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IoTもアップルが制するのか?Apple Watchの真の狙い - 川手恭輔

川手恭輔 (コンセプトデザイン・サイエンティスト)

iPhone依存度が増加するアップル

 10月27日にアップルは、2015年度第4四半期(9月26日まで)の業績を発表した。アップルのサイトには、CEOティム・クックの次のような言葉が掲載されている。

 「2015年度は、売上高が28%増大し2340億ドルとなるなど、Appleにとってこれまでで最も業績の良い年となりました。この継続的な好業績は、地球上で最高の、最も革新的な製品を作ることへの私たちの取り組みの結果であり、私たちのチームがとてつもない努力をしてきたことを証明するものです」

 売上高の伸びに貢献したものとして、過去最高となったiPhoneの第4四半期販売台数、Apple Watchの取扱店の拡大、そして過去最高のMacの販売台数とサービスからの収益を上げている。しかし、数字を見てみるとiPhoneへの依存度が増加していることがわかる。


アップルの発表資料より筆者作成
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 グラフは四半期ごとの各製品の売上げ額を示している。その他(Other)には、Apple TV、Apple Watch、Beatsのヘッドホン、iPod、そしてオンラインと店舗のアップルストアで販売されるサードパーティー製を含めたアクセサリーの売上げがまとめられている。全体に占めるiPhoneの売り上げの割合を、折れ線で表してみた。2015年度は60%を超えている。

 アップルは2016年度第1四半期の業績について、売上高として755億ドルから775億ドルという予想を公表している。その数値からiPhoneの割合を70%として計算すると、およそ8000万台のiPhoneを販売しようと考えているようだ。これまでの記録は、2015年度第1四半期の7468万台だった。

 例によって、Apple Watchの販売台数は公表されなかったが、2015年度の第3四半期と第4四半期の「その他」にはApple Watchの売り上げが含まれている。第1四半期と第2四半期の数字は 2014年度に比べると落ち込んでいる。Apple Watchがなかった場合の第3四半期と第4四半期の数字も、対前年比90%程度だったと仮定すると、差分(増加分)の約24億ドルはApple Watchの売り上げと見ることができる。6カ月でおよそ500万台というところだろうか。

 ティム・クックの言葉は次のように続いている。

 「まもなくホリデーシーズンが始まりますが、AppleではiPhone 6sおよびiPhone 6s Plusをはじめ、ケースとバンドの種類をさらに充実させたApple Watch、新しいiPad Pro、そして今週出荷が始まるまったく新しいApple TVなど、これまでで最高の製品ラインナップを用意しています」

 エルメス社と協力して「ケースとバンドの種類をさらに充実させた」というApple Watchは、日本円で13万8000円から18万8000円という高額商品だ。日本では10月3日の発売日には、販売店で行列ができて品切れになる商品も出たという。しかし、ギフト需要などが見込まれるホリデーシーズンを含む2016年度第1四半期でも、Apple Watchが大きく売り上げを伸ばすとは思えない。

 iPodにしてもiPhoneにしても、その売り上げが急激に伸びたのは発売から2~3年が経ってからだ。アップルの画期的な製品に、人々の理解が追いつくのに時間がかかったということもあっただろうが、やはり機能面での進歩やインフラ環境の整備に時間が必要だった。その時間は、Apple Watchにも必要だろう。

アップルはeSIMで何をしようとしているのか

 7月16日のフィナンシャルタイムス(http://www.ft.com/cms/s/0%2Ffc78a3ea-294b-11e5-acfb-cbd2e1c81cca.html#axzz3g8LEozSd)は、「アップルとサムスンは、eSIMカードを製品化するために、移動通信の業界団体(GSMA)に参加する話し合いを最終段階に向けて進めている」と報じた。すでにアップルは昨年10月から、ユーザーが購入後に携帯通信キャリアとデータプランを選ぶことができる独自のSIMが付属したiPadを販売しているが、eSIMをiPhoneに入れようと考えているのだろうか。

 普通のSIMカードには、あらかじめ一つの携帯キャリアを利用するための通信プロファイルが書き込まれている。このプロファイルを後から書き換えることができる、エンベデッドSIM(eSIM)と呼ばれる技術がGSMAで検討されてきた。GSMAはM2Mの用途に限定した技術仕様書を策定しており、日本では2014年6月からNTTドコモが、法人向けにeSIMの提供を始めている。しかし、スマートフォンなどの一般のコンスーマ向けの端末向けのeSIMの規格化は難航していると報じられている。

