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「被災地への『善意』を適格に機能させる――」震災がつなぐ全国ネットワークが常総市で果たした役割

現地の要望と全国からの支援をマッチングさせる

2015年9月に発生した関東・東北豪雨災害。鬼怒川の堤防が決壊し、甚大な被害が出た茨城県常総市の災害現場(撮影は10月末)
「そもそも支援とは、被災された方々が必要としていることに対して始まるものです。しかし、実際には支援する側が『これが必要だろう』と思ったことを一方的に持ち込んでしまうケースも少なくありません。そうならないように私たちは住民に一番近いところで活動しながら、できることをできる範囲でやっていく。そして最後の一人まで、『支援が届きにくい人たちにも必ず届けるんだ』という思いを大事にして活動しています」

災害時に求められる支援にはさまざまな形がある。

炊き出し、物資の支援、現場の片付け、義援金。どれも災害からの復旧・復興には欠かせない大切な支援だ。

しかし、実際の災害現場では、そうした「善意」がいつも効率的に機能するとは限らない。現地の要望と全国からの支援がマッチせず、せっかくの支援が有効に行き渡らないケースもあるのだ。

全国からの支援をより有効なものとするには、現地の情報をもとに求められる支援の内容を把握し、全体を見通した上で現場に即した対応をしていくことが必要だ。このような役割を得意としているのが阪神大震災を機に誕生したNPO「震災がつなぐ全国ネットワーク」(以下、「震つな」)だ。

「震つな」は災害が発生すると、北海道から九州までの28団体、24の個人会員と連携し、災害現場に経験豊富な人材を派遣していち早く情報収集。各NPO団体や個人ボランティア、行政とをつなぐコーディネーター的な役割を担っている。

「震つな」は2011年3月に発生した東日本大震災はもちろん、2015年9月に発生した関東・東北豪雨災害でも支援活動を行なってきた。あまり知られてはいないが、関東・東北豪雨災害が起きる前の昨年夏には、長野県、高知県、徳島県、広島県で起きた水害の支援も行なってきた。

関東・東北豪雨災害のニュースがあまり報道されなくなった10月末、筆者が茨城県常総市で支援を続ける同団体事務局長・松山文紀さんのもとを訪ねると、松山さんは冒頭のような話をしてくれた。そして、『震つな』の活動を次のように紹介してくれた。

「たすけあいセンターJUNTOS」事務所でスタッフと
打ち合わせをする松山文紀さん(左)。松山さんが
災害支援に関わるきっかけとなったのは阪神淡路大震災だった。
「「『震つな』は1995年の阪神大震災の時に現地入りしたメンバーが中心となり、神戸で設立された団体です。設立当初は神戸の被災地NGO協働センターに事務局がありましたが、設立10年を機に名古屋のNPO法人『レスキューストックヤード』が事務局を担うようになりました。災害が起きていない平時には、日本各地で『移動寺子屋事業』を年に3〜4回開催しています。また、災害時に必要となる支援物資、ボランティア、資金繰り、避難所生活でのポイントなどをまとめたブックレットもこれまでに9冊発行してきました。こうした活動は、過去の被災地での学びを現場にフィードバックするために行なっています。

もう一つの中心的な活動が災害時に行う緊急支援です。緊急支援と言っても、毎回やることは違います。2011年3月に発生した東日本大震災の際には、被災地へのボランティア派遣や現地拠点の後方支援などを行なってきました。『震つな』事務局を担う『レスキューストックヤード』が関わる複数の組織(行政、NPO、起業、ボランティア)が協定を結び、300人規模のボランティアセンター開設に必要となる資器材3セットを合同で管理しています。資器材管理の事務局を『レスキューストックヤード』が担っていることから、迅速な資器材の貸与が可能になっています。このため、災害が発生するとすぐに現地に送り、現地拠点開設の支援を行うことができるのです」

この資器材には、家屋の片付けなどの作業に必要な台車、高圧洗浄機、一輪車、大型掃除機なども含まれているという。

被災していない外部の人間だからこそ言えること


それでは今年9月に起きた関東・東北豪雨災害では、実際にどのような支援が行なわれたのだろうか。

「9月9日夜から降り続いた雨により、9月10日の早い時間には栃木県小山市や鹿沼市ですでに被害が出ていました。しかし、9月10日昼過ぎに起きた茨城県常総市での鬼怒川堤防決壊が大々的に報道されたため、『ボランティアの多くが常総市に向かってしまうのではないか。栃木県にボランティアが来なくなってしまうのではないか』と考え、9月10日夜に震つな会員団体の『とちぎボランティアネットワーク』を訪ねて宇都宮入りしました。

翌9月11日には栃木県小山市や鹿沼市を回っています。栃木県では日光市、鹿沼市、栃木市、野木町、小山市など複数の市町に被害がありましたが、災害対応の経験がある自治体もあり、県内だけでなんとかなると判断しました。

茨城県常総市に入ったのは9月14日からです。通常であれば県の社会福祉協議会に挨拶に行ってから現場に入るのですが、今回は被災地である茨城県常総市に『震つな』の会員である『茨城NPOセンター・コモンズ』がありました。コモンズが常総での活動を始めたのは5年前ですが、コモンズの本部は水戸にあり、15年以上の活動実績があります。そこを支援する形で『震つな』のメンバーが現地に入り、地元と連携して支援を行なってきたんです」

現地にいち早く入るのには理由がある、と松山さんは続ける。

「被災地がどんな状態にあるのかを実際に見て、外部から人を派遣するべきかどうか、どんな支援が必要かを判断するためです。そうした判断は、過去に『震つな』が行なってきた支援経験の蓄積があるからできることです」

