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「男性と違う何かをする必要はない」(NBA女性コーチ)は正しい - 後閑徹

12月2日、朝日新聞デジタル版にて米国男子プロバスケットボール(NBA)、アメリカンフットボール(NFL)の女性コーチの奮闘が報じられた。その中のひとり、NBAキングスのアシスタント・コーチであるナンシー・リーバーマンは、「男性と違う何かをする必要はない」と言っている。これは、「女性の強みを活かす」という時代の流れに逆行するのではないか。新たな活躍の場を切り拓く女性コーチの発言から、女性の職域拡大、そして女性活躍の真の意味を読み解く。

■女性の職域拡大

NBA史上2人目の女性コーチであるナンシー・リーバーマン(敬称略)は以下のようにいう。
「この日のために、すべてを準備してきた。指導者に男女は関係ない。まだ小さな一歩だが、歴史を変えるための努力を続けたい」
 (中略)
「男性と違う何かをする必要はない。大切なのは自信。きちんとした知識を持って指導すれば、選手はついてくる」

2015年12月2日朝日新聞デジタルより
女性に限らず新しい分野への参入は、能力、強い意志、それを受け容れる環境の3点があってこそ成り立つものである。そして、時にはこの環境を自ら作っていかなければならないこともある。

しかし、リーバーマンコーチのようにその能力と強い意志で職域を拡大していくことは決して楽ではない。以下に女性の職域拡大について整理をしてみよう。縦軸に「既存の慣習の有無」、横軸に「女性的手法・男性的手法」をとる。「既存の慣習の有無」とは既に業務遂行の方法が定着しているか否か、「男性的手法・女性的手法」とは男女それぞれの強みを生かす手法を意味する。
女性職域拡大
第1象限は、何のしがらみもない新たな分野に女性が男性的手法で取り組む分野であり、女性活躍を進める現在では事実上考えられない。第2象限は先例も慣習もないため女性が自らの強みを気兼ねなく発揮できる分野になる。第3象限は今まで男性が行ってきた「やり方」を女性の強みで置き換える分野、第4象限は男性のやってきた「やり方」を踏襲する分野となる。

11月12日に日経ホールで行われた「日経ウーマノミクス・シンポジウム~女性活躍Next Stage」にて積水ハウス社長が、住宅販売の女性営業職の課題として「男性の顔色をみすぎる」という点を挙げていた。これまでの男性営業職の「やり方」に合わせようとして女性の強みを発揮できていないという趣旨だ。この場合の女性営業職は第4象限にいることになる。そして、求められているのは第4象限から女性ならではの営業スタイルをもつ第3象限への移行である。

一般に「女性ならではの強みを活かして」といわれる第3象限も、実は口でいうほど簡単ではない。女性の強みも万能ではないし、これまでの先例や慣行を乗り越える「何か」を見つけ出さなければならないからである。

■同調傾向・横並び意識を乗り越える

また、「女性ならではの強みを活かせ」といっても、なかなか突出した動きはしにくいのも事実だ。周囲に同調しようという傾向や横並び意識はそこここに散見されるものでもある。

例えば、今年10月に内閣官房内閣人事局より出された「ゆう活」・ワークライフバランス推進強化月間取組状況調査結果においても、その自由記入欄に「若手職員でも「ゆう活」という大義名分をもって退庁できる雰囲気が出来た」、短時間勤務中の職員から「様々な勤務形態の職員がいたことから普段より退庁しやすかった」という声が挙げられていた。

「顔色をみる」という女性営業職の課題は何も彼女たちに特殊なことではないのだ。しかし、このような横並び意識や周囲への過度な配慮をする慣習が強い場合は、第2象限で女性の強みを生かし、成功体験を積んでいくこともひとつの方法となる。

しがらみのない事業・業務分野を用意して1から女性の「やり方」に任せる方法だ。女性チームが企画・デザインから市場投入まで担ったヤマハ発動機のスクーター「VINO」(2013年モデル)や緑茶の普及を目指して伊藤園と伊勢丹の女性チームがコラボレーションしたグリーンティーパーティ等はこの例である。

■求めるのは個人が個人として評価されること

では、「男性と違う何かをする必要はない」というリーバーマンはどこに当てはまるのだろうか。一見、第4象限に当てはまるようにも見えるが、「指導者に男女は関係ない」と断言する彼女は性差を問題としていないことから、4象限のいずれにも当てはまらない。彼女はその先の理念、すなわち「個人として評価せよ」という理念の実現を求めているのだ。

現在、わが国では女性活躍推進という政策スローガンのもと、多くの組織で女性の職域拡大・管理職の登用が試みられている。「男性」的組織慣行(組織文化)が蔓延している組織にあっては、まず「女性」という性別集団レベルで目の前にある諸々の障害を乗り超えていかなければならないからだ。

しかし、その先にあるのは男女が「個人として能力を発揮する機会が確保される」(男女共同参画社会基本法第3条)社会・組織である。これは、リーバーマンの主張と同義だ。その意味で、彼女の主張は正しい。

■誰の課題か

ナンシー・リーバーマンは、「女性らしさを活かす」という段階を軽々と飛び越えて「個人として評価される」ことを求めた。このことは、「女性活躍」はひとりの人間が「個人として評価される」社会・組織の前段階に過ぎないことを思い出させてくれる。同時にそれは、多様性を受け容れ、多様性を力に変える社会・組織作りの過程でもあることを忘れてはならない。

そして、そうであるなら、女性活躍推進というトピックは女性のみならず男性もともに取り組むべき課題ということになるのではないだろうか。なぜなら、ひとりの人間が「個人として評価される」社会・組織を求めるのに、性別は関係ないのだから。

【参考記事】
■組織文化を変える、その前に(後閑徹 人材・組織開発コンサルタント ブログ)
http://blog.redesign-a.com/?eid=67
■映画「マイ・インターン」に学ぶ男性メンターの心得(後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/46638195-20151020.html
■マタハラ降格判決から学ぶ組織人間の危険性(後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/46987171-20151123.html
■女性活躍推進のためにはOSの更新が必要です(後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/46479264-20151005.html
■男性にとって他人事ではない女性活躍推進 (後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/46354827-20150923.html

後閑徹 人材・組織開発コンサルタント Redesign Academia代表

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