 もし、iPhoneにeSIMが搭載されることになると、SIMは筐体に内蔵されて(あるいはソフトで実現されるかもしれない)SIMを差し込むスロットがなくなり、筐体デザインのスリム化や防水などがより容易になる。ユーザーは購入後に、いつでもiPhoneのメニューから携帯通信キャリアと、その料金プランを選んだり変更することができるのはiPadのApple SIMと同様だ。もちろんiPhoneの場合は(iPadの場合と異なり)、通話の料金プランも含まれているだろう。

 Apple SIMの場合、ユーザーは自国、例えば米国内では、AT&TやSprintやT-Mobileの通常のサービスを契約し、国外で使用するときにはGigSkyというプロバイダーのローミングサービスを利用する。eSIMの場合は、その国の携帯通信キャリアの旅行者向けの短期の料金プランを利用することが可能になる。

 しかし、ユーザーはアップルが用意したメニューからしか、携帯通信キャリアや料金プランを選ぶことができない。アップルは単独あるいは携帯通信キャリアと共同で、世界中の携帯通信キャリアやMVNOと交渉を行ってメニューを充実させる必要がある。その交渉の難しさと、ユーザーに提供できるメリットを考えると、アップルがiPhoneにeSIMを搭載しようとしているとは考えにくい。

モバイル通信によってApple Watchは独り立ちする

 アップルはApple WatchにeSIMを搭載しようとしているのではないだろうか。Apple Watchは、iPhoneとではなく直接インターネットにつながることによって、その存在価値を大きく変えることができるはずだ。

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エルメスコラボのApple Watch(Getty Images)

 小さい画面の制約は小さくはないが、音声やジェスチャーなどの新しい入力手段の新しい技術シーズは数多い。Apple WatchにSNSやメッセージングを最適化することもできるだろうし、自動車や家電などのインターネットにつながったIoTデバイスの状態を遠隔で確認して指示を与えることなども可能だろう。センサーによって検知した体の状態をリアルタイムでインターネットに送ることができるという前提で、新しいヘルスケアのサービスを考えることもできる。これらは現行のApple Watchでも、iPhoneと連携してできることかもしれない。しかし、iPhoneがなくても単独で機能するApple Watchのユーザー体験は大きく広がるはずだ。

 eSIMを搭載したApple Watchは、iPhoneを持っていない人でも使うことができる。アップルは、ユーザーに「通信」を意識させないようにするだろう。Apple Watchをアップルから購入すれば、別に携帯通信キャリアと契約をする必要はない。国外に移動しても、その国の携帯通信キャリアと自動的に接続する(事前に訪問する国を設定しておく必要はあるかもしれないが)。

 通信料金はどうなるだろう。スマートフォンに比べて、Apple Watchが通信するデータ量は非常に小さい。サードパーティのアプリケーションが使用するデータ通信を含めて、アップルが新しいサブスクリプション(利用料金)のモデルを作る必要があるだろう。ユーザーは通信料金を払うのではなく、Apple Watchとそのアプリケーションやサービスが提供する価値に対価を支払う。

iPhoneの次のプラットホーム

 さらにうがった見方をすると、このeSIMのサブスクリプションのモデルはIoTのプラットホームになる。今後、一般消費者が購入するスマートフォン以外の製品(モノ)もインターネットにつながり、クラウド上のサービスと連携することによって、人々に新しい価値を提供するようになるだろう。そのとき、製品ごとに通信料金の契約をして支払いをしなければならないとしたら非常に面倒だ。そのようなモノやサービスは普及しないだろう。

 いろいろなモノにアップルのeSIMが組み込まれてインターネットにつながる。人々はiPhoneやApple Watchのアプリケーションを使って、モノからの情報を受け取ったりモノに指示を与える。モノを提供する企業はアップルのeSIMサブスクリプションモデルを利用し、モノを購入したユーザーはアップルとだけ契約すれば良い。もちろんiPhoneかApple Watchが必要だ。

 IoTの時代のプラットホームもアップルに持って行かれるかもしれない。

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