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ロングテールの真逆の概念「ブロックバスター戦略」はネットでこそ機能する

ブロックバスター戦略という名前を最近見かけた本誌読者の方は少なくないかもしれない。おそらく感度が高い方であろう。私も友人のツイートから興味を持って読んでみましたが、面白かったので簡単にご紹介。結構な分量で、読了に5時間かかりました。

☆ブロックバスター戦略とは

映画やスポーツなどのエンタメ・コンテンツ産業において、圧倒的な予算をかけたほうが、結果的にその予算を補って余りある回収を見込めるほどのヒットを生み出せる確率が上がる。全てのコンテンツに均等に予算配分するのではなく、特定の勝負コンテンツかなりのリソースをつぎ込んだほうが、結果的にリターンは最大化される。
(本書を読んだ梅木の解釈)

映画だとハリウッドの大物俳優を起用したほうが、ギャラが高くても興行売上が見込めて結果的に制作費を余裕で回収できる。サッカーだとクリスティアーノ・ロナウドのようなスタープレイヤーを獲得できたほうが、タイトルに近づけるのみならず、放映権料の高騰やグッズ・ツアー売上が伸び、結果的にビジネスとしての収益は最大化される。

こうした「ブロックバスター戦略」はエンタメやコンテンツ産業に従事する方であれば、必ず頭の片隅に入れておいたほうが良いかと。今までなんとなく「香川がユナイテッドに入ればアジアマネーがとかいわれてるなー」とか思っていたわけですが、それがいい感じに整理されており、体系立ててこの戦略の良し悪しを学べました。

対になる概念としては「ロングテール」で、これはECやメディア事業において「どんなゴミでも売れる、ゴミ記事でも1日1PVは稼ぐ」ということで、雑にいうとインターネットにおいてはリアル事業よりも塵も積もれば山となる構造にある。という話です。

もちろんインターネットにおいてロングテールが機能するのでしょうが、それ以上にリアルよりもインターネットのほうがブロックバスター戦略がワークするのではないか。「8:2」の法則ではなく、インターネットにおいてはWinner takes allな「98:2」の法則が案外適用される。というのが、ブロックバスター戦略の概念です。下手すると、大勝ちコンテンツ一発で他を全て回収し得るという。

VC業においてもブロックバスター戦略は機能する。と思う

本書では映画やサッカーなどエンタメコンテンツが中心でしたが、本誌読者に馴染みの深いベンチャーキャピタル業も似た構造にあるかと。以前本誌で紹介したGlobis Fund IVのポートフォリオとブロックバスター戦略の相関性を見てみましょう。

参考:GCP4号のリターンは4倍以上か

ざっくりいうと上記の記事ではGCPは「40億ちょい」を15社に投資して「200億のリターン」と本誌では予想。40億ちょいの投資の中でゲームのアカツキに10億投資しており、本誌の予測リターンは40億。15社への投資をアカツキ一発で回収するモデルです。

他にも凄まじい時価総額がつきそうなメルカリやランサーズなど有力IPO銘柄もポートフォリオに持っていますが。アカツキはレイターでがっつり投資して、がっつりリターンを得ようという、後付け論的ですが、ブロックバスター的な香りがする案件です。これが「ワークしたのか」は実際のアカツキでのリターンを見ないとわかりませんが。

あとは一般論的な話ですが、昨今のVCは「シード特化」「レイター特化」などではなく、全ラウンドに張るところが増えてきており、シードで張った案件がその後調子が良ければ、ダイリューションを避ける意味合いも込めてフォローオンで張り続けると、結果的にそのファンドでのその案件に他する累計投資金額は膨らみますが、その案件できっちりリターンを回収できます。B Dash Venturesのグノシーへの投資が、そういった動きですね。

