もっとも,重い処分といえるのが,業務停止命令であろう。

既に報道されているとおり,新日本は監査クライアントの規模で言えば,国内最大の監査法人であるから,いわゆる,業務停止命令を食らってしまえば,監査難民が出て,市場が混乱するというのはよく言われている話である。

実際にそのような混乱の懸念はあるため,金融庁も,そこまでは考えておらず,業務の一部停止命令を検討しているようである。

この「一部」というのは,いわゆる,新規受注の禁止というものである。

具体的な内容については,①監査業務に限るのか否か,②期間は3月とするのか6月とすべきなのかという検討がなされているようである。

この点,新日本の指摘事項からすれば,これはそもそも,士業として,専門職としての根本的な素養に問題点がついているのであって,過去の指摘事項が全く改善されていないというのであれば,法人全体の姿勢と仕組みの問題なのであるから,監査業務に限定せず,当法人のあらゆるサービス提供業務をこの機に見直すべきなのであって,監査業務に限定する理由はないというべきである。

また,期間についても,指摘事項が極めて根本的な点において不十分とされていることからすれば,6月程度の長期の処分が妥当ではなかろうか。

いやしくも,士業として,専門職として,高度の倫理観と職業意識をもって職務に当たらないといけない会計士等を抱える監査法人なのであるから,それに反した場合には,通常の企業よりも厳しい処分を持って対処するのが妥当である。

むしろ,そのような厳しい自己批判がなければ,専門職に対する社会的責任や社会の期待に応えているとは言えないのではなかろうか。

3.それでも危機意識のない一部の新日本の会計士達

このような事態を受けて,新日本の英理事長は辞任することになったという。もしかしたら,郷原先生の「トップの無為無策によって窮地に追い込まれた新日本監査法人」という批判がある種の一押しになったのかもしれない。

しかしながら,郷原先生の指摘とはこの点については違った見方としていおり,私は,必ずしも新日本の問題はトップの問題ではないと考えている。

むしろ,東芝の監査の問題は,現在の英理事長が就任する前から脈々と継続してきた問題だったのであって,トップが責任を取れば済むという安易な問題ではないと考えるのが論理的である。

私の知り合いなどには新日本の会計士も複数おり,東芝の問題が出て以降,彼らと話す機会があったが,その会話の中で私は多々驚くことがあった。

彼らは東芝の事件が今年の3月頃に報道され始めた頃から,「どうせあんなのは大したことないよ」といった発言があり,その額が巨大な粉飾額になることが次第に明らかになっても,「会計士では会社が嘘をついたらもう見抜けない」などとあからさまに職務放棄と言えるような発言を平然と言っていた。

更に唖然とするのは,なぜ会計士では見抜けないのかと聞くと,「会社が嘘をつくとは思っていない」とか,「会社の出された資料を見ているから見抜けるはずがない」とか,さらには「10億円程度の報酬だったら,そこまでやっている人員等のリソースがない」などというのである。

しまいには,「監査というのは,性善説に立って,これだけチェックしたからおかしなことはないという書類の作成業務だ」などという声もあった。

私は彼らのこうした発言を聞くたびに,「おいおい。会計士の仕事って何なんだよ。」と思ったものである。

これは職業的懐疑心という以前のレベルの問題だろう。

私の知り合いの会計士がすべてとは言わないが,少なくともこのような発言が複数名からあったのは誠に残念であった。

さらに,東芝の第三者委員会のレポートが公表された7月頃に,私がある会計士に,「新日本も相当の処分が下るだろうね。業務の一部停止は既定路線なんじゃないか。いくら見抜けなかったといっても,一般人の感覚からは到底受け入れられない話だろう」といったところ,「いやー,所詮あったとしても,業務改善命令程度だよ。監査チームはある意味騙されて被害者なんだから。」などと極めて呑気な発言をしていた。

このような発言をみるに,今回の東芝の問題は氷山の一角に過ぎないのであって,会計士の職業的倫理の根本的な姿勢に関わる問題というべきであり,その闇はより根深いものがある

おそらく,審査会も,こうした会計士の会計士による会計士のための論理を検査を通じて如実に感じ取ったのではなかろうか。

そして,金融庁も,そのような論理が昔は通用していても,透明化を求めるグローバルな現代の市場では一切受け入れられないという強い姿勢を示し,インパクトのある処分をある程度は課さないといけない

仮に金融庁がこのような論理を許すのであれば,第二の東芝事件はすぐに起こるといえよう。まさに今日本の金融市場を所管する金融庁の職責が問われているのである。

さて,今回もこのテーマに関連しぜひ次の映画を見てもらいたい。

それはエンロン事件を描いたアメリカの映画である。

この映画の中で描かれているエンロン社の会計監査人であったアーサーアンダーセンの会計士たちの姿は,まさに,「会社側の見積もりや計画をうのみにし、分析が不十分」との指摘をされた新日本の会計士にも当てはまるのではないだろうか

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