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マタハラ降格判決から学ぶ組織人間の危険性 - 後閑徹

11月17日、昨年10月のいわゆるマタニティハラスメント(以下、マタハラ)降格事件差戻し控訴審が原告(被害者女性側)勝訴で終結した。一連の裁判は、厚生労働省がマタハラガイドラインを作成するなど子どもをもちながら就労継続をする環境整備を促進する点で大きな社会的意義があった。しかし、組織の中で生きる人間にとって、この判決の重要な意義はもうひとつある。

■欠けていたのはきめ細かな配慮と利益調整

この事件に関する最高裁判決のポイントは、妊娠に伴う軽易作業への転換を契機とした降格を原則として違法と宣言するとともに、2つの例外の明示、すなわち、1.労働者の自由意思に基づいて降格を承諾したと認められる「合理的な理由」が客観的に存在する場合と、2.降格による業務上の支障があり、労働者の利益を害さない「特段の事情」が存在する場合、を明示した点にある。

そして、判例はその判断要素と判断方法を詳細に定めている。その例として以下、例外2について一部を抜粋する。その詳細さを感じて頂きたい。
また,上記「特段の事情」に関しては,上記の業務上の必要性の有無及びその内容や程度の評価に当たって,当該労働者の転換後の業務の性質や内容,転換後の職場の組織や業務態勢及び人員配置の状況,当該労働者の知識や経験等を勘案するとともに,上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって,上記措置に係る経緯や当該労働者の意向等をも勘案して,その存否を判断すべきものと解される。
最判平成26年10月23日より   なお、「 」は筆者  
この判決は事業者(組織)の側の事情を無視しているのではない。むしろ、職業生活と家庭生活の両立を図る労働者の利益と職場の人事管理の必要性という組織の利益の調整を図るべきとの判断をし、そのための考慮する要素を詳細にひろい出しているのである。そして、これら諸事情によるきめ細かい利益調整こそがこの事件の事業者側に欠けていたものに他ならない。

マタハラ判決で警鐘を鳴らされたのは、この利益調整の大雑把さである。厳しくいえば、利益が対立する場合の従業員への配慮の無さが問題とされたのである。

■安易な組織優位論への警鐘

W・H・ホワイトは、所属する組織からの恩恵を被る代わりに組織への忠誠誓う人間をオーガニゼーション・マンと呼んだ(『組織のなかの人間』現代社会科学叢書)。オーガニゼーション・マンの特徴は、信仰にも似た組織への服従である。そこでは優越する組織利益の前に個人利益が矮小化される。マタハラ降格事件をみると、終身雇用・年功序列という恩恵が崩れた現代のわが国にあっても、マネージャーは変わらず組織への高い忠誠を誓っているようだ。

しかし、信じる価値があったとしても、その価値自体を時に問い直す試みがなされなければ、特定の価値への盲従に陥る。そして、この価値への盲従は視野狭窄と独善を引き起こし、現実を見誤る。これは社会においてのみならず、組織においても極めて危険な状態だ。「組織のため」が実際には「組織のためになっていない」という事件は後を絶たない。東芝の不正会計事件と今回のマタハラ降格事件の根っこは実は同じだ。

確かに現代において、組織・集団はなくてはならない存在であり、そこに属する個人は多くの恩恵を被っている。しかし、たとえ「組織あっての個人。ゆえに組織の事情が優先する」という判断にたどり着いたとしても、その前に、組織利益と個人利益の調和を図る努力をしなければならない。その努力・検討をせずに主張する安易な組織優位論をもう一度見直すことを最高裁判決は求めているのである。

■非難する前に考えることがある

そして、この大雑把さ・配慮の無さは今回の事件となった事業者やマタハラのみにみられる傾向ではない。インタビュー調査をしていてよく耳にするのは、「子もちの女性に振り回される」「時短・育休をとっている同僚がいると迷惑」という声だ。これらの声は、男性のみならず女性からも聞こえてくる。

この時、子どもをもつ女性の利益や時短・育休をとっている女性の側の事情はどれだけ考慮されているだろうか。子どもをもつワーキングマザーを「自分勝手」と非難するならば、相手の事情を考慮せず一方的に批難することもまた「利己的」だ。敵意をワーキングマザーに向ける前に、自らの働き方、業務分担の仕方、人員配置等、「個人・職場・組織全体で考えること、取り組むことは何か」を考える方向に思考を進めることはそれほど難しいことではないはずである。それをしない思考の飛躍を指摘したい。

■組織を強くするために

友人である時短勤務中のワーキングマザーが、土曜日に発熱した娘に向かってSNSでこんな言葉を呟いていた。「ママのために週末まで熱をだすのを待っていてくれたのだね。ありがとう。」このような思いを組織人は知る必要がある。

同じ職場の仲間だから仲良くしましょうというつもりはない。ステークホルダー(利害関係人)の利益に配慮し、調整を図る。そして、その拠って立つ価値観を適宜振り返ることは、現実に対応し、多様性を利用して組織を強くすることに繋がることを忘れてはならない。

【参考記事】
■エニアグラム / 円環 (後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://blog.redesign-a.com/?eid=68
■全体最適 / マネジメント能力(後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)    
http://blog.redesign-a.com/?eid=71
■映画「マイ・インターン」に学ぶ男性メンターの心得(後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/46638195-20151020.html
■女性活躍推進のためにはOSの更新が必要です(後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/46479264-20151005.html
■男性にとって他人事ではない女性活躍推進 (後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/46354827-20150923.html

後閑徹 人材・組織開発コンサルタント Redesign Academia代表

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