10億のファンドであれば、3,000万を33社に均等にばらまくのではなく、1社張れるところには追加出資含めて3億くらい突っ込む。そうすればその案件のリターンが3倍となって、元々のファンド総額を回収できる。というシンプル話です。なので、VCの戦略としては予算があればシードアーリーでばら撒いて、その後伸びたところにはフォローオンで入れるという条件にしておくのが一番賢そうです。シードアーリーのソーシング力があれば。の話ですけどね。

メディアにおけるブロックバスター:Netflixの場合

メディアにおいては「そのメディアを象徴するような」コンテンツを予算かけて投下するかというのがブロックバスター戦略といえます。

Netflixの成長を牽引したのは1億ドル掛けて製作したオリジナルコンテンツという説もあり、特にコンテンツビジネスの場合はグローバルでの回収が可能な場合(テキスト主体の記事ではなく、動画のほうがグローバル展開の相性がいいのはいうまでもない)思いっきりリッチなコンテンツを製作するという戦略がワークしそうです。これが日本国内だけだときついのかも。

Netflixは日本版ローンチに際しても、テラスハウスやアンダーウェアなどを投下していますが、個人的にはもっとやっても良かったのではという印象。

テキストメディアに関していうと、キュレーションメディアは記事製作コストを極限まで下げて記事を量産し、数の暴力でPVを取るという戦略がワークし、一世を風靡しました。言い換えると、キュレーションメディアのコアコンピタンスはロングテールなのです。どんなゴミ記事でも1日1PVは取るという。しかし、キュレーションメディアで読んだ記事の内容はほとんど覚えていないんですよ。

これは結果論に過ぎないのですが、東カレWEBでは模倣難易度が高いコンテンツに挑戦していて、普通の記事よりは工数がかかるので大変なのですが、それが当たったのが東京女子図鑑でした。

この連載は総集編含めても10本の連載で、初期の3本は大して跳ねませんでしたが、チューニングの結果、5話目あたりから跳ねてきて、かなりのPVを獲得しました。下手するとこの連載群だけで一時期の月間PVを上回ったくらいです。結果論ですが、これもブロックバスター戦略といえます。月間記事数が250本だと仮定して、240本で積み上げたPVを10本で抜いてしまう。これは「98:2」の法則といえますね。

平たくいうと、ブロックバスター戦略は「しっかり準備してホームランを狙おう」ということです。そのホームランは単なるヒットの積み上げ以上の効果があり、「決定的な仕事」となり得るのです。

ブロックバスター戦略の重要な要素となる「タレント」

Umeki Salonには少し書いた話ですが、ブロックバスター戦略は人材論にも適用できます。「いかにスーパースターを採用するか」という話です。M&Aでは「タレントバイ」という考え方がありますが、ずば抜けたタレントを獲得するには会社ごと買収するしか手段がない。まだ獲得できただけマシである。とも考えられます。

この「タレント」と普通の人(本誌用語でいう栽培マン)は何が違うのか。

タレントとは「その人の存在の有無で明確に成果が異なる」とか「決定的な仕事ができる」人のことを指すのだと私は思います。

この「タレントと栽培マンの差」をわかっていて、タレントに相応の価値を見出し、獲得する努力ができる経営陣が率いる企業の競争力が上がっていくのではないでしょうか。もう歯車をうまく回すだけで勝てる時代だとは思えません。

タレントはタレントとして、己能力を磨くことを怠らないマインドセットが必要。だからこそタレントは他のタレントを好み、嫉妬することもある。タレント同士で競い合い、ますます能力が上がるスパイラルに入っていく。「タレント論」は別の機会にも考えたいところ。

以上です。ブロックバスター戦略の肝は「しっかり準備してホームランを打つ」という考え方であり、その要素の一つとして「スーパースターのアサイン」があるという話でした。

みなさんが携わる企業や事業にブロックバスター戦略を適用することはできないか?一考の価値はあると思います。

参考記事:ブロックバスター戦略から見える圧倒的な人材が価値を生む時代への潮流(HBR)

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