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英国のフェイスブックはなぜ法人税80万円なのか

答える人=ジャーナリスト 木村正人

ボーナスは66億円、それでも赤字で無税

フェイスブック(FB)の英国法人の納めた法人税が、昨年度わずか4327ポンド(約80万円)だったことが、今年10月、英国で大きなニュースになった。

FBの英国法人は昨年度2850万ポンド(約53億円)の営業赤字だった。だが従業員362人に総額3540万ポンド(約66億円)のボーナスを支払っている。英国の労働者の平均年収は2万6500ポンド(約493万円)。所得税や社会保険料の納付額は5392ポンド(約100万円)である。全世界で29億ドル(約3575億円)の利益を計上したFB社の法人税が、平均的な労働者の所得税や社会保険料よりも少ないとは常識では考えられない。

18世紀に米国が英国と戦った独立戦争は「代表なくして課税なし」がスローガンだったが、今や、米国の多国籍企業はさまざまな租税回避スキームを使って常識離れした税逃れを日常的に行っている。

これに対応して英国は今年4月から、迂回利益税、いわゆる「グーグル税」を導入した。これはグーグル1社を対象にした税制ではない。グーグルのような多国籍企業の租税回避に網をかけるものだ。経済のグローバル化とインターネットの普及で、売上高・資産・収益・雇用の海外比率が高い多国籍企業が増えた。その結果、タックスヘイブン(租税回避地)や低税率国に利益を移して納税を極限まで抑えて企業利益を最大化させるビジネスモデルが編み出された。英国の「グーグル税」は、企業活動の実体を欠いた租税回避に対し、通常の法人税率20%より高い25%を課すものだ。英財務相オズボーンは「応分の法人税を納めない企業に対する英国の寛大さはこれで終わりにしよう」と宣言した。

世界を巻き込んだ「課税ウオーズ」は3年前、米スターバックスの税逃れをメディアがスッパ抜いたことから始まった。スターバックスの英国法人が直近の3年間で12億ポンド(約2232億円)の売り上げがあったのに、納めた法人税はゼロ。英国での店舗は735店もある。スターバックスは「わが社は英国で雇用を生み出しており、従業員の社会保険料も一部負担している」と開き直ったが、納税者は「税金を払わないスターバックスのコーヒーを飲むのを止めよう」と不買運動を起こした。さらにグーグル、アマゾン、アップル、コカ・コーラなどの悪質な租税回避が次々とやり玉に挙げられた。


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グーグルの巧妙な「節税策」

中でもグーグルが使っていた「ダブルアイリッシュ・アンド・ダッチサンドイッチ」というスキームは凄まじかった(※1)。知的財産から生じた所得への優遇税制を敷くオランダの「パテント(特許権)ボックス」と法人税ゼロのタックスヘイブンを巧妙に組み合わせた「節税策」だ。

経済協力開発機構(OECD)によると、多国籍企業の税逃れは控えめに見積もっても年間1000億~2400億ドル(12兆3300億~29兆5900億円)、世界の法人税収入の4~10%に相当するという。

前出のオズボーンは英国世論の怒りを追い風に独財務相ショイブレと共闘を組み、主要20カ国・地域(G20)やOECDに働きかけた。米国も自国の多国籍企業による悪質な租税回避を持て余していた。OECDは「税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクト」を立ち上げ、今年10月にリマで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議では、多国籍企業の税逃れを防ぐ15項目の行動計画が採択された。

納税者の「怒り」が大企業を追い詰める

日本では2009年に東京国税局が千葉県にあるアマゾンの配送センターを「支店」とみなして法人税140億円の追徴課税処分を決めたことがある。しかしアマゾンは反論し、支払いに応じなかった。外国企業に法人税を課すためには、二国間の租税条約に基づき、日本国内に現地法人や支店などの「恒久的施設」があることが条件になっている。日本と米国の相互協議の結果、「配送センターは倉庫で、『恒久的施設』ではない」というアマゾンの主張が認められ、追徴課税処分は取り消された。

国税庁OBで、国際課税に詳しい早稲田大学の青山慶二教授は「G20での合意で、こうした判断も見直されるでしょう」と話す。

「これまでOECDのモデル条約では一般に倉庫は『恒久的施設』とは認められておらず、アマゾンの事案も規定の不備ではないかと問題になりました。今回のG20では、特定の社名は挙げられていませんが、アマゾンのような重要な活動を行う現地大型倉庫は『恒久的施設』として課税すべきである、という合意ができました。今後、租税条約の改定が進めば課税できるようになります」

国際課税を強化したい英税務当局の意図的なリークが背後にあったのだろう。スターバックスやグーグル、フェイスブック、アマゾンなどの税逃れは連日大きく報じられた。納税者の怒りは英国から欧州大陸に広がり、ついには国際社会を動かした。しかし日本ではこうした動きはほとんど見られなかった。というより、アマゾンに対する追徴課税のように処分の後、訴訟にでもならない限り、真相は闇の中というのが実情だ。

日本の多国籍企業は本社で特許権などの無形資産も集中管理しており、「ダブルアイリッシュ・アンド・ダッチサンドイッチ」のようなスキームを使う例はほとんどない。一方、英国では法人税の低いアイルランドが近く、特許権に対する優遇税制などをめぐり欧州諸国との間で「租税競争」が繰り広げられている。日本は幸か不幸か、生き馬の目を抜く租税競争とは縁遠かったとも言える。

これまで日本の国税当局は、多国籍企業から税金をとりそこねてきた。その代表例が、日本国内に支店や子会社を置かない外国企業がインターネットを通じて音楽や電子書籍、広告を販売する電子商取引だ。大和総研は「国境を越えた海外電子コンテンツの市場規模」について、2012年には総額で5119億円に達し、消費税を課税できないため247億円の税収が失われたと指摘している(※2)。だが今年度の税制改正で、国内に支店や子会社がない外国企業の電子商取引にも課税できるようになった。

G20で採択された15項目の行動計画には、これまでゴーイング・マイ・ウエイだった中国など新興国も参加した。納税の透明性を確保するため、租税条約の情報交換規定を通じて国別収入や税引き前利益、支払い所得税額、従業員数、重要な資産といった多国籍企業の情報が入手できるようになるため、中国にとっても大きなメリットがある。一方、日本の多国籍企業は財務諸表の管理を現地の子会社に任せているケースが多く、情報管理のため人員拡大やIT投資を迫られる恐れもある。

早大の青山教授は「合意の意味は非常に大きい」と強調する。

「中国、インド、ブラジルも入った40カ国以上の国々を『もやい(船と船とをつなぎ合わせること)』のようにつないだ意味は大きい。国際課税では前例のないことで、非常にパワフルだと思います。『我々の国はこう解釈している』と自国の都合を押し通すのは難しくなります」

課税のグローバル化を大きく推し進めたのは納税者の怒りだ。英国においても、「市民も企業も同じ社会の構成員なのだから、同じように税金を負担すべきだ」という庶民感覚が改革の原動力になった。日本も「よらしむべし、知らしむべからず」「税金は取りやすいところから取る」という風潮から卒業して、健全な納税者意識を育て、ルール作りに生かしていく必要がある。

※1:法人税が12.5%のアイルランドに2つの関連会社を設立し、米国の本社から海外事業のライセンスを付与する。オランダの関連会社をはさむことでライセンス料にかかる源泉税を免れ、利益の大半をバミューダ諸島(英国の海外領土)にある管理会社に移す手口。
※2:税制調査会「第3回 国際課税ディスカッショングループ」(2014年4月4日)での大和総研・米川誠氏の発表資料。

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