「たすけあいセンターJUNTOS」事務所
今回、『震つな』が支援を行った『茨城NPOセンター・コモンズ』の事務所(常総市)も、水害によって70〜80センチほど浸水する被害を受けた。2、3日は水が引かず、事務所内の資器材は浸水によってほとんど使いものにならなかったという。そこで『震つな』は現地拠点を機能させるために必要な資器材を用意。コモンズと協力しながら現地のボランティアセンター『たすけあいセンターJUNTOS』の開設、運営のサポートを行なってきた。

「災害からの復興には時間がかかります。茨城NPOセンター・コモンズは今後も残っていく地元の団体ですから、今回は現地の人たちが『今後、こうしたい』という思いを形にするためのロジスティクスをサポートすることから始めました。実際に一番活動する地元の人たちが、お金の心配をしながらでは動けません。まずは『お金の心配はしないでください。必要なものはこちらで集めますから』と言って、現地拠点の開設を後方から支援してきました」

これは被災していない外部の人間だからこそ言えることだろう。

『震つな』だからこそできる行政やNPO間の連携強化

片付け作業も大切な仕事だ
ここまで紹介してきた『震つな』の支援は、読者が想像する通常の災害ボランティアやNPOのイメージから遠くはなれたものではないはずだ。しかし、今回の関東・東北豪雨災害では、過去の災害支援の経験を蓄積してきた『震つな』だからこそできた活動があったことを忘れてはならない。

「通常の災害支援はボランティアセンターに人を集めてつなぐ役割が中心ですが、それだけでは有効に機能しません。そうしたときに過去の経験、ノウハウを持つ『震つな』のような組織が各団体の窓口となり、行政との橋渡しをしていくことも大切な支援の一つです。

災害現場にはさまざまなNPOが集まります。しかし、そのすべてを社会福祉協議会や災害ボランティアセンターが把握することは難しいんですね。そこでそれぞれ得意分野を持つ団体を把握するための名簿づくりや、NPOが連携して支援を行うためのサポートをしていきました。具体的にはNPOやNGOに呼びかけて集まってもらい、定期的に支援連絡会議(常総市水害対応NPO連絡会議)を開くことで情報共有をしていきました」

ここで松山さんは約70にもなるNPO団体の名簿づくりや議事録整理などを行う事務局的な役割を引き受けた。特筆すべきは支援連絡会議側の窓口として、行政側(市役所、警察、消防)が開く災害対策本部の会議にも出席してきたことだ。

「支援連絡会議はNPO同士が情報共有することが第一の目的ですが、行政側でしかできないサービス・支援もあるんです。そこでNPO同士の会議で行政側に対する提案書をつくり、『いっしょにやっていきませんか』と提案していきました。災害から1か月後の10月10日に常総市長あてに提案したところ、翌日には常総市長が事務所を訪れてくれました」

この提案書は、単に行政を批判したり、言いっ放しの要望を伝えるためのものではない。別添資料として「現状と対応策の提案」がきちんとなされている。

災害支援は『引き際』を見極めることも大切


そもそも災害支援は各NPOやボランティアがそれぞれの自由意思にもとづいて行う活動だ。その窓口を務めるうえでの苦労はないのだろうか。

「各団体にはそれぞれ独自のミッションや得意分野がありますから、一つにまとめようとしても無理があります。ただ、『どんなNPOがいて、どこで何をやっているか』という情報共有をすることは必要です。会議の場で課題を共有すればノウハウを提供しあうこともできますし、足りない支援が何かを洗い出すこともできます。各団体そのもののミッションに触れたり意見したりするのではなく、会議で知恵を出し合って課題を解決していくのです」(松山さん)

そうした活動の中で浮かび上がってきた『支援が足りない分野』でのサポートを行うことも『震つな』の役割だ。

様々な言語での「JUNTOS通信」。災害直後は
毎日発行され、コンビニエンスストアやスーパー、避難所などで
配布されていた。
「常総市には大きな食品工場がいくつもあるため、そこで働く多くの外国人の方も被災しています。そうした方々に情報をわかりやすい形で伝えるために、日本語、英語、ポルトガル語、スペイン語で『JUNTOS通信』を発行して配布したり、災害FMに情報提供する活動も行なってきました。

 また、被災経験がない自治体などでは、災害救助法などの法的支援を受けるためのノウハウを持っていないケースもあります。そうした時には過去の事例から得た知恵やノウハウを情報提供するようにしています」

こうした活動だけでなく、在宅避難者を対象としたニーズ調査や、水害で車を失った人たちのための移動支援、カーシェアリングなどにも取り組んでいる。

松山さんは災害支援を始める際、いつも考えていることがあるという。それは『支援の出口』だ。

「災害は人口流出のきっかけになります。とくに地方では人口が流出すると地元の体力がなくなってしまう。それを防ぐためにも、外部の人間が地元の人と一緒に活動しながら上手な形で地元移行していく『引き際』を見極めることが大切なんです」

 災害から3か月が経過した12月8日、常総市ではすべての避難所が閉鎖され、県内の避難所はすべてなくなった。しかし、現在も2次避難所として指定されたホテルや旅館で避難生活を送る人たちも残されている。

「災害支援をした後、そこに地元住民の笑顔はあるのかーー」

松山さんはつねにその原点に立ち戻り、全国での支援活動を続けている。
[ PR企画 / 日本財団 ]

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