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マンガは「学習」に役に立つか? 「マンガは娯楽」のレッテルに立ち向かうプロジェクト

「マンガばかり読んでいないで勉強しなさい」。

幼い頃、親や教師からそんな風に怒られたことがある人は多いのではないか。マンガは娯楽性が高く、趣味のもの、もしくは暇つぶしのもの、子どもが読むものといった認識が一昔前までは常識だったように思う。

しかし、最近では漫画に対する認識が変わり始めている。カルチュア・コンビニエンス・クラブが2013年に実施した調査(「マンガに関するアンケート調査」16~69 歳の男女 1252人)では、81.7%が「マンガを読んだことで人生にプラスの影響を受けた」と回答。世代、性別ごとに見てもほぼ偏りがなく、日本人のマンガに対する思い入れや親しみが調査結果からうかがえる。さらに、50代〜60代の男性でも、0.7%が毎日1冊以上、6.6%が週1〜3冊程度、9.3%が毎月2〜3冊程度、11.3%が毎月1冊程度のマンガを読んでいることがわかっている。

もはやマンガは「子どもが読むもの」ではなく、市民権を獲得した日本文化として定着していると言っても過言ではないだろう。幼い頃からマンガに慣れ親しんだ世代のなかには、マンガを“娯楽”としてだけではなく、一つの“教養”として捉える向きもある。

日本財団
そんななか、日本財団が展開しているあるプロジェクトに注目が集まっている。マンガの持つ「楽しさ」「分かりやすさ」「共感力」に着目し、社会をより良いものにしていくことを目的とした「これも学習マンガだ! 〜世界発見プロジェクト〜」である。2015年度にスタートした同プロジェクトでは、トキワ荘プロジェクトディレクターの菊池健氏や、編集者として『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などを手がけた佐渡島庸平氏、明治大学国際日本学部教授の藤本由香里氏などといったメンバーを選考委員に招集。新しい世界を発見し、学びにつながるマンガ100冊を選出して、情報発信や啓発活動などを行っている。

『風の谷のナウシカ』、『寄生獣』なども…「学習マンガ」の概念を広げる取り組み


普通、「学習マンガ」といったら、日本の歴史や世界の歴史、人物伝などを扱った“教育”を目的とする作品のことを指す。同プロジェクトでは「これも」の「も」を強調することによって学習マンガの概念を広げ、「楽しみながら学ぶこと」をテーマに選書している。

実際に選ばれた100冊の中には、『風の谷のナウシカ』(宮崎駿)、『寄生獣』(岩明均)、『3 月のライオン』(羽海野チカ)といった従来の学習マンガの枠には収まり切らない作品も多数ある。「社会」「職業」「歴史」「戦争」「生活」「スポーツ」など11ジャンルにわけて選定されており、「多様性」のジャンルには聴覚障害を扱った『聲の形』(大今良時)、同性愛がテーマの『ニューヨーク・ニューヨーク』(白泉社)も選出されている。

同プロジェクトに携わっている日本財団の青柳光昌氏は、「マンガは敷居が低く、子どもから大人まで楽しめる。エンタテインメント性に優れているうえに、社会や職業、歴史などをしっかり扱った作品も多い」と話す。「視覚に訴えるメディアなので、イメージが湧きやすく、作品の中に入っていきやすい。そうした漫画の特性を生かせば、学習への興味やモチベーションを高めるきっかけになる」と学習マンガの効果について説明する。

筆者自身も、マンガから多くを学んだ一人である。例えば、同プロジェクトでも選出されている『お~い! 竜馬』(武田鉄矢、小山ゆう)を読んだことがきっかけで、日本史に興味を持つことができた(おかげで大学受験の日本史では、幕末期の問題を間違うことはほとんどなかった)。もちろん、『お~い! 竜馬』は従来の意味での「学習マンガ」ではないため、「坂本龍馬と岡田以蔵が幼馴染」といった作品を盛り上げるために演出されたエピソードも多い。しかし、「まずは学習の入り口に立ってもらうことが重要。そこから興味を持って、本当の史実を遡ってもらえばいい」というのが青柳氏のスタンスだ。

全国の図書館関係者からの問い合わせが50件以上!


筆者にはそうした実体験があるため、学習マンガの概念を広げようとする同プロジェクトの趣旨には大いに賛成するし、共感もする。しかし当然、本来は娯楽作品であるはずのマンガに対し、あえて「学習」の意味づけをすることに違和感がある人もいるだろう。

ただ、筆者が『お~い! 竜馬』で学んだことは、なにも日本史の知識だけではない。国の将来を憂い、命をかけて戦った幕末の志士たち、そして坂本龍馬という未来を見据える大きなビジョンを持った人物の生き様を通して多くのことを学び、後の人生に大きな影響を与えてもらった。情熱を持って学び、生きることの大切さを教えてくれたのだ。

勉強が好きではなかった少年にとって、敷居が低く、視覚に訴えかけてくるマンガは、学習の入り口として最高の教材だった。そうした効果がマンガにはあると確信している。

同プロジェクトを発表した後、全国の図書館関係者から50件以上の問い合わせがあったそうだ。図書館関係者もマンガの持つ“学習効果”には気づいてはいるが、娯楽というレッテルがあるため、特設コーナーを設けるなどの取り組みが積極的にできないという側面もあるという。しかし、同プロジェクトがある種の“説得材料”となり、「これも学習マンガだ」というプレゼンテーション、普及がしやすくなったのではないだろうか。

今後は、一般読者からの公募を行い、選定マンガを増やしていく計画もあるという。マンガの持つ可能性について議論を深める契機になれば、一読者としてうれしい限りだ。

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