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「かぜ薬を飲んでもかぜは治らない」 もう常識ですか?

先日、オンライン病気辞典「MEDLEY」でコラムを書きました。
インターネットや雑誌、新聞、TVなど、様々な情報が氾濫する中で、正しい健康・医療情報を選び取ることは簡単ではありません。MEDLEYでは、情報の信頼性を重視し、数百名の医師などが編集に関わることで「信頼できる情報インフラ」を目指している、とのことです。

下記に転載します。

『かぜ薬はかぜを治せないのに副作用のリスクが高い?』総合感冒薬の適正使用について

普段は健康に自信がある方でも、これからの季節、かぜをひいてしまうことは珍しくありません。今回は、身近な薬である「かぜ薬」についてのお話です。

◆かぜ薬は何に効いているの?

秋から冬にかけ、テレビでは数多くのかぜ薬のCMが流れます。これまでなんとなく聞いていて、気付いていない方もおられるかもしれませんが、「かぜ薬がかぜを治す」と言っているCMは一つもありません。

もしあなたが、かぜ薬によってかぜが治ると思い込んでいるのであれば、残念ながらそれは誤りです。今度耳にする際は一度、注意深く聞いてみてください。

まず、「かぜが治る」とはどういうことなのかについて、考えてみましょう。

かぜの多くはウイルスの感染によって引き起こされます。原因となるウイルスが人間の気道粘膜から侵入し、増殖します。これに伴ってかぜの諸症状が引き起こされますが、その後、人体の免疫反応によってウイルスがやっつけられると、かぜの症状も消失していきます。これが「かぜが治る」ということです。

かぜを治すためには、原因となるウイルスをやっつける薬を使えばよいのですが、そのような薬は現在のところ、存在しません。一般的なかぜ薬(総合感冒薬)の効能は「かぜの諸症状の緩和」です。かぜを治すのではないけれど、かぜに伴うせきやタン、痛み、発熱、鼻水といったつらい症状を緩和してくれるという訳です。

「実際にかぜ薬を服用して治った経験がある。」という方もいるかもしれませんが、かぜ薬を服用して症状を抑えている間に、人体の免疫反応によってかぜが治った、というのが正解のようです。

医療業界には、「かぜは治療すれば1週間で治る。治療しなければ治るまでに7日間もかかる」というジョークがあります。

※ただ、近年の研究成果によって、『かぜ薬は、かぜの治癒に悪影響を及ぼしているらしい』との見解もあります。

◆盛りだくさんの効果は危険の裏返し?

総合感冒薬にはさまざまな成分が配合されています。かぜの症状は多彩ですので、それを抑えるためには、かぜ薬にも多数の薬を配合する必要があります。「総合」というのはそういうことです。咳を抑えるために咳止め薬、タンにはタン切りの薬、鼻水には鼻水の薬、熱や痛みに解熱鎮痛薬といった複数の成分が配合されているからこそ、一つの総合感冒薬を服用するだけで多くの症状を抑えてくれるのです。

対して、かぜの症状で病院を受診した際に、複数の薬を処方された経験を持つ方は多いと思います。解熱剤に咳止め、鼻水の薬など、1~2種類の薬が処方されるだけの場合もあれば、4~5種類、あるいはそれ以上の薬が処方されることもあります。

実際には、医師が処方する医療用医薬品にも「総合感冒薬」は存在します。市販薬では総合感冒薬が一般的ですが、医師が処方する場合には、単一成分の薬を組み合わせることが多いのです。

この理由には「医師が医療の専門家であるから」という面があります。

かぜ薬の多くでみられる、「眠気」といった副作用は、多かれ少なかれ、要因となる成分を服用した場合には発生する副作用であり、服用する前から想定できるものです。眠気が出ると困る、仕事で自動車や機械の運転をしなければならない、という事情があれば、眠気が出ないタイプの薬にすればよいですし、眠くなったとしてもその薬を服用したいのであれば、それを受け入れればよいということになります。

