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雇用者報酬不振、企業利益絶好調の構図

賃金抑制が景気の回復を脆弱にしている

アベノミクス下での景気回復が、雇用の改善をもたらしているのに、賃金が抑制されているため消費の伸びが低迷していおり、これを乗り越えないと目標の実質成長率もインフレ率も達成できないまま、再び不況となり、株価や不動産などの資産価格の下落とともに円高デフレに戻ってしまう危険があると前回トムソン・ロイターのコラムで詳述した。

http://jp.reuters.com/article/2015/10/27/column-masaharutakenaka-idJPKCN0SK1K920151027

国民所得上の分配の変化を示すのが上段の図である。

国民所得に占める雇用者報酬の比率(青色)は90年代に上昇した後、その後趨勢的に低下している。90年代にこの比率が高かったのは、団塊の世代が年功的な給与体系の中で最も給与水準の高い年代だったという人口動態的な要因が強く働いている。

賃金の変化は企業利益に比べると動きが安定しているので、循環的に雇用者報酬の比率は不況期には上がり、好況時には下がる。そうした循環的な変化を除去した趨勢的な変化として雇用者報酬の比率が下がっている。

もっとも家計には企業部門から配当の形で所得が移転しているので、配当、賃料、利息などの家計財産所得も加えて見るべきだろう(緑色)。それでも趨勢的な下落傾向が見られる。

国民所得分配の詳細を示す「確報」は発表が遅く、2014年までしか利用できないが、2015年第3四半期まで、国民総所得(グロス)に対する雇用者報酬の比率(赤色)で見ると、やはり2013年以降、アベノミクス下で、雇用者報酬の比率は低下している。逆に言うと、企業利益の比率が上がり続けているのだ。

企業利益が上がらないことには経済は成長しないのだが、問題はバランスだ。雇用者報酬の伸びが抑制され、企業利益のみが大きく上伸し、しかも企業部門が設備投資を増やさずに貯蓄を増やす(債務を返済する)現在のパターンでは、短期的にも長期的にも自律的な経済成長率の上昇につながらない。

円安下の価格転嫁の構図も企業利益好調、家計所得不振に作用している

家計所得不振、企業利益好調の構図を生み出している要因は、賃金抑制に加えてもうひとつある。これが今回のブログでの新しい点なのだが、円安とそれに伴う輸入価格の消費者物価への転嫁の構図が、家計の実質所得不振、企業の実質利益好調に働いている。

これが第2の図である。横軸が輸入物価指数の前年同期比の変化、縦軸が消費者物価指数(総合)の同変化である。青色は2009-12年の円高時期の分布、赤色が2013-15年のアベノミクス下での円安時期の分布である。 

輸入価格の変化が消費者物価の変化に波及するまでタイムラグがあるので、図では輸入物価の変化を6か月先行(=消費者物価の変化を6か月遅行)させてある。当然、双方には正の相関関係があるのだが、2013年以降の分布ではそれ以前に比べて、右肩上がりの近似線の傾きが、ぐっと急になっていることに注目頂きたい。

つまり2013年以降は輸入価格の上昇が、それ以前よりずっと消費者に転嫁されるようになっているのだ。一方、外貨建ての輸出価格は2013年以降の円安ではあまり引き下げられていないことが別途確認できる。

その結果、円安による輸出サイドの為替益は企業部門の収益を押上げ(外貨建ての価格の引き下げは近年ではあまりされないので輸出数量の伸びは抑制され、生産増→雇用者所得増の効果は限定されている)、一方輸入再度の価格上昇(為替損)は消費者に(全部ではないが)より転嫁される構図となっている。

これが現下の雇用者報酬の伸びの抑制、企業利益絶好調のトレンドをもたらすひとつの要因になっていると思われる。もちろん、輸入価格の国内価格への転嫁自体が悪いわけではない。むしろ輸出サイドで生じる収益増が家計に還元される経路が十分働いていないことが問題なのだろう。

企業行動の合理性としては、賃金抑制、仕入れ価格アップの価格転嫁はみな合理的なのだが、ミクロの合理性が集合的には望ましくない結果をもたらす合成の誤謬の典型だろうか。 安倍内閣も黒田日銀総裁も、賃金アップに期待する発言を繰り返しているが、賃金アップを促進する政策的な工夫をもっとしないと、景気回復は自律化せずに、脆弱な状態が続いてしまう。

近著

「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」

(光文社)2013年5月20日

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