ところが、皮疹や肝臓・腎臓障害、アナフィラキシーショックといった、発生率は低いものの重篤な副作用は、事前に予測できず、被害を回避するためには「なるべく服用しない」ということしかありません。

したがって、副作用のリスクを低く抑えるためには、多くの成分を含む総合感冒薬ではなく、症状にあわせて最低限の成分だけを使うのが合理的ということになります。熱も痛みもないかぜで総合感冒薬を服用して、その中に含まれる解熱鎮痛薬のため重篤な副作用被害に遭うというのは、避けたいことです。

多くの方には、ご自身又は家族、知人にそういった重篤な副作用が出たという経験はないかもしれませんが、これは確率の問題です。医療者の多くが、実際にそういった症例を経験しています。

◆終わりに

今回はかぜ薬、特に総合感冒薬について、副作用被害の観点から取り上げました。実際に、市販薬について報告される副作用被害の中で、総合感冒薬の占める割合は大きなものです。

市販薬は、医療者の感覚からするとベストな処方とは言いにくいものも少なくありません。かかりつけの薬剤師と相談しながら購入することで、より安全に・効果的に薬を服用することができると思います。

コラムの内容は以上です。
(MEDLEYのページはこちらhttp://medley.life/news/item/562854a94c09557a5e58adab

以前、日本の市販薬販売制度は、安全性よりも、消費者の利便性・企業利益を重視しているという記事を書いたことがありました。

「日本における大衆薬の危険性と実現不可能な解決策」
http://blogos.com/article/109141/

かぜ薬の主流が「総合感冒薬」である国は、実際には少数派であると指摘されます。
今回の記事の内容は、医師と同様、薬剤師にとっても常識です。市販薬を購入する際、薬剤師の介入を重視する国では、どの薬を飲むべきかという薬剤師の助言が反映しやすいため、総合感冒薬が主流になりにくい。購入者が自由に薬を選択する国では、企業は直接購入者にアピールすることになりますので、リスクは軽視され総合感冒薬が売れ筋になる、という仕組みです。

今回ご紹介した、「かぜ薬でかぜが治る訳ではない」といった内容は、一般のメディアでもよく見かけますので、もう常識なのかなとも思います。一体どのくらいの方がこの内容を知らないのかは、私には分かりません。
「抗生物質は、かぜに効果がない」というのもご存じでしょうか?(今週は抗菌薬啓発週間〈World Antibiotic Awareness Week〉です。この他にも多くの情報がありますので、ご覧下さい。例えばこちらhttps://www.youtube.com/watch?v=rS83Psfcsc4&feature=youtu.be

ニュース等で報じられているように、厚労省は、利用する薬局や薬剤師を決めておく「かかりつけ薬局」を推奨しています。複数の医療機関から処方される薬の飲み合わせ、重複を防ぎ、飲み残しを減らすことで医療費を削減する、ということです。

私は、そうではないと思っています。「かかりつけの薬局・薬剤師」との良好な関係があれば、普段の健康管理において、正しい情報の入手に役立ちますし、健康食品や市販薬においては、企業利益のためではない、適切な助言を得ることができます。処方箋の調剤でも、医師の味方ではなく、患者のために専門性を発揮してくれます。
もしあなたの家族や親しい友人に薬剤師がいれば、きっとそういった手助けをしてくれることでしょう。それが「かかりつけの薬剤師」を持つ意義だと思います。

では、そういった薬剤師を(家族や友人以外で)どう探すかといえば、そう簡単ではないだろうなと感じます。
勤務する店舗では、販売を推奨されている商品(市販薬・健康食品)があるでしょうし、近隣の医師に気兼ねすることなく、自由に発言する薬剤師もそう多くはないでしょう。良くも悪くも、日本の薬剤師は、今の日本の医薬品・薬局業界の要請に沿った働き方をしているように思います。またそれは日本の制度が誘導したものです。

「どのように薬局・薬剤師を利用するかは自由です」と国は言いますが、現実はそう簡単ではないようです。

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